「きっトラ」と「もし寅」【小松泰信・地方の眼力】2024年7月17日
「民主主義を傷つけてきた張本人が、危機を力に大統領選を戦う皮肉。(中略)支持者たちは再選へ勢いづくだろう」(日本農業新聞、7月17日付コラム「四季」)
「もしトラ」から「きっトラ」へ
冒頭の文章の前には、「負傷したトランプ氏を演壇から避難させようとする警護官らを『待て』と制し、支持者にこぶしを突き上げ『ファイト』と叫ぶ。巻き起こる『USA』コール」と、九死に一生を得た直後の氏のふるまいが記されている。
アメリカの雑誌「タイム」は、アメリカ国旗をバックにしたその時の写真を最新号の表紙にするそうだ。バカ売れ間違いなし。
ついこの前まで、トランプ氏が大統領に返り咲いたらどうしよう、という心境を「もしトラ」という言葉で表現していた。しかしこの大事件を耳の皮一枚でやり過ごした強運が氏に地滑り的勝利をもたらすはず。直後の党大会の立ち居振る舞いや演説内容からも、バイデン氏や民主党と無駄な口げんかはせず、ド~ンと器の大きいところを見せようという、「トランプ劇場第二幕」に臨む勝利を確信した雰囲気が漂ってくる。
だから、「きっトラ」(「きっとトランプ」の略)。
暗殺未遂事件を「追い風」とする
東京新聞(7月17日付)は、「銃撃にもひるまない姿勢をアピールすることで党内の結束は急速に強まり、『トランプ党』の熱気は高まるばかり。選挙戦の雰囲気が一変する中、トランプ氏を『民主主義の脅威』と激しく批判してきた民主党のバイデン大統領は受け身の対応を迫られている」と、激変する選挙情勢を伝えている。
西日本新聞(7月17日付)も、暗殺未遂事件以降、氏に「追い風」が吹いていることを伝えている。
ひとつは、7月15日に、トランプ氏が私邸に機密文書を持ち出したとして起訴された事件を、南部フロリダ州の連邦地裁が、担当する特別検察官の任命に問題があるとの弁護側の申し立てを認め、起訴を棄却したことである。起訴された4つの刑事事件のうち最も不利と見られていたものであることから、「他の事件の棄却にもつながる最初の一歩になるべきだ」と氏は主張する。
もうひとつは支持者の拡大と資金面。長年の民主党支持者で、著名なヘッジファンドマネジャーのビル・アックマン氏が事件後トランプ氏支持を表明。時を同じくして、実業家のイーロン・マスク氏も支持を表明し、選挙活動を支える特別政治活動委員会に毎月約71億円の寄付を計画していること。さらには、トランプ氏関連の株価急騰、等々である。
副大統領候補も追い風か
選挙戦略上のやり方に限定した上で感心したのは、労働者階級出身のバンス上院議員を副大統領候補にしたことだ。彼は39歳と若い。2期8年という縛りで、次はないトランプ氏の後継者づくりまで企図しているとすれば、なるほどと言わざるを得ない。
先の東京新聞はこの人選を、「貧しい白人労働者階級の出身はトランプ氏の岩盤支持層と重なり、ラストベルトの労働者や生産者の支持拡大を図る狙いは明らかだ。(中略)労働者重視の姿勢は早くも効果が表れ、党大会ではトラック運転手らによる民主党系の有力労組の会長が演説。ロイター通信によると、同労組は内部分裂でどの候補も推薦しない可能性があり、労組重視のバイデン氏には打撃だ」と報じている。
共感できない「米共和党綱領」
毎日新聞(7月17日付)が紹介する「米共和党綱領要旨」(ミルウォーキー共同)は、次の8項目。
①国境を封鎖し、不法移民を阻止。米史上最大の強制送還を実行
②インフレを終わらせる
③米国を世界有数のエネルギー生産国にする。アウトソーシングをやめ製造大国にする
④労働者への大幅減税
⑤言論の自由、信教の自由、武器所持の権利を守る
⑥第三次世界大戦を阻止。欧州と中東の平和を回復し、米全土を守るミサイル防衛網を構築
⑦不法移民による犯罪を食い止め、外国の麻薬カルテルを解体
⑧米軍を世界最強にする
最初に断っておくが、当コラム、現時点でアメリカの政治家や政党に支持するものなし。
そのうえでコメントすると、②インフレを終わらせる、④労働者への大幅減税、については米国民の歓迎するところだろう。前述の労働者重視の姿勢と相まって国民の支持を高めることになるはず。
⑥に記されている「第三次世界大戦を阻止」にも「欧州と中東の平和を回復」にも、それだけであれば賛意を送るしかないが、その後に続く「米全土を守るミサイル防衛網を構築」や⑧の米軍を世界最強にする、を考え合わせると、圧倒的な軍事力による鎮圧、制圧を目指しており、戦に翻弄されない「平和」な世界づくりへの貢献を意図したものではないことは明らかである。
①や⑦の不法移民問題に対しても、人道的観点から疑問を持たざるを得ない。
そしてこの期に及んでも、⑤の「武器所持の権利を守る」を掲げるに至っては、「度し難い」国民性が伝わってくる。
相も変わらず、「軍事大国アメリカ」「世界一のアメリカ」であることを目指したもので、共感する代物ではない。
「もし寅」への期待
「きっトラ」から、この国は今までに経験したことのない圧力を受けることを覚悟しておかねばならない。だからこそ、「きっトラ」に対して独立国家の矜持を示さなければならない。植民地の愚劣な代官には期待できないとすれば、「もし寅」(「もし朝ドラの主人公佐田寅子がいたら」の略)に、日本国憲法の前文のここだけでも読み上げ、彼のあの耳に届けてほしい。
「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」
地方の眼力」なめんなよ
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日