【全中・経営ビジョンセミナー】農産物流通の課題解決を 報徳思想を現代に 静岡県掛川市で最終セッション(1)2026年3月3日
JA全中・教育部は2月3~5日、静岡県掛川市で今年度の「JA経営ビジョンセミナー」の最終となる第4セッションを開催した。現地視察と講演、討議を行い、参加した11人が年間のまとめとしてそれぞれの経営ビジョンを発表した。
新幹線掛川駅構内の物産販売施設「これっしか処」、報徳思想を現代に生かす大日本報徳社、農産物の流通課題の解決を進める「やさいバス」の取り組みなどを視察した。
「これっしか処」
駅立地生かして地域連携も
新幹線掛川駅構内で地元農畜産物や加工品を販売する「これっしか処」については、同社の元社長で大日本報徳社参事の中田繁之氏が説明した。同施設は掛川市が60%出資する第三セクター、株式会社これっしか処が運営し、全国の「これっしか連携地域」のネットワークを含め、地場産品を中心に約250社、400~500品目を扱い、約100平方メートルの店舗で年商約2億5000万円を売り上げている。
「ここにしか」「これしか」「いましか」の「三しか文化」をコンセプトに、当初の観光客中心から駅利用の地元客中心へと販売戦略を転換。牛乳や野菜など生活必需品も扱い、現在は利用者の約7割を地元客が占める。さらに、「これっしか連携地域」の「モノ」から「ヒト」のツーリズムビジネスに発展し、相互の地域活性化に貢献している。立地を生かしつつ手間をかけた販売によって自立運営を実現しており、その背景として報徳仕法との関連も紹介された。
エムスクエア・ラボの加藤百合子代表取締役
農業と社会の分断を解決する
やさいバス(株)の取り組みは、同社代表取締役でもある、エムスクエア・ラボ代表取締役の加藤百合子氏が講演した。加藤氏は大学で農業工学を学び、産業機械メーカー勤務を経て2009年にエムスクエア・ラボを起業した。生産者と購買者(消費者や飲食店、小売業)を直接つなぐ流通プラットフォーム「やさいバス」を事業化し、ECによる受発注と地域内共同配送を組み合わせた生鮮流通の仕組みを全国へ広げてきた。その実践と理念を紹介した。
やさいバス誕生の原点は、加藤氏自身の子育て経験にある。農産物の複雑な流通構造でコストが高くなり、生産者と消費者それぞれの思いも分断されているという"現象"を目の当たりにした。そこから、需要と供給の情報がつながっていないことが課題の"芯"にあると気づく。同時に、「農業と社会の機能が分断されていることが多くの社会課題の背景にある」と考え、2009年に「農業×ANY=Happy」を基本理念に掲げたエムスクエア・ラボを起業した。
課題解決のためには、生産者と消費者、飲食店を直接つなぐ物流改革が不可欠だった。そこで、バス停のように集配拠点を巡回する共同配送と受発注のシステム化を組み合わせ、流通効率と働き方改革の両立を実現した。成果はコストの低減にとどまらず、生産者は農産物への思いを届けることができ、消費者のニーズとの交流も生まれる。飲食店では多様で新鮮な農産物を提供できるようになり、リピーターの増加につながった。
しかし、コロナ禍により外食向け需要が急減した。やむを得ず小売向けへと事業を転換し、危機を乗り切った。この経験から、「固定的な計画ではなく、課題の本質を見極めて柔軟に動くこと」の重要性を学んだと振り返る。
やさいバスが運営する「やさいバス食堂」
農業の社会的役割とJAへの期待
加藤氏はまた、農業は環境負荷を伴う産業である一方、「人と人をつなぎ、地域に安心感をもたらす」役割も担っていると強調した。孤独や分断が社会課題となるなかで、「農業には人が集い、協力し合う場を生み出す力がある」と指摘。環境への責任と人のつながりを社会の中でどう実装するかが、今後の重要なテーマだとした。
そのなかで、JAは「営農支援、販売、地域との結びつきなど世界的に見ても優れた仕組み」と評価する一方、時代変化の中で「どの機能を強め、何を変えるかを考える局面にあるのでは」と指摘。「地域にはまだ活用されていない資源が多い。それを地域外や海外へ届け、地域に価値を戻す取り組みが重要」と述べた。
また、同社の取り組みはJAの役割を置き換えるものではなく、生産から流通、技術支援までの「連携を図る試み」であると位置付け、JAとの連携にも期待を示した。
同社はまた、スズキとの共同開発で農作業支援モビリティ「Mobile Mover(モバイルムーバー)」の開発も進めている。スマート農業は単なる機械化ではなく、「販路や経営戦略と結びつけることが重要」と強調。人手不足が進むなかで、危険で負担の大きい作業を支援し、人が価値づくりに集中できる環境整備が必要だと述べた。
さらに、インドでは現地法人を通じ、イチゴ栽培を中心に日本式の栽培管理や施設園芸技術、人材育成を導入し、現地市場向けの持続可能な農業モデルの構築を進めている。日本向け輸出ではなく、現地生産・現地供給を基本とし、「日本の農業技術を活用して地域課題の解決に取り組む」意欲も示した。
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