シリーズ

放射性物質検査を考える

一覧に戻る

【放射性物質検査を考える】第1回 4月から新基準値を施行  求められる正しい理解と知識

・あくまでも管理のための値
・なぜ、5分の1に引き下げ?
・そもそも放射性物質って?
・食品中には常に存在する

 食品中の放射性物質を規制する基準値が4月から新たに見直され、米や野菜、肉などはこれまでの1kgあたり500ベクレル(暫定規制値)から100ベクレルに引き下げられる。
 しかし、なぜ引き下げをするのか? その根拠は何か? そもそも基準値とは何か? などなどまだ消費者に理解が徹底されているとはいえない。にもかかわらず一部では新基準値よりもさらに引き下げる自主検査を行うことを表明した流通業者も出てきた(関連記事/news/2012/03/news120327-16495.html)。このため生産者にも大きな不安と混乱が生じかねない状況だ。ここでは新基準値の内容とともに今後の課題などを考えてみる。

◆あくまでも管理のための値

 原発事故による放射性物質の放出で昨年3月17日、厚生労働省は食品からの被ばく線量の許容量を年間5ミリシーベルトとして暫定規制値を設定した。
 根拠は原子力安全委員会が原発事故などを想定して決めていた指標。この年間許容量5ミリシーベルトを食品に割り振り、米や野菜、肉などは1kgあたり500ベクレル、飲料水、牛乳・乳製品は200ベクレルとされ、その後、この規制値を超える放射性セシウムがいくつもの農産物から検出されたことから出荷制限を受けた。
 つまり、暫定規制値とは、政府が放射性物質を管理し低減対策をとるべき基準(=介入線量レベル)であり、その具体策が出荷制限をかけるということである。これによって規制値を超えた食品が流通し人の口に入ることを防止することができるが、同時に出荷制限とは、こうした農産物を生み出してしまった事態について政府が対策をとるべき状況にあることをも意味するといえる。現に出荷制限は原子力災害対策本部長である総理大臣が指示を出す。
 もちろんこの暫定規制値は食品安全委員会でも審議され、規制値以下の食品であれば健康への影響はないと安全性を担保するものと評価されてきた。
 しかしながら、昨年10月、小宮山洋子厚労大臣が年間許容量を1ミリシーベルトに引き下げる方向で規制値を見直すことを表明した。その理由は、これまでも安全は確保されていたが「より一層、食品の安全と安心を確保する観点から」と説明された。これを受け厚労省や文科省などの審議会での検討を経て新基準値が策定され、この4月から施行されることになったのである。


◆なぜ、5分の1に引き下げ?

 しかし、なぜいきなり厳しく5分の1に引き下げるのか?
 厚労省は年間許容量を1ミリシーベルトとする理由について、食品の国際規格を作成しているコーデックス委員会が「年間1ミリシーベルトを超えないこと」と決めているからと説明している。つまり、国際基準に合わせるということである。 また、これまでのモニタリング検査の結果から時間の経過とともに検出濃度が低下傾向にあることも引き下げの理由とした。
 新基準の策定にあたっては、特別な配慮が必要と考えられる「飲料水」、「乳児用食品」、「牛乳」を区分し、その他を「一般食品」とする4つの区分とした。ここでいう「牛乳」とは牛乳、低脂肪乳、加工乳と乳飲料(コーヒー牛乳など)で、ヨーグルトやチーズなど乳製品は「一般食品」の区分に含めた。
 乳児用食品は粉ミルクやおやつ、ベビーフードなど消費者が表示などで乳児向けであると認識する可能性が高いものを対象とした。
 食品に区分を設定した理由はそれぞれ以下のように説明されている。
 飲料水:すべての人が摂取し代替がきかず摂取量が多い。WHO(世界保健機関)が10ベクレル/kgを提示。
 牛乳:子どもの摂取量がとくに多い。食品安全委員会が小児の期間は感受性が成人より高い可能性を指摘。
 乳児用食品:食品安全委員会が小児の期間は感受性が成人より高い可能性を指摘。
 そのうえで新基準値では左表のように1kgあたり「飲料水:10ベクレル」、「牛乳:50ベクレル」、「乳児用食品:50ベクレル」、「一般食品:100ベクレル」とされた。
 新基準値への移行については、米と牛肉(いずれも製品を含む)は10月から、大豆(同)は来年1月から適用するといった経過措置を設定した。ただし、市場で混乱が生じることから、JAグループは新基準値の100ベクレル超の23年産米が流通しないよう特別隔離対策を政府の責任で行うよう求めているほか、麦、大豆についても円滑な流通に向けた対応を求めている。

