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農業協同組合研究会 第9回シンポジウム

未曾有の“農協危機”をどう乗り越えるか
=第25回JA全国大会への問題提起=

JA全中・向井地純一専務理事
JAいずも・内田正二代表理事専務
JAふくおか八女・松延利博代表理事組合長


 農業協同組合研究会(会長:梶井功東京農工大名誉教授)は4月25日、東京・文京区の東京大学弥生講堂で第9回シンポジウム「未曾有の農協危機をどう乗り越えるか」を開いた。
 今年10月の第25回JA全国大会に向け4月に大会議案組織協議案が決定され、現在、JAグループ各段階で組織討議が行われているが、シンポジウムは「全国大会への問題提起」として今回の組織協議案への理解を深めるとともに、生産・販売事業などで先駆的な取り組みをしている現場からの報告をもとに地域と農協の展望を拓く実践方策を議論した。


JAの独自性が問われる

 シンポジウムには約100人が参加した。
 報告を受けて村田武愛媛大特命教授が共同討論のためにコメントした。村田氏は、今回の全国大会議案は、この間の構造改革農政追随からJAグループが脱却できるかが焦点になると指摘。たとえば、現在の農業危機に対して緊急に価格・所得政策を再構築してセーフティネットをつくりあげるよう要求するかどうかではないか、という。
 その点で、大会議案が掲げる「品目別政策の確立」の議論が重要になるとし、会場参加者からも「農業の復権は、“品目横断対策”ではできない」との意見もあった。
 一方、JAグループ自らの取り組みとして、このシンポジウムでも注目されたのは「新たな協同の創造」をキーワードにした多様な農業者、消費者、地域関係者との連携だ。とくに多様な農業者には小規模農家なども含め担い手とする「日本型担い手」の考えを議案は提起しており、この点は政策支援の対象をめぐる議論とも関連する。村田氏は「その含意はどこにあるのか、今後の議論が注目される」と指摘した。
 地域農業の再生に向けて、「JA自らの新たな生産・販売戦略の構築を打ち出した点については「単に(言葉で)農を基軸とした協同組合、を掲げるだけではない」具体的でJAの独自性のある取り組みが期待されるとした。

新たな協同の輪を広げ農業復権と地域再生を
JA全中・向井地純一専務理事

JA全中・向井地純一専務理事

 第25回全国大会議案の要点を説明した。概要を紹介する。
                   ◇
 環境認識は「大転換期に突入したJA」。世界的な食料需給ひっ迫のなか、新基本計画策定などわが国農業政策は大転換期に直面、地域格差拡大のなかで生活安定へのニーズも高まっており、農業の発展、地域の課題解決にJAの中核的役割発揮が期待されている。
 一方で正組合員数と准組合員数の逆転が見込まれるなど、JAの組織・事業基盤の見直し、強化が課題となっているが、経営が未曾有の厳しさに直面する可能性もありJAが協同組合として機能を発揮するためには経営体制強化が必要だ。
                    ◇
 こうした認識のもと「地域農業の振興」と「くらしの活動などの地域貢献」を両軸≠ニして「JA経営の健全性・堅確性の確保」を必須の課題とした。
 その実現のために提起したのが「新たな協同の創造」。組合員間の協同を再構築するだけでなく、多様な農業経営体、地元企業、消費者など多様な人・組織が連携しネットワークを築くことをめざす。
 “農業の復権”では、付加価値の拡大、農商工連携などによる新たな生産・販売戦略の構築と政策の確立で農業所得の増大に取り組む。また、JAが主体となった農地の有効活用と小規模農家も含めた「日本型担い手」を育成、支援する。
 “地域の再生”ではJAの総合性発揮が課題になる。組合員・地域住民に事業・活動を幅広く提供し、とくに組合員の主体的・自主的な活動を支援し「JAくらしの活動」を推進する。食農教育や「助け合い」を軸とした地域セーフティネットも課題だ。
 これらの協同を支えるためJA経営では、理念を明確にしたトップからのメッセージ発信や、部門横断的な全員参加型の活力ある職場づくりなど、“JAらしい経営スタイル”の確立と、JA・中央会・連合会一体での県域戦略の実践、教育文化活動の充実・強化による協同組合への理解促進などが重点となる。
 大転換期にあって協同組合の価値を再認識して新たな協同の創造に努めていきたい。

