【現地レポート・JAの水田農業戦略】新たな輪作で活路(1)「継続こそ力」 JAいしのまき2024年3月29日
主食用米の国内需要が継続して減少していくなか、地域の水田を維持し農業を持続させるため生産から販売までのJAの戦略が期待されている。今回は乾田直播(ちょくは)水稲や子実トウモロコシ栽培を導入し、新たな輪作体系の確立による水田フル活用と持続可能な農業の実現に挑戦する宮城県のJAいしのまきとJA古川を取材した。
乾田直播で大規模化 水稲+麦+大豆の2年3作体系へ
JAいしのまき管内の水田面積は約1万2000ha。このうち主食用のほか、加工用米、政府備蓄米、飼料用米、輸出用米など、いわゆる米による転作も含めた水稲作付面積は8400ha~8500haとなっている。
担い手への農地集積が今後さらに進むことが見込まれるなか、今、力を入れているのが水稲の乾田直播だ。宮城県は愛知県に次いで取り組み面積が多く2000ha。そのうちJAいしのまき管内では1000ha(湛水直播約30haを含む)を超し、水稲作付面積の10%以上を占めるまで拡大した。
規模拡大対応体系へ
乾田直播は2月ごろにプラウで耕起したほ場に3月から5月にかけて種子をまく。バーチカルハローで土を細かく砕いて種子をまき、その後、鎮圧する。播種は1時間に2haほどが可能で、大面積をこなすことができる。ここまでの作業は麦の播種と同じ技術である。その後、5月末に出芽すると水張りし、移植栽培と同じように除草剤の散布、水管理を行うことになる。
機械化体系の確立で播種スピードが早いため、大面積を引き受けることができるだけでなく、播種時期が3~5月と幅広いことから作業の分散にも貢献する農法である。育苗の手間とコストを省くことができコストダウンにもつながる。収量は10a540kgで移植栽培と同程度を安定的に確保している。
JAではこの乾田直播への取り組みを基軸として「水稲+麦+大豆」の2年3作体系の確立を地域の水田農業の姿として描く。
同JA営農部営農企画課の遠山和之課長によると水稲の乾田直播の機械化体系は麦と同じであることから、麦の作付けにも取り組もうという機運が生産者に生まれ「水田フル活用につながっている」と話す。この栽培体系では麦・大豆の栽培で適切に肥料を投入すれば、その次の水稲栽培では天候不順でよほど生育が不良でない限り、無肥料で栽培できるといい、これもコストダウンにつながる。
遠山和之課長
ただ、同時に主食用米の需要減少が見込まれるため、今後は水稲の作付けでは主食用米以外に仕向けることに力を入れることが求められる。
#CE刷新し精米輸出 「とも補償」活用で水田利用多様化
その取り組みのひとつが輸出用米だ。
JAは2018年に「JAいしのまき中央カントリーエレベーター(CE)」を竣工(しゅんこう)した。5基目の施設だが、国の農畜産物輸出拡大施設整備事業として採択され、通常のカントリーエレベーターの機能に加えて、精米し、さらに真空パックに包装する設備も備えている。
品種は「ひとめぼれ」。23年産米では240tの輸出の見込みで24産米ではさらに輸出数量を増やす計画だ。
こうした主食用以外への米による転作面積は2月の初めに地域で合意形成する。主力の主食用品種の「ひとめぼれ」のほか、「まなむすめ」など主食用以外に仕向ける予定の品種も決める。その後、集団で転作を行う区域とそれを担う組織なども提示しながら、個々の生産者に転作を割り振って合意を得ていく。
輸出用米を真空パックする包装機(左)と金属検知機
地域内の調整で重視しているのは、担い手への集約化とともに、できるだけ連担化すること。高齢化で法人等への作業受託は進むが、同時に効率的な農地利用も求められる。
こうした合意形成を可能としているのが全地域に今でも「とも補償」の仕組みがあるからである。地域によって違いはあるものの、10a当たり5000円前後を拠出して基金を造成、転作作物を栽培しても、とも補償による補てんで主食用米と同レベルの所得となるよう調整をしている。
こうした「とも補償」の仕組みが残っている地域は全国でも数少ないと思われるが、水稲主体で販売額約102億円のうち54億円(2022年産)ほどを水稲が占めるJAいしのまき管内で、需要に応じた生産に取り組むための「人と人との合意形成」には欠かせない仕組みだといえる。それが水田の高度利用にもつながってきた。
実際、こうした合意形成の仕組みと、米・麦・大豆の2年3作体系の取り組みで5年前に水稲単作だった若手後継者が、水稲面積を拡大するとともに麦・大豆も栽培、「やりがいを持ってやっています」(遠山課長)という。
生産・販売面では輸出米を増やすほか、主食用米はもちろん飼料用米も加工用米にもしっかりとしたニーズがあるためそれに応えていくことが課題になる。たとえば、ササニシキは酒造組合から引き合いがあるほか、加工用米は和菓子会社向けの要望があるという。
主食用米の生産数量の目安が減少傾向にあるとしても需要がなくなったわけではなく「主食用米も買ってくれる相手にしっかり届けることが私たちの責任。加工用も含めてしっかり実需と結びつきを強めることが水田フル活用につながっていくと思います」と遠山課長は話している。
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・【現地レポート・JAの水田農業戦略】新たな輪作で活路(2)子実コーンの「先駆者」 JA古川(24.3.29)
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