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東日本大震災から1年―JA全農の取組み

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東日本大震災から1年―JA全農の取組み  積極的に生産基盤の復興を支援

・JAグループの「絆」を再確認
・復興支援の専門部署を仙台に新設
・FOEASや鉄コーティングで水田営農を支援
・トマトのハウス養液栽培も

 昨年3月11日に発生した東日本大震災では、多くの命が失われ、また住宅をはじめ農業施設・設備も甚大な被害を受けた。さらにほぼ同時に発生した東電福島第一原発の事故による農畜産物や農地への放射性物質による汚染が広がり、被災した産地は、地震・津波・原発・風評被害という4つの苦しみに、1年経ったいまもさいなまれている。こうしたなか、JA全農ではJAグループと連携をしながら物的・人的そして経済的な支援に取組んできた。そして4月からの新年度においても、これまでの取組みを継続するとともに、専門部署を設置するなどして、農業生産基盤の復興支援に取組んでいくことにしている。そこでこの1年のJA全農の取組みを振り返ると同時に、24年度の取組みについて紹介する。

◆JAグループの「絆」を再確認

 大震災発生直後の被災地では、あらゆるライフラインが滞り、JA全農でも生活物資や家畜用配合飼料の供給に一時的に支障をきたしたが、他地区からの緊急的な振替輸送や全国的な数量調整などを実施して復旧支援に取組んできた。
 また、被災JAなどへ不足物資の安定供給を行うとともに「災害対策積立金」を活用し、組合員やJAが生産または保有する水稲種子、園芸施設、肥料・農薬の損失、生乳廃棄にともなう損失補填なども実施してきている。
 その一方で、JAグループの東日本大震災対策本部による「JAグループ支援隊」の現地派遣活動にも積極的に取組んできた。とくに4月19日〜23日、同24日〜28日、5月9日〜14日の3陣にわけて派遣された「米袋はい崩れ修復支援隊」には、本所や各県本部から多くの全農職員が参加し、連日、農業倉庫ではい崩れした米袋の修復作業に従事した。
 「普段は産地間競争など、ややもすると競争相手となっているかもしれない他産地の人が復興に向けて協力を惜しまない姿に心を打たれるものがありました。一人ひとりの力は微小でも、JAグループが力を合わせれば単純な足し算以上の力になると実感しました」
 「全農職員であることに誇りが持てた。仲間が全国にいると信じて今日からの業務に向かいたい」など参加した職員から多くの感想が寄せられている。
 そして支援を受けたJAいしのまきの米穀課からは「一人ではくじける場面も出るでしょうが、われわれの後ろから支えてくれる全国の皆様や、JAの仲間がいることを心強く思います」という感謝と連帯の言葉が寄せられている。
 その後もJAグループ支援隊の一員として被災地のがれき撤去作業などにも多くの職員が参加し、復旧・復興の支援を続けている。


◆復興支援の専門部署を仙台に新設

 こうした取組みを継続するとともに、24年度からは次のような取組みを実施することで被災産地の「農業生産基盤の復興支援」を行っていく。
 まず、被災産地の現場の要望や県行政の動向などを迅速に把握し、それらの情報を全農や子会社などが持つ総合力や専門的な対応に結びつけることで、被災地の復興の後押しをするための専門部署「震災復興課」(総合企画部)を今年2月に仙台に新設したことがあげられる。
 そのうえで、(1)塩害地域の土壌改良に向けた支援、(2)果樹園などにおける除染支援、(3)ハウスやJA共同利用施設の復旧・新設需要への対応など、営農再開に向けた支援を行っていくことにしている。


◆FOEASや鉄コーティングで水田営農を支援

 具体的には、すでに技術的に確立している次のような営農技術を活用することで、生産基盤の強化を支援していきたいと考えている。
 その一つが、すでに本紙でも紹介した(09年11月20日号)地下水位制御システム「FOEAS(フォアス)」だ。このシステムは、地下に設置した暗渠管と補助孔、水供給施設、水位制御施設で構成され、ほ場の水位を田面からマイナス30cm〜プラス20cmの範囲にコントロールすることができる。
 こうしたきめ細かい水管理で水田と畑の輪換が容易になり、干ばつや湿害の防止、水管理の省力化による作物の安定生産技術として、被災地域でほ場機能を高める有効な手段だといえる。
 これも本紙ですでに紹介した(09年7月30日号)ものだが、全農が省力生産技術として普及拡大を進めている水稲の「種子鉄コーティング湛水直播」の被災産地での活用だ。
 すでに全国に広がってきているこの「鉄コーティング湛水直播」では、コーティング種子の大量製造技術や無人ヘリによる散播技術などの実証も行われており、被災産地での農地集約化がされ大規模生産が実施されるときの省力・低コスト化技術として有効な技術である。
 また、無人ヘリを活用した散播ができることから、飼料用米などの生産にも有効ではないかと考えられている。

FOEAS


◆トマトのハウス養液栽培も

全農オリジナルミニトマト「Angelle(アンジェレ)」 宮城県などの沿岸地域では津波による浸水で土壌の塩害対策が大きな問題となっている。一部で除塩対策が実施はされているが、被災地全体で除塩対策が実施されるにはまだ多くの時間がかかると予測されている。
 そうしたなかで注目されるのが、塩害土壌を直接使わない施設の養液栽培だ。すでにイチゴなどで一部取組みが開始されているが、全農が推奨するのは、全農オリジナルミニトマトの「Angelle(アンジェレ)」「すずこま」だ。
 アンジェレはそのまま生で食べても美味しいが、加熱して食べても美味しいという最近の「トマトブーム」にぴったりの品種だといえる。また、「すずこま」は、心止まり性の品種で、「トマト一段密植養液栽培」に適している。この栽培法は、定植から収穫までの作業の軽労化や省力化・効率化ができる技術であり、栽培管理が単純化され計画生産による企業的経営を可能にする「次世代型生産システム」として注目されている。現在、実証試験を精力的に実施中である。
 全農では、これらのトマト養液栽培技術が、被災地の生産基盤強化に役立つものと考え、普及に向けた準備を進めている。
 こうした農業の復興に向けた取組みを、被災地の要請やニーズに応えながら進め、その際には、産地や生産者の負担をできるだけ軽減できるよう、国等の交付金の活用も視野に入れながら、有効な復興策の提案を行っていきたいと全農では考えている。

(写真)
全農オリジナルミニトマト「Angelle(アンジェレ)」

(2012.03.09)