(239)世界史を横に見る【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2021年7月9日
日曜日の夜、大河ドラマを見ていたところ主人公の渋沢栄一が1867(慶応3)年に開催される第2回パリ万国博覧会に派遣される話が出てきました。「そうか、2回目のパリ万博も同じ年だったな」と思った次第です。どうも1867年というと明治維新に関心が行きがちです。これは思考のクセかもしれませんね。
時間を少し戻すと、第1回万国博覧会がロンドンで開催されたのは1851年、ビクトリア女王の大英帝国最盛期である。18世紀半ば以降の工業の発展により当時の英国は圧倒的な力を持っていた。ロンドンはまさに世界の中心のような雰囲気を持ち、実際にそれだけの経済力も備えていたと考えられている。
ロンドンの万国博覧会の成功を知った米国の実業家達が中心となり、1853年にはニューヨークでも万国博覧会が開催されている。着々と力を付けてきていた米国も負けてはいなかったという訳だ。この年、日本の年号は安政、ペリーが浦賀に来ている。
翌1854年、歴史の授業ではここで安政和親条約(米国・英国・ロシアと締結。翌年にはフランス、オランダと締結)ということになる。
この前後、世界では現代以上に様々なことが起こっている。まず、清朝の中国では1850年から太平天国の乱がおこり、その後10年以上続く騒乱の時代となる。東ヨーロッパでは1853年からクリミア戦争である。ナイチンゲールの活躍は日本でも良く知られているが、彼女は1820年生まれということから当時は30歳そこそこということになる。
ナイチンゲールはイギリス人であり、ロンドンの病院に務めていたが、1854年にイギリスがクリミア戦争に介入し、ロシアに宣戦布告したためにその後の人生が大きく変わり、世界的な有名人になった訳だ。
フランスでは1852年、ナポレオン3世による第2帝政がスタートした。第1回のパリ万国博覧会はナポレオンの治世下で1855年に開催されている。
南アフリカでは、1854年にボーア人(アフリカーナー)によりオレンジ自由国が建国される。中学時代に初めてこの名称を聞いた時はオレンジがそもそもオランダ王家の名前(Oranje-Nassau家)であり、南アフリカを流れる川に付けられた名前だとは知らず不思議な思いをしたものだ。この国はその後、国内でダイヤモンドが発見され、そこで働く英国の鉱山技師達の保護を名目にして英国に領有化され、さらにボーア戦争へと続く。
米国では1854年にカンザス・ネブラスカ法という有名な法律が出来ている。これは米国内でカンザス準州とネブラスカ準州を作り、各々の準州内で奴隷制を容認するかどうかを決定できるとした法律である。南北戦争が起こるのはこの7年後の1861年、そしてリンカーンによる奴隷解放宣言はさらにその2年後である。
ペリー来航時の世相を風刺した「泰平の眠りをさます上喜撰(蒸気船)たった四杯で夜も寝られず」という狂歌があるが、当時は世界も大きく動いていたのである。
さて、先週の大河ドラマは第2回パリ万博(1867年)の直前であった。日本は既に安政の大獄を経験し、池田屋騒動、長州征伐などを経て徳川慶喜が第15代将軍の時代である。この年、ヨーロッパ大陸ではオーストリア=ハンガリー帝国が成立し、米国はロシアからアラスカを買収して領土を拡大、英国はマレー半島南部を直轄の植民地としている。
渋沢栄一が随行した徳川昭武は嘉永6(1853)年の生まれ、当時14歳、現代でいえば中学2年生である。幕末から明治維新の動乱期に日本を離れた経験が本人にどう影響したのかはわからない。当時の世界は彼にどう映っていたのであろうか。その後、明治以降の中学高校の歴史ではほとんど登場しない彼のことを少し考えてみた次第である。
ちなみに、彼らがパリに向かった2年後の1869年、日本では既に大政奉還、五カ条のご誓文を経て、版籍奉還が実施されている。日本は急速に変化していたが、世界レベルで見ると、ほぼ10年をかけて建設したスエズ運河が開通し、アラビア海からロンドンまでの航行距離が大幅に短縮され新しい国際物流ルートが稼働し始めている。同じ年、米国では大陸横断鉄道が開通、こちらも19世紀後半の大きな飛躍が始まっている。
* *
世界史を「縦」ではなく「横」に見ると、少しだけですが、視点が広がる気がします。ひとつの物語としては一直線に過去を振り返るのはわかりやすいですが、実は1つに見える過去の同じポイントでも非常に多くのことが同時多発的に動いているということですね。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
重要な記事
最新の記事
-
たまねぎべと病 近畿、中国、四国で多発のおそれ 令和6年度病害虫発生予報第1号 農水省2024年4月18日
-
春メロン4億円の販売を目指す JAくま2024年4月18日
-
安全性検査をクリアの農業機械 農用トラクターなど1機種25型式を公表 農研機構2024年4月18日
-
JAグループのガソリンスタンドに急速充電器「DMM EV CHARGE」導入2024年4月18日
-
【スマート農業の風】(3)データ駆動型農業へ転換しよう2024年4月18日
-
入会牧野【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第287回2024年4月18日
-
チューリップ切り花が復活の兆し【花づくりの現場から 宇田明】第33回2024年4月18日
-
4月1日新事務所移転 緑の安全推進協会2024年4月18日
-
東京農大と共同研究 良食味米「コシヒカリ」で低糖質米を実現 栽培手法を確立 ジェイフロンティア2024年4月18日
-
Oisix「おいしくアップサイクル ふぞろいキウイチップス」など3種発売2024年4月18日
-
「飯縄山」からの伏流水で育つ米と玄米の直売市開催 長野県飯綱町2024年4月18日
-
「食品製造現場におけるロボット等導入及び運用時の衛生管理ガイドライン」を策定 農水省2024年4月18日
-
「みどりの食料システム法に基づく基盤確立事業」実施計画認定を取得 アイアグリ2024年4月18日
-
微粉砕加工で機能性を付与 北海道産小麦粉「CRONOS」発売 小田象製粉2024年4月18日
-
発色が早いわい性ハボタン「ローブ ホワイト」種子発売 サカタのタネ2024年4月18日
-
日本の原風景「棚田」の魅力を1枚に「棚田カード」第4弾を発行 農水省2024年4月18日
-
鳥インフル ブルガリアからの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年4月18日
-
次世代へ繋がる循環型酪農・林業へ 三井住友フィナンシャルグループと協業 ホウライ2024年4月18日
-
国内最大級のドローン専門展示会「第9回JapanDrone2024」6月5日から開催2024年4月18日
-
吉田羊が情感たっぷりに 新CM「すごいよ パウダールウ」篇 エスビー食品2024年4月18日