(456)「遅さ」の価値【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年10月10日
現代社会では、「スピード」や「効率」が重視されます。とくにビジネスの世界では「遅さ」は回避すべきとされがちです。ただし、持続可能性という観点から見ると、「遅さ」は必ずしもマイナスではなく、むしろ必要な価値として再評価される必要があるかもしれません。
現代人の日常生活はある意味「速さ」に支配されている。それは「効率性」や「生産性」と言い換えて良いかもしれない。
しかし、日常生活の細かい面をよく見ると、「遅さ」が意外なほど重要な価値を提供している点に気が付く。
例えば、学習や仕事において「速さ」は多くの場合不可欠である。限られた時間で正解を出来るだけ導き出すような試験や受験、資格取得の勉強など、「速さ」や「効率性」が求められる。ここでは「AならばB!」という形の正解探求型思考と、迅速な処理能力が威力を発揮する。
だが、ある分野に習熟するには一定の時間が必要である。つまり「遅さ」がより確実な成果をもたらすことが少なくない。職人の手造りによる工芸品などは、時間をかけるからこそ、大きな価値が生じる。自動化や機械化では出せない魅力こそが評価されている。
大学教員の世界では論文の数が評価指標として重視される傾向がある。分野にもよるが一定期間に数多くの「論文」を書く研究者は目立つ。これに対し、5~10年、場合によってはそれ以上の時間をかけてひとつの素晴らしい研究成果を残すスタイルを継続している研究者もいる。どちらも重要だが、現代では一般的に多くの組織は会計年度という仕切りに基づき予算を計上しているため、年度単位での評価になりがちである。こうした仕組みのもとでは「速さ」や「量」が目立ちやすく、「遅さ」に基づく価値は周囲には見えにくくなる。
これは小説家などにも似ている側面がある。ある時期、常に平積みされていた流行作家の本でも時間を経ると書店では見かけにくくなる一方、長い時間をかけて少数の長編小説を書く作家の本は意外と残っている。書店の棚に長く並ぶ本を持続可能性という観点から見ると、「生き残る本」は、意外と「遅い」作家が書いた作品であったりする。
視点を転じて地域社会を見ると、合意形成なども「速さ」と「遅さ」が対立する場である。危機意識の高い課題についてはスピード感ある「早い」改革が望まれる。
一方、信頼関係や納得感を重視する場合には、適切な時間をかけた丁寧な議論や手続きが好ましい。時間をかけた議論の方が、持続可能な形の果実を生み出すこともある。
「速さ」と「遅さ」の価値は先進国と途上国でも異なるし、一国の国内、あるいはひとつの地域内でも異なる。興味深い点として、近年ではあえて「不便さ」や「遅さ」を都会では味わえない「資源」として楽しむ傾向が出始めていることだ。
例えば、携帯電話が通じない場所で数日過ごすだけでも、単なる田舎暮らしではなく、普段とは異なる感覚や思考が促される。当初は不安になるかもしれないが、一日断食のような感覚で「一日携帯遮断」をし、意識的に「遅い」時間を楽しむ人もいるようだ。
個人的な観点から言えば、さすがに電気が無いと困るが、無ければ無いで個人レベルでは何とかなることもある。「地球や環境に優しい」などと大上段に構えなくても、意識的に「不便さ」や「遅さ」を行動に取り入れることにより、世の中は意外とギスギスしなくなるのではないか。
「速さ」が支配する世界に残された最後の自由が「遅さ」であることに気づいてほしい。
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