シンとんぼ(88)みどりの食料システム戦略 現在の技術で実現可能でしょ(2)2024年4月6日
シンとんぼは令和3年5月12日に公表された「みどりの食料システム戦略」をきっかけに始まり、ひと通りの検証と考察が終了したので、これまでのことを整理してみている。
みどり戦略の大義は「安全な食糧を安定的に確保する」であり、それを実現するためには新しい技術開発、イノベーションが必要だとなっている。そこでシンとんぼでは、同戦略のKPIやスマート農業について、その有効性や今後の農業に与える影響などをひととおり検証し、「食の安全」とは何かというテーマとを照らし合わせて、色々と考察を加えてきたのだが、その結果たどり着いたのは、どうやら現在の技術でも「安全」な食料の生産は可能ではないか? 何も現在の技術を否定する必要は無いのではないか? ということだ。前回、農薬のKPIに絡めて整理してみたので、今回は化学肥料だ。
化学肥料に関するみどり戦略のKPIは「化学肥料使用量の30%低減(2050まで)」だ。このKPIも、何故、化学肥料を減らすことが「安全な食糧を安定的に確保する」ことに結びつくのかが分からず、結局国からは明確な根拠は示されていない。
ご存じのように、作物が根から吸収できるのは無機化した肥料成分である。化学肥料の代替で使用が推奨されている有機質肥料であっても、土壌中の微生物の働きで分解されて無機化して初めて作物が利用できるようになる。つまり、化学肥料は作物がすぐに利用できる状態で即効的なものが多く、有機質肥料は土中で分解されるまで時間がかかるのでゆっくり効くという違いがあるだけで、最終的に無機物質である肥料成分が土壌中に供給されることに違いはない。
化学肥料がさも富栄養化の原因だといわれている場合があるが、そもそも堆肥のような有機質肥料だって過剰に施用されれば、富栄養化の原因となり得る。富栄養化を防ぐには、土壌に施用した肥料分が河川等の水系に流亡しないように、無駄な施肥を避け、必要量を正しく施用する適正施肥を徹底することの方が近道だ。
以前、東京湾、伊勢湾、瀬戸内海の3つの内海へ流入する窒素とリンの流入元の割合を調査した国の研究機関の結果を紹介したことがあるが、それによると「生活系」と「産業系」、「その他」の3つの流入元のうち「生活系」からの流入量が窒素とリンともに最も多く、ほぼ半分を占め、それに対し化学肥料が含まれると思われる「産業系」は、富栄養化の原因の4分の1程度だったということだった。つまり、富栄養化については生活系の排水を何とかすることの方が解決の早道であり、食料の国内生産量を減らすリスクを負ってまでも化学肥料を減らさなければならないという理屈にならない。
なので、「化学肥料を減らしましょう!」ではなく、現在既にある技術である「土壌診断に基づく適正施肥を徹底し、肥料分の河川への流亡防止対策を徹底しよう!」というのがみどり戦略的には正しいメッセージなのではないだろうか。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日
-
キウイブラザーズ新CM「ラクに栄養アゲリシャス」篇公開 ゼスプリ2025年4月30日
-
インドの綿農家と子どもたちを支援「PEACE BY PEACE COTTON PROJECT」に協賛 日本生協連2025年4月30日