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コラム:グローバルとローカル:世界は今

【三石誠司 宮城大学教授】

2017.05.19 
(031)収穫期なのに人がいない!一覧へ

 5月12日、日本学術会議講堂にて、「大学農場が牽引する新しい地域連携」と題する教育シンポジウムが開催され、私もパネリストの1人として参加させて頂いた。パネラーとしての報告内容は「大学ブランド開発を通じた地域連携の効果と課題」である。
 ここでは安易な商品開発が進行することにより生じるリスクのうち、知的財産権に関することを中心に報告した。「〇〇大学農場」とつければ何でも売れる時代から、売れるかもしれない時代へと移り、今後は恐らく、明確な安全管理と品質管理、さらには商標管理までもが求められることを指摘した。
 ところで、大学の開発商品を集めて成功した事例として「大学は美味しい!」というプロジェクトがよく知られている。このプロジェクトの立ち上げから実際の運営までを担った女性もパネラーの1人であり、非常に興味深い報告をされていた。

 シンポジウムの一連の流れの中でやや気になったことがあるので書き留めておきたい。
 大学の附属農場には様々な新商品のネタとなるべき技術やシーズ(種)が眠っている。それを商品化するのはもちろん喜ばしいことである。その一方で、最近の大学開発商品の中には、農場などの生産現場と全く関係ないところから出てきた商品も多い。例えば、私のような文系の経営や経済などの教員が中心になり、マーケティングや戦略のスキルを使用して開発した商品などがその例に当たる。実際、私自身もこれを実行したことがある。
 既存の商品のパーツをいくつか組み合わせ、自家製パソコンのように新商品を作り上げる。製造業ではこれをモジュール化と言い、基本的に全ての商品はモジュール化する。
 問題は、毎日現場で植物や動物と向かいあい奮闘している農家や大学農場の教員と、農業の現場を知らなくてもモジュール化を活用し、農産物を活用した加工品や食品の新製品を次々と作る人達との間に生じる微妙な心理的ギャップをどのように埋めるかである。単なる組み合わせで出来た商品は、見栄えは良いが誰でも作れるため持続力がない。それでは中長期的に見た場合、地域や組織の本当の看板商品にはなり得ない。

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 さて、昨年、私のゼミでは学生有志を募り、福島県のJAふくしま未来の協力を得て、管内の桃の選果・箱詰めのお手伝いをさせて頂いた。述べ40名以上の学生達が試験前の週末にもかかわらず参加してくれたし、私も1人のラインワーカーとして1日だけであったがお手伝いをした。
 私自身は、本来大学生が最優先して行うことは学業であり、こうした作業は仮に実施するにしてもあくまで学業の一環として、あるいは大学のカリキュラムの外枠で行うべきものであると考えている。だからこそ、先の桃の話も、そしてそれ以前にあるメーカーやコンビニと共同して開発した商品も正規の大学の授業やサークル活動ではなく、ゼミや学生の有志による課外活動のような位置づけで実施している。

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 農業現場の人手不足に対し、大学生が支援を行うこと自体は好ましいことである。ただし、それが授業のような強制力を伴う形になると話が難しくなる。例えば、はるか昔の「勤労動員」とどこが違うのかということになりかねない。
 したがって、各地域、各大学、各企業などが自発的に自分達の回りを見て「大人の判断」をすることが求められるだけでなく、社会貢献や地域連携という掛け声による仕組みの悪用や濫用に対する大学側のしっかりとした管理基準も必要である。そうでないと、農業現場や行政の単なる下請け作業への無償労働力として学生を差し出すことになりかねない。

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 アニメの名探偵ではないが、真実はひとつ!収穫期に農業現場には人がいない。
 この問題を体感するには、まず、農業や農学、食品や栄養に関わる学生や教員は、週末や休暇を活用して、一度で良いから実際の農産物の収穫作業を手伝う機会を作ることをお勧めする。そうすれば、新商品の開発においても、無機的なパーツの組換えではなく、何が生産現場の気持ちを支えているかがわかるし、先に述べたような心理的ギャップが生じることもないであろう。そして、そうした体験が座学の知識と融合することで、農業や食品に対する感性がさらに磨かれることになると思う。

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