「100の仕事」、多様な人材とスマート農業で 栃木の農業法人・雄が描く地域農業の未来像2026年3月13日
栃木県真岡市二宮地区(旧二宮町)で水稲107haを中心に大規模経営を展開する株式会社雄(ゆう)が、今年2月、栃木県農業賞の大賞を受賞した。「高い経営水準であることに加え先進的な取組を行うなど他の模範となる」と評価された。同社代表取締役・猪野雄介さん(44)の視線の先には、地域農業の理想像がある。
トラクターの前に立つ株式会社雄代表取締役の猪野雄介さん
北の大地で気づいた故郷のポテンシャル
猪野さんの農業観を決定づけたのは、県の農業大学校時代の北海道研修だった。十勝の士幌町で目にしたのは、ジャガイモを収穫する農機に蛍光灯が付いていたことだ。暗くなっても蛍光灯を灯し、黙々とジャガイモを収穫する。「雪が降る前に全てを終わらせる」、北の大地の困難と熱量がそこにあった。
「栃木は雪が降らない。冬も仕事ができ、イチゴという収益源もある。平場で大型農機も入る。ここは、恵まれている」
故郷のポテンシャルを再確認した猪野さんは、2003年に親元就農。祖父から父へと充実してきた営農基盤を引き継いだ。2022年、法人化すると社長に就いた。
「100の仕事」を多様な人材で
株式会社雄の経営を支えるのは、大型農機を駆使した効率化と多様な人材のチーム力だ。
離農する地域の農家に頼まれ、毎年2~3haずつ田んぼを引き受けてきた。今年作付けする田んぼは244枚に及ぶが、作業効率が落ちない半径5km内に集約。遠方から「引き受けて」と依頼があったら、その地域に近い知り合いの担い手を紹介し、地域全体のことを考えながら効率的な集積を図る。
GPS搭載の大型農機は必ず2台セットで購入する。故障による作業停止を防ぐと同時に、2チーム同時並行での迅速な作業を可能にしている。
雄の役員は5人で従業員は16人。塗装、溶接、PCなど多彩な前職を持つプロもいる。コンクリートの打設も、生コン車を呼んで自力でやってしまう。外注費が節約され、施設等の整備も速く進む。「百姓は100の仕事をするというが、うちにはそれぞれの専門家がいる。会社として100の仕事ができるのが強み」と猪野さんは胸を張る。
地力保つ堆肥とローテーション
水稲は約107ha作付けするが、30haで小麦を作りその後大豆を植える。大豆の後は水をはって水稲と、ローテーションを回す。ソバはほぼ畑で20ha、夏と秋、2回作る。イチゴは約60a、ハウス栽培である。
水稲の品種は多収のあさひの夢、にじのきらめきに、コシヒカリも作る。多収性品種は連作すると出来が悪くなることがあるが、堆肥を入れていることと「大豆の後」が良く、地力が保たれている。
手を引く商系業者、米価格へ募る不安
栃木で有数の大規模経営でも、米価格には不安を隠さない。ここ数年取引してきた他県の集荷業者から「需給状況が変わらなければ、もう栃木の米は買えない」と昨年末に通告された。
猪野さんは「生産者手取りが2万円を切るような事態になれば、米農家がみんな意欲を失いかねない。政府は最低限の価格保証を何らか考えてほしい」
農家が減る中、これまでは地域みんなで分担してきた水管理も難しくなってくる。他の農家の圃場近くの水路までユンボで泥上げをしつつ、今後の負担軽減のため、農業用水のパイプライン化も強く願っている。
地域農業を守る責任感
「従業員には『7割の力でいい』と言っています。安全が第一ですから」
8条植えの田植え機、大型コンバイン、GPSとセクションコントローラーで重複なく除草剤や肥料をまくスプレーヤー、田を整地するレベラー。子どもの頃から大好きだった大型農機の性能を1台1台説明してくれた猪野さんだが、社長になってからは経営が忙しく、農機にはほとんど乗らない。その根底にあるのは、地域から耕作放棄地を出さないという責任感だ。
雄がある二宮地区(旧二宮町)はその昔、二宮尊徳が報徳仕法、現代風にいえば営農指導や地域振興に尽力した地だ。平成元年(1989年)からの「1区画1町」の基盤整備も、他地区に先駆けて二宮地区が手を挙げたのは、尊徳以来の改革の気風があったからだろう。祖父の代が苦労して整えた大区画が、今、最新鋭の大型農機が駆動するステージとなった。
最新鋭のGPS付き農機を走らせスマート農業に取り組む大規模経営にも、尊徳の精神が脈々と息づいているようだ。
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