農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(86)無機化合物(求電子剤・銅)【防除学習帖】第325回2025年11月22日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探っており、そのことを実現するのにはIPM防除の活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、IPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか探りたいと考えている。
IPM防除では、みどり戦略対策に限らず化学的防除法以外の防除法を偏りなく組み合わせ、必要な場面では化学的防除を使用して防除効果の最大化を狙うのが基本だ。その際、農薬のリスク換算量を減らせる有効成分や使用方法を選択できればみどり戦略対策にもなるので、本稿では現在、農薬の有効成分ごとにその作用点、特性、リスク係数、防除できる病害虫草等を整理し、より効率良く防除できてリスク換算量を減らすことができる道がないかを探っている。そのため、登録農薬の有効成分ごとに、その作用機構を分類し、RACコードの順番に整理を試みている。現在FRACコード表日本版(2023年8月)に基づいて整理し紹介しているが、整理の都合上、FRACコード表と項目の並びや内容の表記方法が若干異なることをご容赦願いたい。
38.無機化合物(求電子剤・銅)
(1)作用機構:[M]多作用点接触活性化合物
(2)作用点:多作用点接触活性
(3)グループ名:無機化合物(求電子剤・銅)/FRACコード[M1]
※JFRACのコード表では「無機化合物(求電子剤)」として銅と硫黄の2種があり、それぞれのFRACコードも異なる。これらを区別しやすくするため本稿では「無機化合物(求電子剤・銅)」と表記した。
(4)殺菌剤の耐性リスク:不明(ほとんど無いと考えられている)
(5)耐性菌の発生状況:無し
(6)化学グループ名/有効成分名(農薬名):
このグループには現在のところ1つの化学グループに7つの有効成分名、農薬名がある。
[1]:無機化合物(求電子剤・銅)/塩基性塩化銅(クプラビットホルテ、ドイツボルドーなど)
[2]:無機化合物(求電子剤・銅)/塩基性硫酸銅(Zボルドー、撒粉ボルドーなど)
[3]:無機化合物(求電子剤・銅)/水酸化第二銅(コサイド3000)
[4]:無機化合物(求電子剤・銅)/硫酸銅(ボルドー液)
[5]:無機化合物(求電子剤・銅)/有機銅(キノンドー、オキシンドー)
[6]:無機化合物(求電子剤・銅)/ノニルフェノールスルホン酸銅(ヨネポン)
[7]:無機化合物(求電子剤・銅)/DBEDC(サンヨール)
(7)グループの特性:
このグループは、製剤から溶出した銅イオンが、病原菌の細胞原形質や酵素タンパクに存在する各種イオンに作用して、酵素活性など正常な生命活動を阻害することにより効果を発揮する。これにより、糸状菌の胞子発芽や菌糸伸長、細菌の増殖等を阻害し、優れた予防効果を発揮する。
(8)リスク換算係数とリスク換算量削減の考え方:
この化学グループに属する有効成分のリスク換算係数は、ノニルフェノールスルホン酸銅が
0.1、それ以外の有効成分は0.316であり、それをもとに計算するとその基準年のリスク換算出荷量は約2000トンでリスク換算総量の8.6%にあたる。結構大きな割合ではあるが、果樹病害や園芸作物の細菌性病害防除に使用される重要な薬剤であり、しかも耐性菌の発生リスクが無い防除に不可決な重要殺菌剤である。再評価制度によって優秀な保護殺菌剤が減る中、環境リスクが少なく、使用回数制限もない貴重な薬剤である。このため、銅剤は、基本的には削減しない方が良く、削減するにしてもその削減範囲は限定的にした方がよいだろう。
(9)無機化合物(求電子剤・銅)の農薬登録がある主要病原菌一覧
無機化合物(求電子剤・銅)の農薬登録がある主要作物・病害名・病原菌別有効成分の一覧を次表に示した。これらの他、他の殺菌剤との混合剤も存在するので、実際の使用前には必ず製品のラベルにて登録内容(適用作物・適用病害・使用方法等)を確認して正しく使用してほしい。
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