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「スプラサイド」系統一元販売の実現を記念して 

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【対談】系統農薬事業を考える 日本の農家が元気になるために 上園孝雄 JA全農肥料農薬部長・石原英助 クミアイ化学工業(株)代表取締役社長

・みかんや茶農家にとっては常備薬的存在
・系統メーカーの原点に戻って普及に取組む
・園芸・果樹分野へ力を入れ充実を
・農家の「より近くに。」を実践

 長年にわたってかんきつや茶生産農家からカイガラムシ類の特効薬としてなくてはならない薬剤として支持されてきた「スプラサイド」剤の製造・販売の権利をJA全農がシンジェンタ社から取得。この10月1日からクミアイ化学より系統一元の製造販売が開始される。権利取得には全農が昨年創設した「農薬開発積立金」が初めてあてられた(詳細:/archive03/news/2011/09/news110902-14743.html)。これまでの経過とこの剤を系統一元販売する意義、これからの系統農薬事業の在り方などについて、上園孝雄全国農業協同組合連合会肥料農薬部長と石原英助クミアイ化学工業株式会社代表取締役社長に忌憚なく語り合っていただいた。

生産現場で困っている防除課題に応える


◆世界的には市場縮小で製造・販売 中止だが国内では権利を取得

 ――まず殺虫剤「スプラサイド」が、この10月からクミアイ化学の製造・販売が開始されますが、この経過について、上園部長からお願いします。
上園孝雄 全国農業協同組合連合会肥料農薬部長 上園 2010年にスプラサイドを日本国内で販売していたシンジェンタ・ジャパン社から、スイスにある本社では現在シンジェンタ社がもっている薬剤ラインナップの見直しをしており、スプラサイドは全世界で一昔前には100億円の実績があったが、ここ数年では30億円の実績に落ち込んでおり、製造・販売を止めたいといっている。しかしながら、この30億円のうち20億円が日本での実績なので、日本の農業にとって大きな影響があり、シンジェンタ・ジャパン社として懸念しているという話がありました。
 全農としていろいろ検討したところ、国内ではカイガラムシの特効薬として使われており、なくなると農家が非常に困る剤であるとの判断をし、継続を要望しましたが、本社の判断はくつがえらないとの結論でした。
 それではどうしようかと悩んだのですが、2011年3月に「農薬開発積立金」を創設いただきましたので、財源の裏付けもあり「日本の果樹・茶農家の営農を守るために」全農が日本国内における製造・販売の権利を買取るという判断をし、全農経営管理委員会のご承認もいただき、シンジェンタ社と権利取得の契約を締結しました。


◆みかんや茶農家にとっては常備薬的存在

 ――それだけこの剤は国内農業にとって欠くことのできない重要な存在だということですね。
 上園
 スプラサイドは1967年に登録・販売開始されています。通常は農薬にはライフサイクルがあり、古い剤はより機能の高い新剤に置き換えられていきますが、なぜこの剤が45年間も継続的に農家に認められ使われてきたかというと、カイガラムシの特効薬であること、そして他の剤に比べて少し大きくなったカイガラムシにも効果がある、つまり防除適期が広いという使い勝手の良さ、そして効果が非常に早く出て分かりやすい、さらに古い剤ですのでコスト的に有利だということで、みかん農家や茶農家にとっては常備薬的な存在だということです。
 したがって全農としてはこの剤を残さなければいけないと判断したわけです。


◆系統メーカーの原点に戻って普及に取組む

 ――クミアイ化学(以下クミ化)に製造・販売を任せることにしたのは、全農の判断ですか。
 上園
 全農がクミ化にと考えご相談をし、快諾をいただきました。
 その理由は、いままでも系統メーカーとして重要な位置づけにあったことと、農薬メーカーとしてみたときに、新農薬および製剤の研究・開発面で力をもっていて、全農が連携すべき一番手のメーカーの一つだということです。
 さらに、シンジェンタ社が直接販売をする以前の2000年まで、クミ化はスプラサイドの製造・販売をしており、この剤について良くご存じだということ。そしてこの剤の原体は物理性に特長があり高い製剤技術が必要なのですが、この点でも世界有数の製剤技術をもっておられることがクミ化にお願いした大きな理由です。
 ――クミ化は全農からの話をどう受け止められたのでしょうか。
石原英助 クミアイ化学工業株式会社代表取締役社長 石原
 スプラサイドの権利取得は全農の英断だと思いました。そしてこの期待にどう応えるかと同時に、製造から流通・販売までの責任の重さを社員一同感じました。当社には、全国に100名の販売員と30名の技術担当者がいますが、彼らがJAの皆様と一緒になってどう普及していくかが私たちに課せられた課題だと考え、普及用の冊子を作成するなどの準備をしています。
 そしてJAや県連・県本部の方たちと一緒に普及活動をしていけば、新しい使い方などが出てくるのではないかと思います。そういう意味でも系統メーカーの原点に返って取組むいいチャンスを与えていただいたと考えています。


