コメ市場から日本の経済と社会と政治を見る【森島 賢・正義派の農政論】2026年3月2日
●コメには実需と仮需がある
コメ市場の中からコメ問題を考えよう。
価格は実態の影である。影を論じることがここでの主題ではない。影を投影する実態は何か、を論じることがここでの主題である。コメの市場価格を投影する実態の中に、何があるか。そこに日本経済の何があるか。日本社会の何があるか。そして、日本政治の何があるか。
コメは、日本人の生命の糧である。ほとんど誰もが毎日食べている。また市場は、供給と需要がぶつかり合う真剣勝負の場である。だから、コメ市場は日本社会について、日本政治について、多くの真実を語っているだろう。耳を澄ませて聞いてみよう。
●仮需の発生
コメの市場に入って供給側をみると、コメは1年に1度しか収穫できない。昔は収穫した翌年の梅雨時を越えると、品質は急速に劣化した。だが今は違う。保管技術などの進歩で、3年程度は品質を保てる。だから、いつ売るかが問題になる。
需要側も、同様である。いつ買うかが問題になる。
ここに実需とは別に、仮需が発生する。実物の売買ではなく、将来の時点で売買する契約書の売買である。
●コメには3つの市場がある
このように、コメには実需と仮需がある。いまコメを買う必要はないが、将来の値上がりを予想して、いま買っておく、という商行為である。逆のばあいもある。将来の値下がりを予想して、いま売っておく、という商行為である。両者の取引のための市場が、先物市場である。
また、コメの現物市場には、昔から多くの商品と同じで、卸売市場と小売市場に分かれている。そうして、流通の効率化を図っている。
このように、コメ市場は卸売市場と小売市場と先物市場の3つに分かれている。それぞれを見てみよう。
●3市場の実態
下の図は、3つの市場の米価について、最近の動向をみたものである。2021年9月から最近までである。先物市場は一昨年8月に開設されたので、先物米価はそれ以後である。それぞれを説明しておこう。

はじめに卸売米価である。この資料は、農水省公表の「米の相対取引価格」である。これが、そのまま農家庭先米価になるわけではない。卸売業者の経費が含まれている。卸売業者の中には、農協も含まれている。
つぎは小売米価である。これは、総務省公表の「小売物価調査」を資料にしたものである。通常は、精米5kg当たりにするのだが、ここでは、12倍して精米60kg当たりにした。玄米と同じにしたのである。60kgの玄米が60kgの精米になるわけではない。精米歩留まりがあるからである。また、篩目の大きさの問題もある。だが、比較し易いように重量をそろえて60kg当たりにした。
つぎは、先物米価である。これは、「堂島取引所」で発表している「米穀指数」である。図で示したものは、それぞれの時点での期先のものにした。
図の目盛は、縦軸を対数目盛にした。そうして、上下への同じ巾の動きを、同じ増減率にして、見易くした。
●仮需はコメ政策の鏡
はじめに、上の図を見ながら3つの米価を見てみよう。
小売米価は周知のように、一昨年の夏ころから高騰を始めた。それ以前と比べて、今は2倍以上になっている。だが、消費者が店頭で値下げ交渉をする風習は、今の日本にはない。だから、買い控えをして輸入小麦によるパンやメンを買うしかない。消費者のコメ離れである。その結果は、自給率のさらなる低下であり、食糧安保の危機の深化である。これは、政治の責任である。
卸売米価はどうか。小売米価とともに高騰した。どちらが原因で、どちらが結果か、を論ずるのは意味がない。市場は同時決定である。それよりも、注目すべきことは、先物米価と同時に上下していることである。このことは、卸売米価は、実需だけで決まるのではなく、仮需によっても上下することを意味している。さらに注目すべきことは、9月から始まる出来秋の卸売米価である。この頃は先物米価よりも高い。出来秋のご祝儀相場だけでなく、仮需が先物市場よりも活発なのである。
先物米価で注目すべき重要なことは、昨年秋から始まった最近の下落である。1万円以上下落している。これは、将来の米価下落を予想させるものである。それは、離農の加速を予想させる。食糧安保の危機のさらなる深刻化である。この原因は政治にある。
●コメ政策の不在を問う
こうした状況の中で、政治はどうか。
高市早苗首相は、安保問題に集中しているようだ。その中に食糧安保問題が含まれているようだが、食糧安保の危機感はない。だから、具体的な政策はない。
鈴木憲和農相はどうか。あいかわらず呑気に「需要に応じた生産」と言っている。市場原理主義の経文である。コメ離れになって需要が減ったら、それに応じて生産を縮小する、というのだろう。ここには、食糧安保の考えはない。
また、仮需の意味と役割も考えずに、流通業者の隠匿を摘発するというのである。市場の正常でしかも長所を傷つけ、歪めるものである。これは、悪代官の悪企みというしかない。権力を笠にきて虎の威を借りるものである。やがて、高ころびに仰のけに転ぶことになるだろう。
鈴木農相や高市首相の近辺には、知恵のある老練な軍師は不在のようだ。
(2026.03.02)
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