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食肉流通フロンティア ―全国食肉学校OBの現在

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第12回 こだわりぬくことで商品に物語りが

セルフ方式スーパー発祥の店
高齢社会の要請に応える販売方法も

「そのカートは、日本に数台しかない貴重品だった 1953年11月28日のことである」。続いてモノクロ写真の古いカートが映し出される。日本で初めてセルフサービス方式のスーパーマーケットを東京・青山に開店した(株)紀ノ国屋のホームページはこうして始まる。
 その後、全国チェーンを展開するスーパーマーケットなどが次々と設立され、日本の小売業界は大きく変わっていくが、その先駆者が東京・青山の紀ノ国屋なのだ。創業以来の経営理念を守り、独自の品質基準にもとづき世界中から厳選した高い品質の商品を扱う店として、「親子3代に亘って」利用している人もいる。

◆セルフ方式スーパー発祥の店

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菅 幸彦
生鮮商品チーム担当部長

 「そのカートは、日本に数台しかない貴重品だった 1953年11月28日のことである」。続いてモノクロ写真の古いカートが映し出される。日本で初めてセルフサービス方式のスーパーマーケットを東京・青山に開店した(株)紀ノ国屋のホームページはこうして始まる。
 その後、全国チェーンを展開するスーパーマーケットなどが次々と設立され、日本の小売業界は大きく変わっていくが、その先駆者が東京・青山の紀ノ国屋なのだ。創業以来の経営理念を守り、独自の品質基準にもとづき世界中から厳選した高い品質の商品を扱う店として、「親子3代に亘って」利用している人もいる。首都圏の消費者から絶大な信頼を寄せられ、スーパーマーケット発祥の地青山通りのインターナショナルをはじめ東京・神奈川に現在8店舗が展開されている
 菅幸彦さんは、その8店舗全体の精肉商品を担当する責任者だ。

◆スピードより安全・正確に

 実家が精肉店だった菅さんは、高校卒業後に食肉業界で働くことを考えて、全国食肉学校に入学する。同期の入学生は、菅さんのように高校を卒業したばかりの18歳から企業派遣の48歳まで48名だったという。実家で肉になじみはあっても、脱骨したりカットする経験はなかったので、学校で多くのことを学び、楽しかったと当時を振り返る。
 全国食肉学校を卒業後は、実家の手伝いを経て、1年後に紀ノ国屋に入社する。昭和53年のことだ。全国食肉学校の同期生が1年前に入社していて、いろいろな話を聞き「良い会社のようだ」と思ったからだ。
 入社後4年間は、脱骨から整形、熟成までを自社で行う「ミートセンター」で働く。ミートセンターでは、食肉学校で教えられたのと同様に、まず「安全、そして正確さ。その次にスピード」が基本だとされており、それは今でも守られているという。そうした基本的な考え方の一致も入社の動機となったのではないだろうか。

◆高齢社会の要請に応える販売方法も

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 その後、鎌倉店(神奈川県)のオープンに伴って同店に異動し12年間働く。鎌倉店の特徴は、年配のお客さんが多いことだという。紀ノ国屋全体でも65%は55歳以上と顧客の年齢層は高いが、55歳以上のお客さんが75%を占めているように鎌倉店の年齢層はとりわけ高いため、高齢化を先取りした、顧客に合わせた買い物頻度の高い商品の「使いきりパック」など、少量販売の取組みを行ってきたという。高品質を維持しながら、時代の要請に的確に応えていこうということだ。
 さらに平成6年から今年の3月まで青山店の責任者として務め、永年勤続で表彰された入社30年目に全店の精肉商品に責任を持つ立場となった。

◆産地へ出向いて確認される安全・安心で品質の高い商品

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 紀ノ国屋がセルフサービス方式を採り入れるにあたり目標にしたのは「テーマパーク」だという。テーマパークのアトラクションが人びとの目を引き、楽しませてくれるように、「お店の中をいろいろ見ているだけで楽しい」気持ちにさせることを「売場作りの基本」としたという。「心ゆくまで楽しんでもらう」ために「品質第一主義」を貫くというのが紀ノ国屋の経営方針だ。
 商品の買い付けにあたって、菅さんをはじめバイヤーの人たちは必ず産地に出向く。食肉だけではなく、野菜などの生鮮食品から加工食品まで可能な限り、紀ノ国屋の店に並ぶ商品すべてについて現地確認するという。加工食品の場合には、原材料の育つ環境から工場の衛生管理、配送に至るまで確認され、「安全・安心で品質の高い商品」として自信をもてるものだけが厳選されるという。
 「食肉を産地ブランドでは選びません」と菅さんはいう。有名ブランドだから品質が安定しているとはいえないという。長年にわたり全国の産地を歩いて、実際に供給される肉の品質を真摯にみてきた経験に裏打ちされた言葉だといえる。

◆味の微妙な変化に気付くお客も

 現在、紀ノ国屋がメインにしている牛肉は、循環型農業を実践している牧場で生産される山形産黒毛和牛で、子どもを生んでいないメス牛を基本にしている。これを商品情報や調理法などを直接伝え、顧客のニーズや要望に的確に応えられる「対面販売」で販売している。商品の品質の「微妙な変化でもいつも召し上がっているお客様は味をよく知っているので、ご指摘をいただきます」だから絶対に妥協することはできないと菅さんはいう。
 例えば、県産フェアを開催するときに「その県産の牛が10頭欲しいと思っても、紀ノ国屋の基準に合うものが1頭しかなかったら、その1頭しか買いません。逆に10頭以上良いものがあれば全部買うこともありますよ」という。
 牛肉ひとつとってもそこに物語りがあり、東京や神奈川で高い品質を求める消費者から、長年にわたって信頼されてきている紀ノ国屋のこだわりをみた。そして、その先頭に菅さんがいる。
 取材の終わりに、全国食肉学校の後輩の人たちに何かメッセージをとお願いすると、今でも同期の人たちとは情報交換をしていて「人と人との繋がりを大事にしてください。特に同期の人たちとの繋がりは大切にしてください」という答えが返ってきた。

【著者】菅幸彦(第5期生 昭和51年度)
           (株)紀ノ国屋商品部グループ生鮮商品チーム担当部長

(2008.10.01)