なぜ、5分の1に引き下げ?


◆そもそも放射性物質って?

 食品中の放射性物質検査は地方自治体が実施する。対象はこれまでに出荷制限を受けた自治体やその隣接自治体で東日本の17都県。
 新基準値での検査やその課題などについては次号以降で触れることにし、今回は放射性物質についての基本的な知識を改めて整理しておきたい。
 アルファ線、ベータ線、ガンマ線といった放射線を出す物質を「放射性物質」という。
 放射性物質は地球が46億年前に誕生したときから存在する。また、今でも大気中の窒素に宇宙線が当たることでトリチウム(三重水素)や炭素14といった放射性物質が常に作られている。
 ほとんどの元素は安定した状態だが、わずかに不安定な状態にあるものが放射性物質で、それが安定した状態になろうとして放出するのが放射線だ。たとえば、セシウム137はベータ線、ガンマ線を出しながらバリウム137という元素に変わっていく。
 「放射能」とはこの放射性物質を出す能力のことを指す。
 電灯とその明るさにたとえると「放射性物質」は電球であり、その電球の放つ光線が「放射線」となる。そして電球がどのくらい光線を出す能力を持っているかを示すのが「放射能」ということになる。
 これらの単位として使われているのが「ベクレル」と「シーベルト」である。
 ベクレルはその放射性物質が持つ放射能の強さを表す単位。シーベルトは人が受けた放射線の健康への影響を表す単位である。
 電灯のたとえを使うと、「ベクレル」は電球の明るさ(能力)を表す「ワット」で、一方、「シーベルト」は部屋の明るさを表す「ルクス」といえる。


◆食品中には常に存在する

 ところで、天然の放射性物質は食品のなかにも常に含まれている。カリウムはすべての動植物が生存していくために必要な元素(必須栄養素)だが、このカリウムには放射性物質であるカリウム40が0.01%程度含まれている。
 上図にあるようにさまざまな食品にカリウム40は含まれ、日本人の成人男性ではカリウム40のほか炭素14など常に約7900ベクレルの放射性物質を体内に持っているとされる。
 厚労省が昨年9月と11月に実際に流通している食品を購入し、平均的な食生活でどれだけ放射性物質を摂取することになるかを調査した結果では、東京都で年間0.1812ミリシーベルトと推定されている。このうち放射性セシウムはわずか0.0026ミリシーベルトで全体の1.5%程度だ。ほとんどが天然の放射性カリウムとの結果になっている。
 一方、食品中の放射性物質の基準値が対象としているのは、放射性セシウムのほかストロンチウムやプルトニウムである。つまり、今回の原発事故によって大気中や海水、農地や森に放出されてしまった放射性物質なのであり、繰り返すが問われているのはそれをどう管理・低減させていくかである。
 その意味では、食品検査はもちろん重要だが、農地の汚染実態を調査しどう除染を進めるかなど、突きつけられた課題全体を理解することが大切だ。

食品中のカリウム40のおおよその量


(関連記事)
95%が不検出―家庭の食事での放射性物質摂取量  日本生協連 (2012.03.28)

100Bq/kg以上のコメを隔離・処分  JAグループらが隔離協会設立 (2012.03.28)

【原発事故を考える 】第4回 放射能汚染にどう対応するか  小山良太 福島大学経済経営学類・准教授 (2012.03.26)

           第1回

(2012.03.29)