農政:田代洋一・協同の現場を歩く
【田代洋一・協同の現場を歩く】JA香川県 営農経済事業改革の要 再編・広域化が不可欠2024年3月22日
集落営農、農協、生協といったさまざまな「協同」の取り組みの現場を訪ね、その息吹を伝える田代洋一横浜国立大学名誉教授のシリーズ。今回はJA香川県を訪ねた。
1県1JAのパイオニア
JA香川県は2000年に発足、2013年までに残る2JAも合併して1県1JAになった。発端は、日本の農協運動をリードした宮脇朝男氏の、中央会会長としての1973年の提起だ。彼は運動体としては集落単位で、経営体としての経済合理性の追求は県規模で、という考えだった。背景には、同県が、兼業農家が多く狭域的な1日生活圏だったこともある。
合併は単協と経済連・青果連等にとどまり、中央会と信連は残している。中央会は単協外からの目も必要ということだろう。信連は運用の範囲に差があるためで、運用の壁が低まれば包括承継の可能性も高まる。職員数は中央会が77人→14人(合併事務局を含む)、信連が123人→71人とスリム化している。
JA香川県は1県1JA化のパイオニアとして苦闘してきた。とりわけ中間組織としての地区本部の扱いには苦労し、10年かけてやっと<本店―統括店―支店>体制に落ち着いた。地区本部は合併には不可欠な経過点だが、いつまでも存続させられないことを明らかにした点は功績だ。
店統廃合から営農経済改革へ
JA香川県は、当初は177支店、223店舗をかかえており、3次にわたる店舗再編計画を遂行した。1次(2007年)では180店舗へ、2次(2010年)で128へ(追加合併により133)、3次(2020年)で95へ――である(統括店も2021年に18から12にした)。貯金量を基準に存置を決め、組合員に収支を説明した。平地で利便性が大きく損なわれることではなかったので大きな反発はなかったようだ。
このような努力にもかかわらず、2020年の事業利益の成行きシミュレーションでは、2023年度に赤字化、25年度には9億円の赤字となった。そこで営農経済関連施設の赤字4億円(2020年度、その半分が集荷場)の改善が不可欠になった。
これまでの赤字改善の即効薬は合併・支店統廃合だが、その二つのカードを既に切ってしまったJA香川県としては、営農経済事業、同関連施設に切り込まざるを得ない。問題はそれをリストラ的に行うか、それとも営農指導・販売力強化のテコにしうるかだ。農協「自己改革」は新たな段階に入ったといえる。
JA香川県の事業管理費と農産物販売額
ここで、JA香川県の足跡をふりかえると、図1で、2012年までは事業総利益の減を上回るスピートで事業管理費を減らしてきたが、ここにきて停滞している。
図2の貯金額は順調に伸びてきたが、ここにきて横ばいになった。他方で農産物販売額は合併前後に比べると段階的に落ちたが、2018年以降はならせば横ばいで、ふんばっている。ちなみにJA香川県の<正組合員一人当たりの営農指導事業赤字額>は3・5万円(全国平均2・4万円)、1県1JAのなかではトップ、中四国でも愛媛県平均と並びトップだ。この高い営農指導力をキープできるかが課題だ。
フロントライン強化
40数農協が合併したJA香川県は、施設数が多く、その老朽化が進んでいる。そこでJA香川県は、2022年6月に「営農経済事業の将来方向」を打ち出した。営農指導員を増員しつつ、施設再編・業務効率化で生み出した職員等を再配置し、「農業者と直接接触する各事業所(フロントライン)を強化することを第一義」として追求するのが狙いだ。
JA香川県は2004年から六つの郡単位に営農センターを置き(JA豊南合併で7センター)、「各地区の農業振興の司令塔」としてきた。それを2023年から、行政の普及所単位に三つの営農センターに集約した。人員・管理のスリム化を図り、所属していた営農指導員も集荷場の駐在にする計画だ。
注目されるのは、営農センターの地域農業振興課の下に「農業振興センター」(旧7営農センターごと)を置き、総合相談窓口、行政対応、地域農業振興計画づくり等に当たる。組合員としては、営農センターが集約化されても、振興センターには顔見知りの職員がいることで安心する。また営農センターの園芸課は、課長等の少数を除く全要員を主要な集荷場への駐在方式にする。営農センターと農業振興センターの関係はちょっと分かりずらいが、重心を下におろしたと考えられる。
カントリーエレベーター、集荷場、農機センター、ふれあいセンター(資材供給)、育苗センター等の再編も計画されている。例えば集荷場は現在41あるが、取扱高と労働生産性を基準に、2028年までに、総合支援集荷場(荷造り調製支援まで行う、各営農センターに一つ)、特定品目支援集荷場(特産品・個選品)、地域補完集荷場(独自ブランド等)の3段階に再編する。3段階への再編は他の施設も同様である。
専任営農指導員43人は、旧7営農センター(現農業振興センター)ごとに均等割り・取扱高割で各4~7人を配置する。販売員39人、複合営農指導員(指導・販売)74人も同様である。また採用した営農指導員は本店で1年研修することにした。
県下200の作目別部会は、もともと農協とは別に集荷場単位に組織されてきたが、集荷場再編とともに広域化されていくだろう。
このように<集出荷場等再編―営農指導広域化―部会広域化>の足並みをそろえることが、今後の営農経済事業改革の要になろう。
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