【小松泰信・地方の眼力】白札とは白旗の意味ですね2016年12月14日
言うまでもないが、TPPが9日国会で承認された。与党からは造反はなかったとのこと。JAグループの政治組織「農政連」が推薦した山田俊男議員も藤木眞也議員も白札(賛成票)を投じている。
◆TPP承認と苦し紛れの弁明
日本農業新聞(10日)によれば、自民党農林議員は、「日米FTAになれば日本農業はもたない。TPPを承認すれば日本はあくまでTPPを目指すことが明確になり、日米FTAを押し返す根拠ができる」「発効しないが、TPPを目指すことは変わらないので農業予算獲得にはプラス」とのこと。苦し紛れの弁明。"党議拘束が厳しい。次回の選挙で公認もらえなかったら困るんです"と、ルビでも振りたいところである。
安倍首相はアメリカ、そしてトランプの言いなりになって日米FTAを締結する。反対すべき時に身を挺しても反対する。それができない者はいつまでたっても反対できないのが世の常。党の公認は得られても、有権者からの公認は得られない。
◆鈴木憲和議員あんたはえらい。それに引き替え、情けないトシオにシンヤ
結局、TPPの採決において、造反したのは自民党の鈴木憲和衆議院議員の棄権のみ。彼は、「初当選した選挙の公約がTPP反対だった。自分なりにけじめをつけるため賛成できなかった」として衆議院本会議を退席し、採決を棄権した。そして党農林部会長代理職を辞任した。この党議拘束違反に対して、自民党の二階幹事長は「処分に値しない。処分とはよほど立派な議員にすることだ。処分することでクローズアップしてやる必要もない」と、渋面を作りつつ太っ腹なところで恩を売る。
詮無いことだが、日本農業新聞は同日の論説において、「TPPに反対、慎重論を唱えて当選した与党議員は有権者に顔向けできるのか。自らの政治信条に反しないのか」と、指弾している。山田氏は2日のメルマガで事前告知していたためか投票行動へのお知らせはまだない。
一方、藤木氏は、「TPP協定ならびにTPP関連法案の採決について」と題してメルマガでご報告。
「我が国農業を取り巻く環境がますます不透明さを増すなか、国際交渉はもちろんのこと、日本農業の国内対策についても、真に農業者の思いに寄り添い、農家の代弁者として与党内で発言していける環境を守ることが大事であること」が一番の理由のようだ。TPPへの賛成という代弁をどこのだれが頼んだのだろうか。寄り添うとは、思い上がりも甚だしい。「残りの任期、発言力が小さくなっても良いのかという先輩議員からの助言もあり決断しました」とは、先輩議員のレベルが低すぎる。「現場を知らない人間に我々農業者のオールを任せるわけにはいきません」と、いつかどこかで聞いたキーワードがちゃっかり入れ込まれている。芸がないけど、心配ご無用。もうだれもあなたにオールは任せませんから、残念!
トシオとシンヤに次は無いとしても、推薦した農政連には、この問題への説明責任とけじめが問われなければならない。
◆言っとくがな、オレは一歩も引かねえぞ
と、意気軒昂なのは御年80歳の農民作家山下惣一氏である。『地上』(2017年1月号)において、6年間参加してきたTPP反対運動について総括するとともに、闘争継続を宣言している。注目すべきは次の四点
「TPPとは国家主権を多国籍企業に明け渡し、国民生活を餌食として差出す売国協定」
「グローバリゼーションの四半世紀はついにここまできた。この先はもうない。あとはマネーの力によって人が人を食う陰惨な時代が続くことになろう。過労死や過労自殺などはその前兆で、これがTPPが示す未来だ」
「そのような世の中にオレは反対なのだ。そんな未来を許してはならない」
「TPPに反対することは別の道を模索することでもある。...突く牛は死ぬまで突く!」
その"別の道"とは、「小農学会」の立ち上げである。そして、「そう『小農』。暮らしを目的とした小規模農業の研究会です。私たちはふるさとの風土で日本人のための農業を営み、その食生活を支え、日本人によって食い支えられる、そんな農業と地域社会を目指したいと考えています」(『家の光』2017年1月号 特別寄稿「主権国家の農民として意見を表明します」)と、これからのビジョンを披瀝している。
これは、奥野全中会長や小泉議員らがお嫌いな、"ガラパゴス"的日本農業復権再興宣言である。しかし、ガラパゴス化反対、輸出促進、競争力強化等々とは比べようも無いほど国家国民にとっては力強い宣言である。もちろん異議無し。
◆ユウジばかりかコウゾウも大問題発言
ところで、山下氏の爪の垢を煎じて飲ませたくなる人が自民党周辺には何と多いことか。金丸提言が大きく取り上げられた11月12日の日本経済新聞4面下方隅に"企業の農業参入 規制改革が必要 行政レビューで意見"という見出しで、わずか22行ほどの記事があった。載っているのは金丸提言に優るとも劣らない問題発言。「政府は11日、国の予算のムダを外部有識者らが点検する『行政事業レビュー』を内閣府で開いた。3日目のテーマの一つが「農業」。民間企業の農地保有を促すため、規制改革を積極的に進めるよう求める意見が出た」として書き出されている。またいつものことかと思いつつ、電子版(2016/11/11 21:44)を開くと山本幸三行政改革相や有識者らが驚くべきことを語っている。
「山本氏は『農業は株式会社にやらせたらよい』と述べ、国家戦略特区を除いて企業による農地所有ができない現行制度の問題点を指摘。有識者側も『企業の下で個人農家が働ければ生活が安定する』『実現のための規制改革を期待したい』などと賛成意見が相次いだ。...農業は安倍政権が重要政策に掲げており、山本氏が所管する規制改革推進会議でも検討が進む」である。
どこまで農家や農業を愚弄すれば、どれだけ企業を持ち上げれば気が済むのだろうか。農業・農協関係者の耳目が全農問題に集まっているすきに、ここまでのことが臆面も無く語られている。それは、われわれや頓馬で腰抜けの国会議員には見えないところで、着々と布石が打たれていることを示唆している。あんたらの白札は白旗を意味していた訳よ。
今日より明るい明日は無い。悲しいことだが、"疑わしきは反対"の姿勢が求められている。
ということで、言っとくがな、オレも一歩も引かねえぞ。
「地方の眼力」なめんなよ
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