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時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

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(65) ファンド法、修正したものの課題は多い

・企業主導は避けられるか?
・JAの役割もっと重視を
・経営安定と所得向上をいかに図るか

 8月29日、野田首相に対する問責決議案が衆議院本会議で可決され、事実上"増税だけ、国会「閉幕」"(8.30付朝日新聞)となった。
 今年度予算の執行を左右する特例公債法案など重要法案が軒並み棚ざらしになるなかで、農水省が今国会で提出した4法案のうち六次産業化ファンド法だけが問責決議成立後の参院本会議で駆け込み成立となった。

◆企業主導は避けられるか?

 8月29日、野田首相に対する問責決議案が衆議院本会議で可決され、事実上“増税だけ、国会「閉幕」”(8.30付朝日新聞)となった。
 今年度予算の執行を左右する特例公債法案など重要法案が軒並み棚ざらしになるなかで、農水省が今国会で提出した4法案のうち六次産業化ファンド法だけが問責決議成立後の参院本会議で駆け込み成立となった。
 同法について、自民党が原案のままでは“「企業主導」の取り組みになること”を問題視、“当面の間、審議に応じない”としていたことを(62)本欄で紹介しておいた。自民党の問題指摘に基づき大幅な修正を加えられた修正法案が8月2日の衆議院本会議で全会一致で可決され、参議院に送られていたのだった。その修正法案がようやく可決成立となったわけである。
 修正が最も目立つのは“機構の目的”を規定している第一条である。“我が国の経済社会の活力の向上及び持続的発展並びに農山漁村の活性化を図るためには”となっていた原案が、“我が国の経済社会の活力の向上及び持続的発展、農山漁村の活性化並びに農林漁業者の経営の安定向上を図るためには”と修正されているし、“我が国農林漁業が成長産業となるようにするため、農林漁業者が農林水産物又は農林漁業の生産活動の特色を生かしつつ”という原案は“地域との調和に配慮しつつ、我が国農林漁業が農林漁業者の所得を確保しつつ、及び農山漁村において雇用機会を創出することができる成長産業となるようにするため、農林漁業者が主体となって、農林水産物、農林漁業の生産活動又は農山漁村の特色を生かしつつ”と修正されている(傍線は新たにつけ加わった文章)。
 “農林漁業者の経営の安定向上”“地域との調和に配慮”“農林漁業者の所得を確保”といった文言が新たにつけ加えられていることに注目しておくべきだろう。もう一つ“農山漁村における再生可能エネルギーの開発、供給若しくは需要の開拓”が、新たな事業分野としてとくに第一条の中で言及されていることも注目しておくべきだろう。


◆JAの役割もっと重視を

 (62)本欄でこの問題を取り上げたとき、施策対象になる六次産業化実施主体を六次産業化法では“農林漁業者等”となっていたのに、ファンド法案では“農林漁業者”になっていることを問題とし、野党時代の民主党は“農業協同組合…が六次産業化の推進に当たり重要な役割を果たすべきものである”と言っていたが、“ファンド法案が六次産業法と表現を変えて「等」を落としたのは今の民主党はJAは「重要な役割を果たすべきもの」と考えていないことを意味するのだろうか”とコメントしておいたのだが、今回成立したファンド法でも、引用した条文にあるようにやはり「等」は落とされている。
 やはり支援対象外となっているが、新法ではJA等について原案にはなかった“支援”する役割を規定した第40条がつけ加わった。こういう条文である。

 第40条 地方公共団体及び農業協同組合…その他の農林漁業者を直接又は間接の構成員とする団体は、対象事業活動の円滑かつ確実な実施が図られるよう、対象事業者及び対象事業活動支援団体に対し、必要な支援を行うよう努力しなければならない。

 組合員の六次産業化―私は、農業のあり方を示しているという意味で賀川豊彦がいった“立体農業”の表現の方がいいと思うのだが―に対しては、むろんJAはファンド法が規定するまでもなく“必要な支援を行う”努力を惜しまないであろう。
 が、こういう条文を入れるなら同時に、JAは農産加工品総販売額の37%(09年度)を占める農産加工の主体でもあることも考慮し、その活動に対する政策的支援のあり方について言及することもあってよかったのではないか。


◆経営安定と所得向上をいかに図るか

 ファンド法には“この法律の施行後3年を目途として、法律の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずる”ことを政府に求める附則がついている。
 原案は5年以内だったのを3年以内に修正したのだが、大修正を加えてもなお、“「企業主導」の取り組みになること”を危惧するからであろう。
 参議院でのこの法律の可決に当たって、附帯決議がつけられたが、“左記事項の実現に万全を期するべきである”とした8項目のトップは“農林漁業者の経営の安定と所得の向上が農山漁村の活性化に必要不可欠であることを十分認識し、本法に基づく制度の運用に当たること”だった。この附帯決議は、ファンド法ばかりでなく、農林水産関連法のすべてにつけてほしい附則といっていい。が、その中核になるはずの農業者戸別所得補償制度をどうするのか、聞こえてこない。こういう附帯決議をされた先生方は、この事態をどうお考えなのだろう。

【著者】梶井 功
           東京農工大学名誉教授

(2012.09.06)