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特集「生産者の所得向上とJA全農の役割〜国産農畜産物の販売力強化をめざして〜」

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【全農特集】JA全農「3か年計画」の概要

・厳しい事業を取り巻く環境
・生産から販売まで一貫した仕組みを構築
・多様な生産者ニーズに対応する提案型事業へ
・総合的事業提案による畜産事業の拡大
・豊かなくらしを支援する生活関連事業
・カギはどれだけ「近く」なれるか

 JA全農は平成22年度から24年度の「3か年計画」を3月の総代会で決定した。
 前の「3か年計画」(平成19年度〜21年度)では、事業・経営面での「目に見える改革」が基調となっていたが、今回の「3か年計画」は「変革・創造・実践」を掲げたうえで「国産農畜産物の販売力強化」を「全事業を通じた共通の事業目標」とした。

「変革・創造・実践」することで
生産者と消費者の懸け橋に


◆厳しい事業を取り巻く環境


「国産農畜産物の販売力強化」を目標に掲げた「3か年計画」の表紙 この3か年の事業環境については、
農業産出額の減少や生産者の高齢化などによる「農業生産基盤の弱体化」
農地法の改正、戸別所得補償制度の導入、WTO・FTA交渉が加速化する可能性など政権交替による「農政の転換」による新たな対応局面の出現
デフレ経済の進行による影響や消費者の低価格志向による「国産農畜産物価格の低迷」
流通の産地囲い込みや異業種企業の進出など「農業ビジネスへの参入の激化」
など、厳しいものがあるとの認識を示している。

(写真)「国産農畜産物の販売力強化」を目標に掲げた「3か年計画」の表紙

 

◆生産から販売まで一貫した仕組みを構築


 その上にたって「組合員・JA・取引先から期待の大きい『国産農畜産物の販売力の強化』を今次3か年で全事業を通じて取り組む最重点課題と位置づけ」ている。
 それを実現するため販売事業では、生協や量販店など既存取引先への販売拡大や国産農畜産物の消費拡大対策を行っていくなど、従来からの施策を充実させていく。と同時に、直接販売や産地や担い手と実需者の「結びつけを基本としたサプライチェーンの構築など、生産から販売までの一貫した事業方式の拡大・転換を進め」ていく。
 そのために、旧・営農総合対策部と大消費地販売推進部を統合し、専務直轄の「営農販売企画部」とし、「生産から販売までの一貫した耕種事業の仕組み作りと大消費地圏での総合・直接販売、マーケティング機能の強化」をはかっていこうとしている(詳細記事:営農・技術センターの役割)。
 米穀事業では「米の生産・流通変化に対応したJAグループ米穀事業の再構築と生産者手取りの向上に向けた多様な生産・集荷・販売方式の確立」をはかっていく。そのためには、「パールライス事業強化による精米販売の拡大」や「飼料用米・米粉用米・加工用米生産による水田機能の活用」も重要な課題とされている。
 園芸農産事業は「顧客別営業機能・体制の強化、卸売市場流通における契約取引の拡大等による青果物直販事業の拡大」を行っていくが、大消費地圏を中心とした全農グループ直販事業の強化・拡充、加工・業務用のユーザーニーズを踏まえた「品種選定から生産・集出荷・一次加工・物流までの一貫した仕組みの構築」、パートナー市場との連携や戦略の共有化による卸売市場販売の強化などが重点課題となる。

 


◆多様な生産者ニーズに対応する提案型事業へ

 

 営農・購買事業では、「生産基盤維持・拡大に向けた生産コストの低減、購買品目の取扱強化によるシェア拡大を図り、間接的に販売力強化に貢献する」ことにしている。
 そのため生産資材事業では「購買・供給力の強化を背景に多様な生産者のニーズに対応する提案型事業への転換と園芸分野の取扱シェアの向上」をめざしていく。
 重点課題としては、土壌診断にもとづく適正な施肥設計と低成分肥料の普及拡大、低コスト段ボール原紙への切り替え促進、JAグループ独自型式トラクターなど安価な農機の取扱拡大など「生産コスト抑制の取組強化」がまずあげられている。
 次いで輸入元の多元化による肥料・原料の安定供給、水稲用除草剤AVH―301やMY―100の普及拡大(詳細記事:期待が高まる新農薬AVH-301)など「購買力強化による事業拡大」や「多様な生産者への対応強化」があげられている。
 そして「肥料の年間二本価格体系と農家予約にもとづく一貫事業体系を柱とした新たな肥料供給体制の実施」に代表される「効率的な事業運営体制と経営基盤の強化」も重点課題だ。

 


◆総合的事業提案による畜産事業の拡大

 

 一方、畜産事業では「生産から販売までの本会グループ機能をフル活用した総合的な事業提案による畜産農家との連携強化と事業拡大」に取り組んでいく。
 生産部門と連携した畜産農家との関係強化による集荷基盤の拡大や県域販売事業の拡大、大消費地販売力の強化など「畜産販売事業の強化」が第1の重点課題だ。
 そして、「畜産農家の経営体質強化支援と連携強化」「飼料原料の安定確保・有利購買と配合飼料の競争力強化」も重点課題だ(詳細記事:畜産総合対策部)。また、全国的な余乳処理体制整備による需給調整機能の強化など「酪農事業の強化」も重要な課題だ。

JA全農「3か年計画」の概要

◆豊かなくらしを支援する生活関連事業

 

 生活関連事業は「エネルギー需要変化に対応した石油・ガス事業基盤の再構築と『食と環境』を軸とした地域に根ざした豊かなくらしの支援」を行っていくことにしている。
 エネルギー関係では、「石油事業マスタープランの完成によるJAグループシェアの維持・拡大」や「ガス事業における保安体制および小売機能の強化」が重点課題となる。また最適なホームエネルギー機器の提案・販売も燃料部の新たな重点課題といえる。
 また、国産農畜産物のJAグループの販売拠点であるAコープでは、「国産こだわりの徹底」や「農産物直売所を併設した新業態店の出店促進」(詳細記事:Aコープ―コンセプトの明確化で事業強化を)、会社の広域再編・経営規模拡大などによる競争力の強化が重点課題となっている。

 


◆カギはどれだけ「近く」なれるか

 

 最後に経営面では、「事業競争力の強化、新規事業領域に向けた投資・研究開発の拡充や経営リスクに対処」できるような経営基盤の拡充を図っていく。あわせてリスク事案の再発防止に向けた取り組みを強化する(宮下理事長インタビュー参照)。
 こうした3か年の取り組みを図でしめしたのが上図だが、これらの目標や課題を実践することで「生産者と消費者の懸け橋」という経営理念を目に見えるものにしていこうと全農では考えている。
 いずれにしても、生産者にも消費者にもどれだけ「近い」存在になることができるかが、この3か年計画が成功するかどうかのカギではないだろうか。

(2010.08.31)