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コラム:米マーケット情報

【(株)米穀新聞社記者・熊野孝文】

2020.01.07 
【熊野孝文・米マーケット情報】「国策に売りなし」は本当か?一覧へ

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 コメが先物市場に試験上場される10年ほど前に東北のある農協の依頼を受けてコメ生産者を前に講演したことがある。その頃ちょうど東京穀物商品取引所がコメの上場に向けて準備し始めたころで、そのことが頭にあって、コメの価格動向について先渡し取引と先物清算市場が重要になるとし、その仕組みを話し始めたところ、突然会場の出席者から「純情な生産者を騙すな!」とヤジが飛んできた。

 この産地はこのころ純情米をキャッチフレーズに自県産をPRしていたのだが、まさか語呂合わせのようなヤジが飛んでくるとは思わなかったが、その場では「コメの取り引きに純情だとか純情でないとかは関係ないんですよ」とかわした。講演後に農協職員に聞いてみると、悪質な業者がこの地区の農業資材会社と同じ社名を使って詐欺まがいのことを行った経緯があったことを聞かされ、こうしたヤジが飛んでくるのも仕方ないと思ってしまった。
 その後、コメの試験上場が始まった時も取引所や取引員が産地で生産者を集めたセミナーを開催しようと会場を予約しようとしたところ自治体の中には会場を貸してくれないところがあった他、取引所が現物の受け渡し用に消費地だけでなく、産地にも受渡場所が必要だということで、産地の倉庫会社8社に依頼したところ全て断られてしまったということもあった。今はそうしたことはなく、取引所の指定倉庫になった会社では産地での置場渡しの際、消費地までの輸送も請け負うという条件に応じるところさえあり、まさに様変わりという状況になった。ただし、現在、産地の生産者や農協がコメ先物市場を積極的に活用しているのかと問われると程遠い状況だと言わざるを得ない。
 なにせ大規模稲作生産者の参加が増えたとは言え、実際に取引所に玉を建てている生産法人は84社に過ぎない。農協に至っては2農協だけで、そのうちの1農協にどのようにコメ先物市場を活用しているのか取材を申し込んでも断られる有様で、当業者が積極的にコメ先物市場に参加していると言える状況ではない。もちろん、先物市場を利用するかしないかは個人でも会社でもその判断は自由だが、今、どのような動きになっているのかは知っておいた方が良い。
 そこで商品設計が分かりやすく日々の取り引きが活発な新潟コシを例に取引員や当業者の見方を交えてその動向と今年の値動きの予想について触れてみたい。
 新潟コシの昨年12月27日の引値は、2月限1万6600円、4月限1万6520円、6月限1万6580円、8月限1万6650円、10月限1万6350円、12月限1万6380円であった。2月限から8月限までは元年産コシヒカリが受渡しの基準品になり、10月、12月限は令和2年産が基準品になる。もし、10月限で元年産を渡すと大幅な古米値引きが設定されるため、売り手は先物市場で元年産を換金したいのであれば8月限までに渡してしまうことになる。ここで重要になるのが8月限と10月限のサヤ関係で、一時は8月限が10月限よりも1500円も高い時があったが、大納会ではこの逆ザヤが300円までに縮小した。穀物取引において取引所がいくら新古格差を拡大しても旧穀と新穀の逆ザヤは縮小するというのがセオリーである。そうしたセオリーに沿って逆ザヤが縮小して来たというのがこれまでの動きである。
 ただし、このままサヤが縮小して順ザヤになるかと言うと見方が異なる。その大きな要因としてコメ政策が関わって来る。
 現在、令和2年産コシヒカリを10月限に売りヘッジする生産者は「1万6300円」を収益の目途にしている。主食用米としてコシヒカリが1万6300円で売れることが確定すれば、飼料用米や加工用米、業務用米を作付するより手取りが良いと判断しているので、先物市場で所得を確定させる。
 だからと言ってこの価格が上値の天井になるとは限らない。
 なぜなら令和2年産コシヒカリは作付けも始まっていなければ、今年の天候等によって大きく供給量が違って来るからで、1万6300円が割安だと判断する買いエネルギーが増大する可能性もある。チャート(日足の罫線)的には、これまでの過去の足取りを見ると、旧穀の受渡し最終限月になる8月限には特徴的な値動きが繰り返されている。それは毎年6、7、8月の端境期に最高値を付けるという事で、今年もそれが当てはまるのか否かが最大の焦点になる。もう一つ取引員が付け加えることは株や商品市場では「国策に売りなし」という格言があることで、この格言が本当なのか試される年でもある。


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