ウクライナ紛争の深層【森島 賢・正義派の農政論】2022年3月14日
「戦争に、良い戦争はない。」
これは、今は亡き作家の瀬戸内寂聴さんが遺した言葉である。日本の平和憲法の神髄を喝破している。
世界の現実をみると、いま、穀倉のウクライナの大地の上で、戦争が行われている。一刻も早く止めねばならない。
これを、ウクライナとロシアの紛争とみる人がいる。紛争の表層に浮き沈みする泡沫だけをみる人である。最近では、プーチン大統領が乱心している、という人さえいる。そのように表層だけをみて、世界の深層にある激しい底流をみようとしない。これは知性の怠慢である。
こうした人たちとは違って、多くの人は、この紛争をウクライナと露の紛争ではなく、米と露の間の紛争とみている。世界を二分し、日本と欧州などは米側に立って、中国と印度などは露側に立って、争っているとみている。そして、世界の深層にあるこの激流に目を凝らしている。
この紛争を契機にして、いま世界は、東西冷戦後の米一極支配が終わりを告げ、世界は新しい歴史の局面に突入した。もう後へは戻れない。後世の歴史家に恥じない展開をしなければならない。
(写真:防衛省提供)
上の画像は、日本が先週ウクライナ軍に送った防弾チョッキである。日本は米側に立っている。このチョッキを着て、ロシアと勇敢に戦え、というのだろう。そして、やがて弾丸が飛び交う中で、ウクライナの人たちの、紅い血に染まるのだろうか。
◇
この抗争の深層には、米欧型民主主義の評価についての違いがある。それが普遍的か否か。正義か否か。
こうした論争は、誰もが歓迎する。反対する者はいない。ただし、静かな環境の中で行うべきである。硝煙が立ち込める環境の中で行うべきではない。
米欧には米欧型の民主主義がある。中露には中露型の民主主義がある。互いにそれを認めあって論争し、切磋琢磨すればいい。多様な価値観を互いに尊重し、認めあうのが民主主義である。
◇
だが実際には、そうなっていない。米欧は自身の民主主義が、ただ1つの普遍的な民主主義だとして、それを中露に押し付けようとしている。
一方、中露には、ことに露には、米欧の批判を静かに聞いて、反省すべきところは反省する、という謙虚な姿勢がない。
その行きつく先は暴力になる。つまり、武力を使う戦争になる。それが、ウクライナ紛争である。
◇
この紛争の契機は、NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大である。露は、NATOが東欧の旧ソ連の影響下にあった国々を加盟させたことを、そして、さらに拡大することを、安全保障上の重大な脅威とみている。
だが、米欧はそれをやめようとしない。
◇
NATOは軍事同盟だが、軍事に止まらない。米欧型の民主主義を、普遍的な民主主義だとして、中露型の民主主義を否定している。
そして、米欧型の民主主義を、中露型の民主主義国に押し付け、さらに世界の全体を、その色に染め上げようとしている。
◇
これは、政治思想だけのことではない。あらゆる政治問題の根幹は経済問題であるように、これは経済問題である。
米欧は、「普遍的」な民主主義とともに、「普遍的」な自由を中露に押し付けようとしている。ここでいう自由とは、資本主義の原理に回帰した、労働者を搾取する自由である。これは、資本主義が生まれながらDNAに組み込まれていて、切除できない悪癖である。そして、協同組合主義とは決定的に違う悪癖である。
◇
露とウクライナの人口は合計すると約2億人である。中国は14億人。インドも14億人。米欧は、ここに搾取の場を拡大したい、と考えているにちがいない。そこで、労働者を自由に搾取したい、という野望があるにちがいない。
米欧が声高に唱えている自由は、報道の自由などの法律的な自由だが、その法衣の下には経済の自由、つまり、搾取を自由に拡大するために使う鎧が隠されている。
露、中、印など多くの国は、この点を洞察しているから、国連での露非難決議に反対し、棄権したのである。
日本は、賛成した。そして防弾チョッキを送った。歴史に残るこの行為を、後世の歴史家は、どう評価するだろうか。
(前々回 無謀なコロナ楽観論)
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