【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】失われる消費者の選択権~どう守るか~2023年5月11日
この4月から、酪農・畜産の飼料も含めて、「遺伝子組み換えでない(non-GM)」表示が実質できなくなった。ゲノム編集表示は最初からなしで、無添加の表示さえ、厳格でないからとしてできなくなる。日本の消費者の選ぶ権利が失われていく今、農家、消費者はどうしたらいいのか。
表示の厳格化の名目で行われた「GM非表示制度」
今回の改定は、表示の厳格化の名目で行われた「GM非表示制度」というのが実質である。混入ゼロの場合しかnon-GM表示を認めず、違反すれば摘発されるから、怖くて誰も表示できなくなる。
厳格化といいながら、「日本のGM食品に対する義務表示は緩いから、まあよい。問題はnon-GM表示を認めていることだ。GM食品は安全だと世界的に認められているのに、そのような表示を認めるとGMが安全でないかのように消費者を誤認させる誤認表示だからやめるべきだ。」という米国の要求をピッタリ受け入れただけになった。どう対処するか。米国の牛乳・乳製品をめぐる消費者運動がヒントになる。
Non-GM表示を牛乳に無効化されても負けなかった米国消費者
乳牛の乳量増加のための遺伝子組み換え成長ホルモン(rBST、商品名はポジラック、M社開発)は、日本国内では未認可だが輸入はザルになっている。認可もされていない日本で、米国のrBST使用乳製品は港を素通りして、消費者は知らずにそれを食べている。所管官庁と考えられる省は双方とも「管轄ではない(所管は先方だ)」と言っていた。
筆者は、1980年代から、この成長ホルモンを調査しており、米国でのインタビュー調査を行ったが、「絶対大丈夫、大丈夫」と認可官庁とM社と試験をしたC大学が、同じテープを何度も聞くような同一の説明ぶりで「とにかく何も問題はない」と大合唱していた。約40年前に、筆者はこの三者の関係を「疑惑のトライアングル」と呼んだ。認可官庁とM社は、M社の幹部が認可官庁の幹部に「天上がり」、認可官庁の幹部がM社の幹部に「天下る」というグルグル回る「回転ドア」の人事交流、そして、M社からの巨額の研究費で試験して「大丈夫だ」との結果をC大学の専門家が認可官庁に提出するからである。
米国では、rBST投与牛の牛乳・乳製品には、乳癌7倍、前立腺癌4倍の発症リスクがあるとの論文が著名な学会誌(Science, Lancet)に出されたのを契機に、反対運動が再燃した。恐れずに真実を語る人々がいて、それを受けて、最終的には消費者(国民)の行動が事態を変えていく力になることを我々は忘れてはならない。
M社がrBSTの権利を売却するまで追い込んだ
米国の消費者は、non-rBST表示を無効化された。まず、バーモント州が、rBSTの使用を表示義務化しようとしたが、M社の提訴で阻止された。かつ、rBST未使用(rBST-free)の任意表示についても、そういう表示をする場合は、必ず「使用乳と未使用乳には成分に差がない」(No significant difference has been shown between milk from rBST/rBGH -treated and untreated cows.)との注記をすることを、M社の働きかけで、FDA(食品医薬品局)が義務付けた。
それでも、米国の消費者は負けなかった。rBST不使用の酪農家とネットワークを作り、自分たちの流通ルートを確保し、流通ルートとして「不使用」にしていく流れをつくって安全・安心な牛乳・乳製品の調達を可能にし、ウォルマート、スターバックス、ダノンなどが不使用宣言を出さざるを得ない事態に追い込んだ。利益が減ったM社はrBSTの権利を売却した。
このことは、日本の今後の対応についての示唆となる。消費者が拒否し、ホンモノを生産する農家と結びつけば、企業をバックに政治的に操られた「安全」は否定され、危険なものは排除できる。
国産牛乳・乳製品こそ健康を守る
米国では、米国内消費者はrBST不使用を買うようになっているが、まだ、米国酪農家の3割程度はrBSTを使用している。これが日本に輸入されていると考えられる。日本は、先述の通り、国内ではrBSTは使用禁止だが、輸入はザルになっているからである。
つまり、特に、酪農については、国産であれば、すべてrBST不使用なのだから、国産の牛乳・乳製品がいかにホンモノか、国産の重要性はこの点からも明白である。このことをもっと消費者に認識してもらうべく、しっかりアピールすべきである。
さらに、飼料がnon-GMの酪農家などは、そのことも、「GMOにNO!(飼料)」(パルシステム)などの表示に代表されるように、信頼できる生協などの販売ルートで消費者に伝える工夫ができる。
重要な記事
最新の記事
-
米、再生産可能な施策で後押し 石破茂総理2025年5月9日
-
米価 「高くなる」判断がやや増加 米穀機構2025年5月9日
-
(434)世界の配合飼料業界のダイナミズム【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年5月9日
-
全農杯全日本卓球選手権大会(ホープス・カブ・バンビの部)岐阜県予選会を県産品で応援 JA全農岐阜2025年5月9日
-
職員対象に「農業体験研修」を実施 JA全農あきた2025年5月9日
-
外食市場調査3月度 市場規模は3162億円 3か月ぶりに前年比でもマイナス2025年5月9日
-
BASFグループの第1四半期業績 特別項目控除前EBITDAはほぼ前年同期水準を確保2025年5月9日
-
鳥インフル 米サウスダコタ州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年5月9日
-
生活協同組合ひろしまと連携協定「無印良品」商品を供給開始 良品計画2025年5月9日
-
ノークラッチで簡単操作「三菱トラクターGJE28・35」新発売 三菱マヒンドラ農機2025年5月9日
-
カインズ 神奈川県相模原市と「包括連携協定」締結2025年5月9日
-
まるまるひがしにほん「新潟県の地酒と特産品フェア」開催 さいたま市2025年5月9日
-
「親子でお米の田植え体験イベント」5月25日に開催 momofarm×農産直売所あぜみちのコラボ企画 グリーンデイズ2025年5月9日
-
生産者にフォーカスを当てた食品展示会「たべるーとEXPO」2025年7月に開催決定 TYL2025年5月9日
-
田植え再開は地域を"つなぐ"希望の象徴 石川県内灘町「復興田植え」に選手・スタッフが参加 PFUブルーキャッツ石川かほく2025年5月9日
-
バイオスティミュラント「炎天マスター」新発売 OATアグリオ2025年5月9日
-
カシューナッツ殻液が飼料添加物に 温室効果ガス削減へ エス・ディー・エス バイオテック2025年5月9日
-
旅で山形の農業を応援「猫の手マッチング旅」10日から予約開始 日本の宿古窯2025年5月9日
-
酪農DX「Farmnote Gene」ゲノム検査市場で国内シェアNo.1に ファームノート2025年5月9日
-
北海道に初上陸「農機具王」小樽市に新店舗オープン リンク2025年5月9日