◆園芸・果樹分野へ力を入れ充実を

 ――いままでのスプラサイドの系統シェアは4割弱でしたね。
 上園
 平均で35%前後でした。これからは系統流通だけになりますので、JAやTACのみなさまとも協力をしあって、従来の商系流通の部分もきちんと確保する努力をしていきます。
 そして系統農薬事業は、水稲分野では系統一元の有力剤が多くあることもあって強いのですが、園芸は水稲に比べシェアも低く取組みを強化する必要があり、これを機会に、今後は農薬開発積立金も活用して園芸剤分野を充実していきたいと考えています。
 石原 かんきつ類から茶そしてリンゴ、カキや落葉果樹まで幅広い分野で農家の方が使えて、しかも安価で安全性が高く、散布しやすいなど使い勝手がよい剤ですので、販売を担当するものとしては胸を張って薦められますしやりがいのある仕事だと思います。
 ――そういう意味では系統に結集してもらういい機会でもあるわけですね。
 石原
 もう一度、私どもは系統メーカーとしてJA及び組合員の方々と一緒になって農協事業の原点に返って努力を致したいと思っています。そうすることで日本農業に元気になってもらうことが大事ですし、それに私たちが企業活動として貢献していくことだといえます。私は企業は社会に貢献することで利益を得ることが原点だと考えておりますし、私たちは系統事業の一翼を担っていますから、まず農家に貢献することだと考えています。
 そして従来は水稲が中心でしたがこれからは園芸にも力を入れていこうと考え園芸用の新剤を開発した矢先のことで、その旗印となる第1号がスプラサイドですから、自信をもってリンゴ農家などへ行くことができます。


◆農家の「より近くに。」を実践

 上園 基本的な考え方はまったく同じです。全農は「農薬開発積立金」を創設しましたが、これは「現場で農家が困っている防除課題を解決する」ためです。つまり、私たちが一番重視するのは、現場のニーズです。そしてこれからは水稲だけではなく、園芸分野でも貢献していきたいと考えています。
 石原 系統事業とはなんなのかが「なるほどよく分かったよ」と農家の方にいっていただけるよう、一所懸命に取組んでいきたいと考えています。
 本来、すべての農家は農協の組合員です。それは暮らしの面から営農・集荷そして販売まで農協が担っているわけです。
 しかし、世の中が発達すると「便利」になり、農家のニーズも変わってきます。系統メーカーであってもそれをしっかり掴んで事業展開しないといけないと思います。
 「より近くに。」と全農さんはいっておられますが、私たちもこれを受けて、農家の方により役に立つよう模索していきたいと思います。


◆新たに樹木分野での普及も視野に

 ――農家のニーズを見ながら新しい使い方を開発していくことも大事ですね。
 上園
 この剤は上市から45年と古い剤ですが、系統一元化を契機に、再活性化したいと考えています。クミ化と全農でプロジェクトを組みマーケティングをしており、こういう場面でこういう使い方をと提案できるよう研究しています。それ以外にも例えば、農作物ではありませんが、樹木のカイガラムシ被害で非常に困っているという声があり、「樹木の分野で普及してみたい」という現場の声もあります。


◆農薬開発積立金活用しさらなる事業を展開

 ――全農は上園部長が再三ふれられたように「農薬開発積立金」を創設され、スプラサイドがその活用第1号となるわけですが、今後の活用と系統農薬事業についてどのようにお考えですか。
 上園
 この積立金は、いくつかの考え方があります。一つは、新規農薬の開発です。しかし、世界的には海外メーカーが5、6社に集約寡占化し、開発競争が非常に厳しくなっています。そのような中で開発対象作物を世界的なメインクロップであるトウモロコシ、大豆、麦、棉などに絞る傾向にあります。
 日本は水稲ですし、野菜・果樹もあります。耐性や抵抗性の問題もあるので有効な新剤は将来的にも必要です。全農のこの積立金を使って水稲や野菜・果樹の剤の共同開発を進めたいものです。
 二つ目は、最近は安全性が重視されるので、登録を維持するためにかなりのコストがかかり、スプラサイドのように一定以上の売上げがない剤は製造・販売を止めるような流れがますます強まりそうです。世界的には廃止になるけれど、日本ではどうしても残したいというときに既存剤の権利の買取りをしていくことは今後もあるかもしれません。
 これから農薬事業を進めていくときに大事なことは、新規農薬の開発力だと思います。そのときに海外の巨大メーカー(ビック6)が凄いといわれますが、日本の農薬メーカーの開発力も大変素晴らしいものがあります。世界ではビッグ6と日本のメーカー以外新規農薬の開発をしていないといってもいいくらいです。海外メーカーはその豊富な資金力で開発をしますが、日本のメーカーは効率的かつ洗練された開発手法によって開発をしています。そういうなかでクミアイ化学は素晴らしい研究開発力を確立しておられ、海外のビッグメーカーも認めていて、クミ化と連携したいといっています。
 スプラサイドを一緒にという私たちの思いはそういうところにもあるわけです。

スプラサイドの適用害虫


◆「農家のために」が系統事業の基本

 石原 研究開発の効率をいかによくするかが私たちの最大のテーマです。そしてクミ化が本当に系統メーカーとして農家の皆さんのお役に立てるか、今後ますます重要になってきます。その機会をスプラサイドが与えてくれたといえます。
【対談】系統農薬事業を考える ――そのときに「系統事業」というのはどういうことを指しておられるのでしょうか。
 石原
 誰のために一番いいことをするのかといえば、「農家のためになる」ことです。「クミアイ化学」という社名もそれを表しておりますし、そのことを具現化したのが今回のスプラサイドです。さらに、これに次ぐ候補剤を持っていますので、ぜひ全農さんとの共同開発を早く実現させたいと思っています。そのことで農家の皆さんのご理解をいただけると思っています。
 上園 共同開発は全農としても望むところですし、早く実現したいですね。
 ――ありがとうございました。

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