【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】自然への畏敬を取り戻そう2024年2月1日
人間は自然を操作し、変えようとしてきた。その「しっぺ返し」が来ているときに、さらに不自然な技術の追求が解決策になるだろうか。水と土と空気、環境が健全であれば、植物や動物の能力が最大限に発揮され、すべてが健康に持続できる。
それを、化学肥料が発揮してきた効果を否定するわけではないが、化学肥料の多投などで短期的にもうけを増やそうとすれば、土壌微生物との共生が破壊され、人間にとっての作物の栄養分も足りなくなる。土壌に暮らす微生物が、食べ物と共に腸内に移住したものが一部の腸内細菌の起源だとの見解もある。土壌微生物のおかげで、人間の健康も保たれる。だから、「三里四方」などの言葉通り、地域の土と水と太陽で育った旬の野菜などを食べるのが一番健康によいと江戸時代から言われている。
植物工場の弱点として、土との関係が絶たれるから、人間に必要なミネラルなどの微量栄養素が野菜に含まれなくなる可能性が指摘されている。免疫学者の藤田紘一郎氏(故人)は植物の持つ抗酸化物質「フィトケミカル」は太陽光をしっかり浴びた露地野菜に豊富だと指摘していた。
新技術開発を否定するわけではないが、自然の摂理を大切にし、生態系の力を最大限に発揮できるように、基本に立ち返ることが、今こそ求められている。本当に持続できるのは、人にも生き物にも環境にも優しい、無理しない農業、自然の摂理に最大限に従い、生態系の力を最大限に活用する農業(アグロエコロジー)ではないだろうか。経営効率が低いかのようにいわれるのは間違いだ。最大の能力は酷使でなく優しさが引き出す。人、生きもの、環境・生態系に優しい農業は長期的・社会的・総合的に経営効率が最も高いのである。
命や環境を顧みないグローバル企業の目先の自己利益追求が温室効果ガスの大量排出と世界の食料・農業危機につながったが、その解決策として提示されているのが、コオロギや人工肉・培養肉などを進めるフードテックというのでは、環境への配慮を隠れ蓑に、更に命や環境を蝕んで、次の企業利益追求に邁進しているのではないか。これで日本と世界の農と食と市民の命は守れるのか。
2024年初早々、世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)でも耳を疑う発言が飛び出した。「アジアのほとんど地域では未だに水田に水を張る稲作が行われている。水田稲作は温室効果ガス、メタンの発生源だ。メタンはCO2の何倍も有害だ」(バイエル社CEO)「農業や漁業は『エコサイド』(生態系や環境を破壊する重大犯罪)とみなすべきだ」(ストップ・エコサイド・インターナショナル代表)
水田のメタンや牛のゲップが地球温暖化の「主犯」とされ、まともな食料生産を否定して昆虫食や培養肉や人工肉を推進する機運が露骨に強化されている。日本政府も農業が温室効果ガスの大きな排出源だとして遺伝子操作技術も駆使した代替的食料生産の必要性を強調し、フードテック投資を推進しようとしている。
自然の摂理にしたがった農業の必要性ではなくて、農業そのものを否定して代替的食料生産に移行させようとしていることを見逃してはならない。私たちには、自分たちの力で子供たちの未来を守るための選択と行動が求められている。
重要な記事
最新の記事
-
「大手米卸が500%増益」 小泉農水大臣発言はミスリード 取引関係者が指摘2025年6月9日
-
【稲作農家の声】大規模化一辺倒は周回遅れ 米自給は国防そのもの 藤松泰通さん(静岡)2025年6月9日
-
【稲作農家の声】米価は流通業者が決めるものじゃない 生産者・消費者の相互理解こそ 石塚三津夫さん(新潟)2025年6月9日
-
「JAいわてグループ農業機械フェア2025」6月20、21日に江刺で開催 JA全農いわて2025年6月9日
-
令和7年度「第2回農業体験研修」で田植え作業実施 JA全農あきた2025年6月9日
-
6月5日「環境の日」3-Rインスタグラムでプレゼントキャンペーン JA全農ひろしま2025年6月9日
-
【動き始めたバイオスティミュラント】(1)アクプランタ社長の金鍾明氏に聞く 科学的に作用を説明できる資材こそBSに2025年6月9日
-
【動き始めたバイオスティミュラント】(2)アクプランタ社長の金鍾明氏に聞く 科学的に作用を説明できる資材こそBSに2025年6月9日
-
JA全農みえサービス明和合同イベント「雨季雨季(ウキウキ)感謝祭」を開催2025年6月9日
-
農水省 野菜のコスト指標 複数の産地別に作成検討 野菜WG2025年6月9日
-
【人事異動】農水省(6月9日付)2025年6月9日
-
農水省「BUZZ MAFF」米の情報発信について小泉進次郎新大臣に相談2025年6月9日
-
JA全農主催「WCBF少年野球教室」岩手県盛岡市で14日に開催2025年6月9日
-
有機農業・環境保全型農業の優れた取組「令和7年度未来につながる持続可能な農業推進コンクール」募集開始 農水省2025年6月9日
-
給付還元安定財源 基準上回る186億円確保 JA全国共済会2025年6月9日
-
令和7年産の栃木県産イチゴ販売額 過去最高額を更新 "31年連続"日本一へ JA全農とちぎ2025年6月9日
-
年に一度のパンの祭典「世田谷パン祭り2025」11月1日、2日開催2025年6月9日
-
朝採れトウモロコシなど地元農産物が集合「神奈川 地産地消マルシェ」開催2025年6月9日
-
「ファームコネクト」と三井住友海上が業務提携 農家向け相続対策・資産形成サービス提供2025年6月9日
-
「スマート農業イノベーション推進会議設立総会」開催 農研機構×農水省2025年6月9日