ピタッと止まった新米取引 急成長の商系集荷業者が明かす「3億円の損切」2025年12月11日
「令和の米騒動」とも呼ばれた米価バブル。その崩壊のカウントダウンが始まる中、2025年産米を高値で仕入れ、在庫を抱える商系集荷業者は、懸命に「出口」を模索している。
「米価高騰」背景に急成長
2023年産米 10万俵
2024年産米 20万俵
2025年産米 25万俵
米価高騰の一歩先を行くように、高い買取価格を提示して農家から米を集め、躍進してきた集荷業者がある。岩木山の麓に広がる津軽平野、青森県弘前市にある株式会社フクテイだ。
社屋の前に立つ株式会社フクテイの福島英一社長(青森県弘前市)
資本金1000万円、従業員28名(2025年3月)で、2025年3月期には61億円の売り上げを上げた。強気の集荷は2025年産米でも健在で、「まっしぐら」など県産米を玄米60kg当たり約3万5000円で25万俵集めた。
米が不足していた2024年までは、集荷した米は端から売れた。だが2025年に入って米需給をめぐる状況は一変。政府備蓄米の大量放出もあって需給が「じゃぶじゃぶ」(小泉進次郎前農相)になる中、先安観が広がり新米が動かない。必ず上がる「玉」が日に日に下がる「ババ」に変わった今、アグレッシブな集荷業者は何を思うのか。フクテイの福島英一社長に聞いた。
不足見抜き、思い切り「買い」
福島社長によれば70年以上の歴史があり、もともとは食管法時代から続く籾摺り業者だった(商業登記簿上の会社設立は1991年)。10年ほど前、籾摺りをやめ集荷に徹した。
「トラックで農家に買い付けに出向き、庭先集荷します。集荷するのは中弘南黒ですね」と福島社長は言う。中弘南黒(ちゅうこうなんこく)とは、青森県内の中津軽郡、弘前市、南津軽郡、黒石市、平川市を指す。集荷した米の売り先は「主に米卸で、商社さんも一部ある」。
「当社は肥料、農薬も販売し営農指導もしているので田んぼを見ています。だから2023年産から足りていないと気づき、集荷を強めました」(福島社長)。2023年秋にはJAつがるにしきた管内に倉庫を新築した。「(フクテイは)勢いを増している業者だという認識」が知れ渡り、志願して転職してきたJA職員もいるという。
米価格は上がり続け、2024年の端境期には、スーパーの米売り場から米が消えた。農水省は米不足を認めず「新米が出回れば落ち着く」と強弁したが、福島社長は「チャンスだと思い、思いきり買いに出ました」と振り返る。
2024年産では「フクテイ概算金」提示
2024年産の集荷は「玄米60kg当たり2万円という未知の世界に突入していたので先が見えず、『フクテイ概算金』を、全農に先駆けて示しました」。追加払いはあるが、それがいくらになるかはわからない。いわば農家への最低保証額である。
スポット価格は異常な高騰をみせ、5万円になったこともあったが、フクテイは「決まった先に出来秋の相場で売ったのが大半」だった。それでも、通常の年は3000~4000万円の最終的な利益が4~5億円になった。
同社は2024年から農業生産にも参入。農業生産法人を2社、M&Aで傘下に収めた。合同会社戸澤農場(弘前市)と(有)グリーンファーム西目屋(西目屋村)である。ともに約50haで、豊田通商が開発した「しきゆたか」という多収米を生産し、豊田通商にも販売する。戸澤農場は15年前から乾田直播に取り組み、10a当たり約11~12俵とれるようになった。
10月10日頃から米が動かない
集荷からより上流の生産まで事業を広げ成長の階段を駆け上がってきたフクテイだが、足元では米バブル崩壊の直撃を受けている。福島社長はこう明かした。
「スポット価格が下がり始めたのは9月前半ですが、まだ米は動いていた。それが10月10日頃からピタッと動きが止まったのです。買うと約束していた先が買えなくなったり、ともかくお米が動かなくなったのです。それでも、これまでの取引先のおかげで何とか終売に近いところまでいきましたが、今年集めた20万俵では3億円儲けたのに、増えた分の5万俵は3億円損をしたので、トータルではトントンでした」
20万俵は集荷価格より高く売れたが、5万俵は集荷価格よりかなり安く売らざるを得ず、トータルではほぼ利益がないというのである。
5kg3480円で「まっしぐら」販売、採算は?
フクテイの倉庫に積まれたフレコンパック入りの米を見上げる福島社長
それでもなお、低温倉庫にはフレコンパックに入った在庫が積まれている。「日に日に値段が下がっていくので、白米の販売機能を高めていくことにしました」と福島社長が言うように、同社は12月から、本社で米の小売りを始めた。「まっしぐら」「晴天の霹靂」など4銘柄を精米5kg3480円で売り出したのである。銘柄米だけでなくブレンド米も含めた量販店小売価格の平均が精米5kg4335円(11月24日の週)なので、それより2割近くも安い思い切った値付けだ。
フクテイの仕入れ値が玄米60kg当たりちょうど3万5000円だとすれば、玄米1kg当たり583.3円となる。農水省が2025年2月4日に示したコスト調査(「合理的な費用を考慮した価格形成について」)にもとづき、精米・袋詰めなど卸売コストを、日銀が公表する企業向けサービス価格指数の2022年→25年10月の上昇率9.6%で補正すると、玄米1kg当たり34.6円が加算される。合計した617.9円を精米1kg当たりに換算すると686.6円。精米5kgの原価は3433円で、消費税10%を載せると3776円になる。
フクテイの販売価格3480円は、この「試算上の原価」を300円近く割り込む。福島社長は「赤字ですが、高値集荷した玄米で売るより損も少なくて済むし消費者も喜んでくれるので」と、在庫処分による現金化、つまりは損失を確定させて次の手を打つための経営判断を説明した。飲食店からの引き合いもある。
「みんな爆弾のようなものを」
紙袋に入った2025年産米。同社では「まっしぐら」「青天の霹靂」「あさゆき」「つがるロマン」を扱う
フクテイは豊田通商とともに米輸出にも取り組んでいる。「米価が暴落する」という話も出る中、農家に価格動向に関する情報を伝えながら、政府備蓄米、加工用米、飼料用米、輸出用米を「ポートフォリオって言うんですかね。主食用米だけではない、リスクヘッジの選択肢として示すのもわれわれの仕事です」。2026年産米の見通しを聞くと「玄米60kg当たり(集荷価格が)2万円から2万5000円あたりでしょうか。生産費もかなり上がっているので、2万円を割り込むと多くの農家はやらないしできないと思います」という答えが返ってきた。
出来秋の数ヵ月のうちに、3億円の利益と3億円の損失が出る。ジェットコースターのような状況だが、今後は下るばかり。傾斜はより急になりそうだ。銀行の融資スタンスについての話の中で、福島社長は「米が暴落して在庫の差損が出ても、みんなで爆弾みたいなものを持っているわけなんで、業績が改善される見通しがあれば理解も得られると思う」と語った。
米価が今後、再生産価格を大きく下回るほど暴落すれば、米農家は激減し、今度はさらに深刻な米不足が起きる。それは誰の得にもならない。急成長してきたフクテイは、米の先安観が強まる局面で、次の一手を懸命に探っている。福島社長が言及した「爆弾」は、集荷業者だけでなく、主食の米を作り、運び、売り、加工し、食べるすべての米関係者、そして消費者が少しずつ抱えているのかもしれない。
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