シリーズ

食肉流通フロンティア ―全国食肉学校OBの現在

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第9回 美味しい肉で家庭に幸せな空間を

メンチカツで毎日行列ができる店
技術は買ってくれるお客さんのもの

JR中央線吉祥寺駅北口、サンロードと並ぶ吉祥寺のアーケード商店街のダイヤ街(東急チェリーナード、ローズナード)をしばらく行くと、右手に伊勢丹へと続く広場のような道がある。道の真ん中に長い行列ができている。その行列の先にミートショップサトウがある。毎日11時30分から売られる和牛肉のメンチカツを求める人たちの行列で、1日3000個売れる。

◆メンチカツで毎日行列ができる店

片岡健一さん
片岡健一さん

 JR中央線吉祥寺駅北口、サンロードと並ぶ吉祥寺のアーケード商店街のダイヤ街(東急チェリーナード、ローズナード)をしばらく行くと、右手に伊勢丹へと続く広場のような道がある。道の真ん中に長い行列ができている。その行列の先にミートショップサトウがある。毎日11時30分から売られる和牛肉のメンチカツを求める人たちの行列で、1日3000個売れる。
 この行列は片岡健一さんが店長になる前から、もう10年以上続いている。1個180円を5個以上買えば1個140円に値引きしていることもあるが、それ以上に「ここのメンチを食べたら他のは食べられないわよ」と行列の主婦がいうように「格別のおいしさ」にある。
 おいしさの秘訣は一言でいえば「熟成させた和牛肉を使っている」からだ。
 サトウ食品(東京北区赤羽)の佐藤健一社長は「日本の牛肉は世界一のメインデッシュ」だと誇って良いとの信念を持っており、松阪を中心とする三重の和牛をメインに、東京の築地や銀座に「ステーキ・しゃぶしゃぶ・すきやきの店」を経営し、外国人からも高い評価を得ており、海外からのリピーターも少なくないという。
 佐藤社長をはじめとする専門家の厳しい目で選ばれた和牛肉が、吉祥寺のミートショップサトウでは販売されている。ショーケースをみると豚肉も多少はあるが、ほとんどが和牛肉だ。
 吉祥寺の店がオープンして今年で35年になる。「バブルが弾けるまでは精肉中心だった」が、バブル崩壊後、和牛肉の需要が減ってきたときに、かつて一時やっていたことのある惣菜をもう一度やってみようということになり、メンチカツやコロッケを始めたのだという。
 材料となる肉や野菜は全て国産品を使用している。

◆ペンを持つか、包丁を持つか

ミートショップサトウ
ミートショップサトウ

 片岡さんの実家は茨城県で精肉店を営んでいる。長男だが店を継ぐつもりはなかったという。だが高校を卒業後に大学に進学する意思はなかったが「やりたいこともとくになかった」。そんな片岡さんを見ていたお父さんが「“ペン”を持って仕事をするのか、“包丁”を持って仕事をするのか」どちらだと聞いてきた。事務職はできないと思っていた片岡さんは思わず「包丁」と答えていた。
 それなら全国食肉学校に入って「とりあえず1年間勉強してこい。卒業後は好きにしていい」といわれ、平成3年度27期生として入学する。肉屋の息子だけれども中高校時代は部活が忙しく、店の手伝いをしたことがないので「肉のことは知らない、素人」だったので、最初は劣等感があった。
 だが、寮生活をするうちに「自分は人と接することが好きだ」ということに気づいたという。そして「どうせ始めたことだから、デッカクなりたい」という思いが強くなり、みんなに負けないように勉強した。

◆技術は買ってくれるお客さんのもの

メンチカツは1日3000個売れる
メンチカツは1日3000個売れる

 卒業後は、全国食肉学校の校外実習カリキュラムによる3か月研修を受けたサトウ食品に入社する。最初に就いた仕事は肉を売ることだった。サトウ食品では、全国食肉学校の教育指定店として現在も研修生を受け入れているが、店頭で販売することを中心に教育する。片岡さんが最初に「肉を切ったのは入社して5年過ぎてからだった」という。
 サトウ食品は全国食肉学校の卒業生を数多く採用しているが「売りばかりでつまらない」と退社していった人もいる。なぜ学校で食肉の製造技術を学んできた人に「売りばかり」させるのか?
 今では片岡さんは「どんなにカットが上手くても、売れなければ次の品物を切れないでしよう」「商売は売ってなんぼ」です。「学校で学んできた技術は、何のための、誰のための技術かというと、買ってくれるお客さんのためのもの」だと言い切ることができる。
 入社当時はそのことが分からなかった。佐藤社長に教育され、現場で経験して「売ることの大切さ」がよく分かったのだという。技術は経験を積めば上手くなるが、「売るにはセンスやハートが大事」だがセンスとかハートは「教えられるものではなく、個人個人が内に持っているもの」だから「その良い部分を引き出してあげる」ことが、店長としての役割だと片岡さんは考えるようになっている。
 佐藤社長は「不器用でも売ることを経験して長く続いた人は、会社を辞めて故郷に帰ってから店を始めて成功している」という。実家が食肉関係の仕事をしていたり、いずれ自分で店を持ちたいという夢を抱いて全国食肉学校に入り、卒業後はサトウ食品などに入社して実践の経験を積み、独立する人は多い。成功する人や思ったようにいかない人がでてくるが、商売の基本である「売り」「センスとハート」を養うことをしっかり身につけた人は成功する可能性が大きいということだろう。

◆お客さんが食べて「美味しかった」といってくれるまでが仕事

毎日、長い行列が

毎日、長い行列が

 「肉を売る」ところは、量販店や食品スーパー・生協などさまざまある。そうしたなかで和牛肉専門店であるミートショップサトウはどういう売り方をしているのだろうか。
 例えば、カレーを作りたいお客さんがいる。「カレー用はこれです」と渡したのではスーパーのパックされた肉の販売と同じだ。「そのお客さんはどういうカレーを作りたいのか」「肉は牛がいいのか豚なのか」「ゴロッとした肉の塊があった方がいいのか薄切りが好みか」さらに「長時間煮込むのか、それほど煮込まないのか」。そうしたことを聞き、それにあった肉を提供する。「それが専門店の仕事」と片岡さんはいう。
 単なる「売り買い」ではなくお客さんのニーズに合わせて「喜んでもらう」ことが「専門店の仕事」だということだ。そのために、同じ有名産地の牛でも「1頭1頭違う」からカットしながらこれはステーキにしようとか、ここはすき焼き用にとか考えている。「肉を切って、お客さんが口に入れ、胃袋に入り“ああ、美味しかったね”というところまでフォローするのが自分の仕事」であり、それが「売ること」だという。
 お客さんから「美味しかった」といわれることが一番嬉しいし、「美味しい肉が家庭に楽しい空間をつくり、幸せな気分になって欲しい」というのが片岡さんの願いだ。
 そうした肉へのこだわりとかポリシーをもっていることが、吉祥寺というシビアーなマーケットでサトウ食品が35年間成功してきた秘訣だろう。
 これからの夢はと聞くと、しばらく考えたあと片岡さんは「サトウのブランドをつけたい」という。有名産地であっても1頭1頭違う。そのなかからサトウ食品が選んだ牛だから、産地ブランドではなく「サトウ」のブランドにしたいということだ。
 肉にこだわり、専門店として生き抜いてきた佐藤社長以下サトウ食品の社員の誇りと自信の表れだといえるだろう。

【著者】片岡健一(総合養成科平成3年度 27期生)
           東京赤羽・サトウ食品(株)ミートショップサトウ店長(吉祥寺)

(2008.07.04)