今こそ協同組合理念の具体化と実践を
JAいずも・内田正二代表理事専務

JAいずも・内田正二代表理事専務

 管内人口のうち、未成年者とJA組合員を脱退した高齢者を除いた人口はおよそ11万人。うち組合員は約6万人にまで増えており、協同組合社会の創造が喫緊の課題である。実際、JAは行政と商工会議所と3者の懇談の場を持つなど、農を主軸とした地域協同組合として農協の存在意義を発揮しようとしてきている。
 組織基盤拡充方策のひとつとして総合ポイント制度を導入。これで組合員が3か月で1.3万人増えた。制度導入で総合生活センター「ラピタ」の利用も増加し、近年の大手量販店の出店という事態もその影響を最小限にとどめた。また、制度導入により「自分たちの店は自分たちで守ろう」という機運が生まれたこともその要因の1つだ。
 地域によっては店舗の設計段階から組合員に参画を呼びかけた店舗もあり、業績は非常に好調である。そこには参画による組合員の結集がある。ポイント制度では2億3000万円ほどの還元実績がある。この成果を組合員に対する利用高配当として考えられないかと思っている。
 ほかに金融・共済に依存した経営体質の改善、営農指導と販売戦略の力点の置き方などの課題があるが、いずれも協同組合として事業活動の本質を追求しなければ理念とかい離してしまう。
 また、職員の意識改革に向けて「やる気の創造」に取り組んできた。人事制度でも役割成果主義を導入した。
 合併から10年が経過した今は、トップダウン方式のみでは本来の総合力・組織力は発揮できない。今後は組合員を主軸としたボトムアップの力で、ブロック体制の構築、または営農センター機能の再構築等の取り組みによる組織・事業方式の変革が求められている。
 一方、危機を乗り切るために県下一円の系統組織の議論もされつつあるが、方向として、県下単協の組合員の営農・生活活動は地域の環境に応じたものである必要があり、それぞれが自立できる組織であることが重要であると思われる。
 JAが生き残ることは組合員が生き残ることでなければならない。正組合員と准組合員の位置づけは喫緊の課題かもしれないが、われわれのJAでは線引きせず「みんな組合員」と考えている。自らの組織に真に参画することの重要性を認識し、協同組合精神をさらに深めることが危機を乗り切る鍵ではないか。

地域に必要とされないJAは存在意義がない
JAふくおか八女・松延利博代表理事組合長

JAふくおか八女・松延利博代表理事組合長

 組合員・地域との結びつきはJAの原点だがそれが薄れてきていると感じ、原点への回帰を掲げている。それは人と人が接する機会を増やすこと。営農指導員の基本もそこにある。農家と接する機会が増えれば優れた知識も習得でき、それが広がれば農家全般の所得向上になるし、農家から喜ばれ、またやる気も出る。農業に魅力があれば後継者も増えるだろう。「出向く活動」はすべての事業に共通することだ。
 「販売高を1%上げよう」、「生産資材を1%安く提供する取り組みを」など1%運動も推進している。たかが1%といっても実現するには職員1人ひとりが「経営者」にならなければ達成できない。こうした意識改革が人材育成にもなると考えている。
 消費者とのつながりも大切で、われわれは生協などの組合員には生産現場に入って体験してもらうことに力を入れている。生産者と一体となって消費者を裏切ることのない農産物を提供することが消費者の意識を変えていくことだと考えている。
 一方で農業所得を維持するには安定的な予約相対取引の拡大やブランド育成が必要だ。
 また、直販や加工事業などにも取り組んでいる。最近では地場産農畜物によるおせち料理製造で8億円を上げる実績などがある。
 直販事業の核となっているパッケージセンターの利用は、高齢生産者のパック詰め負担を軽くして生産活動を維持することに役立ち、地域雇用も促進している。また、取引先の要望に応じた荷姿や量で商品化できるため信頼関係ができただけでなく、安定取引により農家には最低支払い価格も保証できる。
 輸出にも積極的に取り組み福岡県では昨年末、一本化した農産物貿易会社が設立された。
 合併当初320億円あった農産物販売高は260億円まで減少。それでも全国的には高い方だがかなりの落ち込みだ。正組合員と准組合員は4年前に逆転した。地域を巻き込みながら農業振興と地域貢献に地道な活動を続け、地域に存在感のあるJA、農を核とした「地域協同組合」をめざすしかない。

(2009.5.21)



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