シリーズ

食肉流通フロンティア ―全国食肉学校OBの現在

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第13回 変化するニーズを的確にとらえ応えていく柔軟性を

「食べる人」から食肉の仕事が「天職」に
対面サービスで顧客との信頼関係が生まれる

「いまはこの仕事が天職だと思います」「仕事が好きというよりも、仕事に好かれている感じ」なのだという。全国食肉学校に入るまで「食べる人」ではあっても「肉についてはまったくの素人でした」と、杉本頼昭さんは話す。
 杉本さんは、明治33年創業、いま東海地域でトップといわれる"肉のスギモト"杉本食肉産業(株)の杉本豊繁社長の次男だ。だが、食肉業界にはまったく興味がなく、自宅と店が別だったこともあって「売り場に立ったことは一度もありません。普通の人と同じ食べるだけの人」だった。

◆「食べる人」から食肉の仕事が「天職」に

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杉本頼昭課長

 「いまはこの仕事が天職だと思います」「仕事が好きというよりも、仕事に好かれている感じ」なのだという。全国食肉学校に入るまで「食べる人」ではあっても「肉についてはまったくの素人でした」と、杉本頼昭さんは話す。
 杉本さんは、明治33年創業、いま東海地域でトップといわれる“肉のスギモト”杉本食肉産業(株)の杉本豊繁社長の次男だ。だが、食肉業界にはまったく興味がなく、自宅と店が別だったこともあって「売り場に立ったことは一度もありません。普通の人と同じ食べるだけの人」だった。
 高校も大学も普通の学校に入り、大学卒業後も食肉とは縁がない会社に就職し、普通のサラリーマン生活をおくっていた。そんなときにスギモトで働きはじめていたお兄さんと話すうちに、食肉業界に興味を持つようになり、さらに自分も食肉業界で働いてみようと考え、会社を辞めて、父親の薦めもあって全国食肉学校に入学する。
 杉本さんが入学した平成14年はBSE発生の影響もあって、同期生は学校開校以来もっとも少ない12名だった。そのうちの1人がこのシリーズ第4回に登場した長野県飯田市の“肉のいちのせ”の市瀬宏専務だ。同期生の数は少なかったけれど「充実していて楽しかった」学校生活をおくり、食肉の基本的な知識と技術を身につけて名古屋に帰ってくる。
 そして今、日本で一番元気な名古屋の松坂屋本店地下の食料品売り場にあるスギモトの直営小売店舗で、毎日、お客さん相手に奮闘している。

◆食肉産業を通じて食文化に貢献しようと100余年

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名古屋の松坂屋本店地下の生肉店

 杉本食肉産業(株)は、明治33年に杉本弥左衛門氏が名古屋市中区南園町に精肉店を創業したのが始まりという老舗中の老舗。現在では「スギモト」の愛称で親しまれ、愛知県を中心とする中京地域の食生活に欠かすことのできない存在となっている。
 創業以来100余年の歴史をもつスギモトのモットーは「食肉産業を通じ、食文化の向上に貢献しよう」である。そしてこれを実現するために、生産・加工・販売まで食肉流通の川上から川下までトータルな事業を展開している。
 杉本さんが働く松坂屋本店には、本館地下1階のグルメワールドに、直営の精肉店スギモト、惣菜のブラビィアンスギモトが、そして北館地下1階レストラン街には直営レストランのキッチンスギモトと業態が違う3店舗を展開している。

◆お客さんとふれあうことで数々のアイディアが

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お客が絶えることない店内

 杉本さんは「名目上は惣菜店の責任者」だが、精肉店にいることが多く、手が足りないときにはレストランの手伝いもする「仕事に好かれる」毎日を過ごしている。多くのお客さんと毎日ふれあい、話し、お客さんのニーズの変化を感じ取るなかで、さまざまなアイディアが生まれてくる。
 例えば、ショーケースに肉を置くパットは普通は金属製だが、「木製にしたら見た目も柔らかく品がいいのでは」というアイディアが出される。「それはいいかもしれない」と思ったらとにかく試してみる。そしてお客さんの反応が悪ければ即やめることにしている。
 カットされた肉を買って帰ったお客さんは、その日のうちに調理して食べるとは限らない。家庭用冷蔵庫で薄くカットされた肉をそのまま冷凍すると、解凍したときにスライスした肉がくっついて調理がしにくくなる。そこで肉1枚づつに、薄いシートをはさんだらどうかというアイデアが出される。即日実行したらお客さんから喜ばれたので、そのまま今も継続している。
 老舗のスギモトには、優れた職人さんもいる。その人たちの「目利き」や「技」も大事で、それをどう若い世代が継承していくかを考えている。その反面で時代の流れとともに変化していくお客さんのニーズを的確にとらえて、柔軟に対応を考え、商品化しなければいけないと杉本さんは考えている。

◆対面サービスで顧客との信頼関係が生まれる

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 松坂屋本店の精肉店舗では、松阪牛のほかに九州方面の牛肉を中心に品揃えされている。どれが売れるのか聞いてみると、「立地8割ですよ」という答えが返ってきた。同じ店の中でもどこに置かれるかで売れ方が違うのだという。いまはショーケースの正面から見て左端に松阪牛があり、右端に豚肉が並べられている。その豚肉を正面に持ってくれば豚肉が一番売れるのだという。それが「立地」ということなのだ。
 店の隅から店内をみているとひっきりなしにお客さんが入ってくる。「お久しぶりですね。今日は何を?」とスギモトの店員さんがお客さんに声をかけている。お馴染みさんが多く、店員さんとお客さんとの信頼関係ができている。
 杉本さんは「対面することがサービスなんです。そしてサービス料をいただいているという感覚でみんな働いている」という。それが、食品スーパーなどの「パックされた肉のセルフサービス販売」とは違う「対面販売」の良さであり、お客さんから信頼される由縁だともいう。

◆広い視野で時代の流れを読み取ることが

 これからの夢はとの問いに、「昔からいる職人さんが、自分が辞めたあとでもスギモトはこういう会社になって欲しいと期待してくれていたり、若い人がこういう会社にしたいという希望を持ち、それを実現できるような会社にしたい」。また「松坂屋本店の精肉店舗の売り上げ目標を今の倍にしたい」ともいう。
 全国食肉学校の後輩へのメッセージを、とお願いすると「柔軟性を持って、考える視野を広くして欲しい。柔軟性とは、時代の変化を読み取ること」と語ってくれた。

【著者】杉本頼昭(総合養成科第38期生 平成14年度)
           杉本食肉産業(株)課長

(2008.10.31)