アカカワイノシシ由来の新細胞株を樹立 アフリカ豚熱ウイルスの病原性解明へ 農研機構2024年11月20日
農研機構は、横浜市立よこはま動物園の協力を受け、アフリカ豚熱ウイルスに感染していないアカカワイノシシの血液から免疫細胞の一種であるマクロファージを単離し、長期間増え続ける細胞株を樹立した。この細胞株は、未だ多くの謎に包まれているアフリカ豚熱ウイルスの病原性の解明に利用できるだけでなく、アフリカ豚熱に対するワクチンの開発にも役立つと期待される。

図1:アカカワイノシシマクロファージ由来の細胞株を用いたアフリカ豚熱ウイルス研究の展望
アカカワイノシシは、世界の養豚業で問題になっているアフリカ豚熱ウイルスに感染しても発症しないという特徴がある。
アフリカに生息するアカカワイノシシは、自然界においてアフリカ豚熱(ASFASF)ウイルスと共生している野生動物 自然宿主として注目されている。ASF ウイルスは、豚やイノシシに感染すると、免疫細胞の一種であるマクロファージの中で増殖し、感染した豚は発熱や出血といった病状を示して極めて高い確率で死に至る。
一方、アカカワイノシシは、豚と同じイノシシ科の動物種であるにもかかわらずASFウイルスに感染しても症状や病変を示すことがなく、死に至ることもない。そのため、アカカワイノシシのマクロファージにはASF ウイルスに対する防御機構が備わっていると考えられる。
ASFウイルスの研究には、生体外に取り出して培養した豚のマクロファージが利用されているが、豚マクロファージを生体外で増やすことは難しいことから、農研機構では、世界に先駆けて生体外で安定的に増え続ける豚マクロファージ由来のIPKM細胞株を樹立し、細胞入手の効率化を図ったことで、ASF ウイルスの研究が大きく進展した。
今回農研機構は、ASFウイルス研究をさらに加速するために、横浜市立よこはま動物園の協力により、ASF ウイルスに感染していないアカカワイノシシの健康診断時の貴重な余剰血液の提供を受け、その血液からマクロファージを分離。生体外で増え続ける能力を付与した新しい細胞株(RZJ/IBM 細胞株)の樹立に成功した。
さらに、豚由来のIPKM細胞株ではASFウイルスが効率よく増殖するのとは対照的に、RZJ/IBM細胞株ではASFウイルスが感染しても増殖が抑えられることを実験的に確認した。
これらの細胞株のASFウイルスの感染に対する反応の違いを詳細に比較解析することで、「ASF ウイルスに感染したアカカワイノシシは、なぜ症状を示さないのか」その謎に迫れるものと考えられる。また、ASF ウイルスに感染したアカカワイノシシが症状を示さない理由が明らかになれば、ASF のワクチン開発や感染対策技術の開発にもつながることが期待される(図1)。
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