【検証・改正畜安法3年(上)】生乳需給で混乱招く 制度の「欠陥」露呈 農政ジャーナリスト 伊本克宜2021年5月17日
生乳流通自由化を促す改正畜産経営安定法施行から3年が過ぎた。官邸農政主導による実態軽視の規制改革論議の末の改正だっただけに、問題点が噴出している。誰のための、何のための改革だったのか。数回にわたり検証する。
「恒久法に」のトリック
改正畜安法ほど、関係者のその後の評判が悪い法律は珍しい。
表向きは「暫定法の加工原料乳補給金制度を恒久法に統合した」(農水省)とされる。酪農安定の根幹だった加工原料乳補給金制度、いわゆる酪農不足払い制度は、確かに一時的な〈暫定措置法〉として出発し、しかも制度発足から半世紀を過ぎていた。当初、〈暫定〉の期間は15年程度と見られていた。
畜安法改正が課題となった当時、担当の生産局長だった枝元真徹・現農水次官と改正畜産法で何度か議論した。この中で枝元が強調したのは、指定団体以外に生乳販売する、いわゆるアウトサイダーの拡大だ。「このまま補給金制度を続ければ系統外の割合はさらに増える」と見ていた。だから、一定の条件を付けそれらも内包し需給計画に位置づける手法を模索していた。補給金制度は運用改善という形で、生乳流通の変化の実態に応じ幾多の改正を経ていた。既に改築は無理で、一度、建物解体=酪農不足払い制度廃止し、畜産全体をカバーする畜安法に取り込むことを目指す。
枝元に「酪農不足払いを暫定法から恒久法に変えたらどうか」と聞いたことがある。枝元は「法制度上、暫定法を恒久法にすることはあり得ない」と主張した。しかし、後々〈改悪〉とされる改正畜安法は、規制改革の意も踏まえ無理を承知の上での制度改正となる。結果、「暫定法を恒久法に改め一層の生乳需給安定と酪農振興を図る」とした建前とは違い、かえって生乳需給の混乱要因を作ってしまう。
トラブル噴出の〈改悪〉
ここで改正法施行から3年の酪農関連の動きを見てみよう。下記の表に示した。ここで分かるのは、生乳需給混乱の実態だ。生乳制度改革で標的となった指定生乳生産者団体は、加工原料乳補給金をツールに一元集荷多元販売を担い、牛乳、乳製品の用途別需給安定を図る。それが、改正法で相次ぎ支障が出ている。
〈2018年〉
・4月改正畜安法施行
・MMJが北海道に新会社設立
・大地震で酪農版ブラックアウト
〈2019年〉
・4月ホクレンが「いいとこ取り」防止策
・11月MMJ出荷農家が受乳拒否で生乳廃棄
・国の審議会畜産部会でも改正畜安法検証の指摘相次ぐ
〈2020年〉
・3月新酪肉近で改正畜安法も念頭に「生乳取引安定」明記
・4月コロナ禍で政府緊急事態宣言。生乳需給問題深刻に
・11月一部酪農家が生乳廃棄の損害賠償でMMJ提訴
〈2021年〉
・3月規制改革推進会議WGで一部委員から「ホクレン分割論」
・4月ホクレンが「いいとこ取り」取引拒否へ全道ルール導入
・6月ホクレン含め規制改革実施計画の行方注目
2017年農業改革国会で全農と一体で一気に
生乳制度改革は2017年の第193通常国会で法案を可決した。同年1月20日召集の国会冒頭の施政方針演説で安倍晋三首相(当時)は「農政改革を同時並行で一気呵成に進める」と強調した。標的になったのは全農と酪農だ。
つまりは、官邸主導で小泉進次郎農林部会長が進めた経済事業改革の仕上げを意味する。農政改革は、まず全中の一般社団化で農政運動の力をそぎ、次には全農と系統共販率が9割以上と高い生乳制度改革に向かった。最終的に現行指定団体制度は廃止され、競争によって生乳流通は自由化されていく。だが、それが酪農家と消費者にとって良かったことにはならなかった。(次回は24日付)
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