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私と農業

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世界の水を枯渇させて食料を輸入する日本

その4(最終回)

ふれさせていただきますが、この問題は農家の問題であると同時に農家以外の国民の問題でもあり、何といっても農政の問題であります。多角的な切り口があり、経済原理だけで論じてよいのか、経済原理を超えて議論すべきか...。スポーツで言えば心技体が整ったバランスの良い議論がなされていないのが実情のようです。

 一時期ボーダーレスブームの頃は、評論家によっては、海外のコストの安いところで作って、安く輸入すればいいじゃないかと主張する人もいて、それはちょっと違うと思ったことを記憶しています。
 日本の食料自給率はカロリー換算40%程度であり、先進諸国の中では最下位です。これを国家危機と捉えて50%以上にもって行こうとする国の方針もありますが、国民の理解や啓発、農業の生産加工技術、経済的裏づけが持続可能な形で現れてこないと実現することが難しいのでは、と思います。
 ファーストフード店を否定するわけではないのですが、子どもの頃地方にいて、特別なものは何も無かったのに取れた魚を食べ、取れた農作物を食べていたあの幸せ感…というか、気持ちの和みは何だったのかと考えることがあります。

◇   ◇

 食パン用の小麦1kgを輸入すると同時に、枯渇しつつある世界の水を2トン輸入したことになるそうです。牛肉の場合は1kgで20トンの水が必要です。食料輸入の隠れた側面として、膨大な量の水を消費(輸入)している事実があり、見えないところで水の枯渇を促進させているのです。
 日本の降雨量は、世界平均のおよそ3倍あります。水の豊富な国で耕作をやめ、世界の有限な地下水を枯渇させながら、食料を輸入している不思議さをもう少し考え直してみる必要があるのではないでしょうか。
 稲作の歴史は数千年前に遡れると思いますが、広葉樹林の保水力ともども雨水を利用して、連作に耐え環境保全にも効果を発揮してきたと思います。近年盛んに言われる持続可能な環境、社会、農業の一つの典型は身近に存在しているといえます。

その1その2その3はコチラから)

【著者】上坂清保
           アリスタライフサイエンス(株) 日本事業本部本部長

(2010.08.12)