油断は大敵【小松泰信・地方の眼力】2021年9月1日
落語家の三遊亭多歌介(さんゆうてい・たかすけ)さん(享年54)が8月27日、新型コロナウイルス感染症のため死去。家族も感染し療養中とのこと。お悔やみ欄でその名を知り、芸風を知りたくてYouTubeで見た。「コロナを恐れてはいけない。笑いで免疫力を上げよう。ワクチンは打たないほうがいい」等々で笑いをとっていたが笑えない。油断することなく、「正しく怖がる」しかない。

怖くないですか? カロリーベース食料自給率37%
正しく怖がるといえば、わが国のカロリーベースでの食料自給率。8月25日、農林水産省は2020年度の当該食料自給率が37%になったことを公表した。1993年度や2018年度に並ぶ過去最低の数字。ちなみに、記録的な冷夏によって米が大凶作となり、「平成の米騒動」と総称される米市場の混乱が生じたのが1993年。
成人の基礎代謝すら自賄いできないこの国のありように、暗澹たる気持ちを禁じ得ない。
政府は食料・農業・農村基本計画で、2030年度の当該食料自給率を45%とする目標を示している。しかし、国家プロジェクトとして位置づけるぐらいの姿勢で自給率向上を目指さねばならない状況にあるにもかかわらず、力強いメッセージは聞こえてこない。どうひいき目に見ても、目標から遠ざかることはあっても、近づくこと、まして目標を達成するとは思えない。
加えて、JAグループにおいても、食料自給率の向上のために、何をなすべきかを明示し得ていない。この10月に開催される第29回JA全国大会の「組織協議案(案)」(5月時点)を見ても、枕詞的に食料自給率の低さを嘆き、その向上に貢献する姿勢は示されてはいるが、具体策は示されていない。
同協議案(案)の「『食』『農』『地域』『JA』にかかる国民理解の醸成」において、「特に、食料安全保障の強化と食料自給率の向上に関連して、国民が必要として消費する食料はできるだけその国で生産する「国産国消」をJAグループ独自のキーメッセージとして提起し、その意義等に関する国民理解醸成に取り組み、消費者が国産農畜産物を積極的に選択するなどの行動変容をめざします」
としている。要は、消費者に農家が作った国産農畜産物を意識的に買うことをお願いする、というレベルに止まっている。
日本農業新聞(8月28日付)の論説は、自給率低下の歯止めをかけるためには、「生産基盤の強化こそが重要」とする。そのうえで、「消費者への働きかけも大事になる」として、農水省が開始する国民運動「食から日本を考える。ニッポンフードシステム」について、「食を支える生産基盤を守り強化することへの理解を広げ、米の消費拡大や国産農畜産物の積極的な選択にもつながるよう効果的に展開すべきだ」と注文を付ける。
でもなんか、みんなズレてる気がするんですけど~
再考・こめ油普及
2018年5月30日の当コラム「こめ油に加油!」において、油脂類の摂取増加に注目し、国産米ぬかを用いたこめ油の振興に積極的に取り組むことを提言した。そのことによって、3%しかない油脂類の自給率が向上することに加えて、生食用米だけではなく飼料用米の生産も促進されることで畜産物の自給率も向上する。もちろん、水田稲作の維持などに好影響ももたらす。まさに一石三鳥の効果を期待してのものである。
築野(つの)食品工業株式会社(本社:和歌山県伊都郡かつらぎ町)は、2020年5月に全国の20代~60代の男女約1万人を対象に行った調査から、「こめ油を日常使いすることは、使用用途が肥料・飼料など限られていた米ぬかを食として活用することになり、日本の食料自給率向上にもつながります。少しでも多くの方にこめ油を知っていただき、選んでいただけることは、日常における社会貢献活動につながる意義のあることと考えています」として、意欲的な事業展開をHPで紹介している。
全農(全国農業協同組合連合会)も広報誌「Apron」の2021年4月号で、「植物油のほとんどは海外からの輸入原料で作られますが、こめ油は国産の米ぬかが原料です」として「こめ油」を取り上げている。
「玄米由来の栄養成分や、酸化安定性に優れたこめ油の特長」などを紹介したのち、「日本の2019年度の食料自給率(供給熱量ベース)は38%です。供給熱量の15%程度を占める油脂類の自給率は3%しかありません。国産原料100%の油はこめ油だけといっても過言ではありません。こめ油の需要は強く、製油メーカーの生産意欲も高いのですが、課題は米ぬかの安定調達です。国内で生産されているこめ油は6万8千トン、輸入されているこめ油が3万3千トンあります。米の消費量が増えて米ぬかの発生量も増え、輸入こめ油が国産に置き換われば、食料自給率の向上にもつながるのではないでしょうか」と、食料自給率向上にも少なからぬ効果があることに言及している。
あえてJAグループの一員として言わせていただくが、「こめ油」という切り口から、食料自給率向上運動をJA大会において宣明すべきである。なぜなら、全農のその覚悟こそが、政治家、役人、そして国民の行動変容をもたらすからだ。
耕作放棄地を油田にプロジェクト
恐らく唯一、商業紙の社説で食料自給率37%を取り上げているのが、信濃毎日新聞(8月30日付)。
「世界では、人口増加や気候変動による食料供給の不安定化が懸念されている。海外に依存する現実に目を向けねばならない」としたうえで、政府が立てた2030年度の目標45%を抜本的に見直せと迫っている。
その際、カロリーベースの自給率は、「輸入できない事態に備えた食料安全保障」の観点から無視できないが、飽食を前提とした現行の算出方法に検討を加えたうえで、「生産額と両方を視野に入れながら、現実的な目標を検討していくべき」と提言する。
また、「高齢化と過疎化で耕作放棄地が増えている」ことから、「潜在的な生産力を維持するため農地をどの程度確保していくかも、自給率との関係で議論していかねばならない」とする。
その耕作放棄地について。先週ある県のJA職員を対象としたコア人材育成研修で講義をした時、「耕作放棄地で植物油の原料生産に取り組み、耕作放棄されている田畑を油田にする。耕作放棄地問題は解消するし、食料自給率は向上するし、一石二鳥の耕作放棄地油田化プロジェクトはどうですか」と意見を求めた。
すぐに手が上がり、「自分のJAで耕作放棄地対策としてごまを作りました。でも、選別が大変で、こんなもんやってられないと皆が反対してすぐやめました」と教えてくれた。
恐らく全国各地で、似たような取り組みが細々と試行錯誤されているはず。だからこそ、JAグループの組織力で、国策プロジェクトにまでもっていくぐらいの運動に育てていくことが必要かつ重要であることを受講生と共有した。
中国語で「油断」とは、単純に油が切れると言う意味。日本は常に油切れ状態。それが「大敵」なんですよ。
「地方の眼力」なめんなよ
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