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コラム:地方の眼力

【小松泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授)】

2018.03.28 
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 「私は、就任以来、争い事が生じた際には、国際法に照らして正しい主張をし、力の行使や威嚇に頼らず、平和的解決を図るべきと、国際社会に訴え続けてきました」とは、海上保安大学校卒業式(平成30年3月24日)での内閣総理大臣祝辞の一部。圧力主義者の言葉とは思えぬ祝辞ではあるが、“息を吐くように嘘を吐く人”の言葉ゆえに驚きはなく、信じぬのみ。

◆農業を出汁に使うな

小松泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授) 「全国にある故郷、そして津々浦々の田園風景が美しい日本を形づくってきたのではないでしょうか。そしてそれを支えるのが、農林水産業です。...農林水産業は厳しい仕事です。ですから、みなさんの手はゴツゴツしている。でもこのゴツゴツした手で農業を支え、地域を支え、美しい田園風景を守ってきた。日本の基を担ってきた。この誇りとともに生きてきた。この大切な農林水産業を私たちは必ず守ってまいります。私たちが進めている改革はそのための改革であります」と、語ったあとに農業改革の実績をあげつらう。これは、25日開催の自民党大会における総裁演説の一部。規制改革推進会議と農水省にドリルをもたせて真逆のことをやっている人には、使えないはずのセリフの数々に開いた口がふさがらない。
 
◆ドサクサ紛れのTPP成立を許すな

 東京新聞(27日夕刊)には、佐川氏証人喚問詳報と並んで、TPPの発効に必要な関連法案と新協定の承認案が閣議決定された記事が載っている。それによれば、国会審議を経て会期中(6月20日まで)の成立を目指しており、法案は著作権法や畜産物価格安定法など十法。ただし、同紙28日朝刊には、森友文書改ざんをめぐる与野党対立を踏まえ、「この情勢では審議開始がいつになるか見通せない」との政府関係者の懸念を伝えている。
 森友文書改ざんの追及は当然であるが、その間に、農業競争力強化支援法の時のようにしれーっと何の波風も立たず決まっていく可能性大。自民党議員の"働き方改革"にはまったく期待できないので、野党議員には、しっかり働いていただきたい。

 

◆農業の働き方改革とGAPの本質

 "働き方改革"といえば、農水省も平成29年12月から「農業の『働き方改革』検討会」を開催してきた。第4回検討会(2月28日)で示された、「とりまとめ骨子案について」には、同改革への理解と共感を広め、農業経営者の意識改革につなげていくための具体的推進手段として、GAPへの取り組みがあげられている。
 当コラムは、小泉氏を広告塔にすえ、東京オリ・パラを出汁にしたGAP推進キャンペーンの底の浅さを批判してきた。
 農業の働き方改革を取り上げた日本農業新聞(1月14日)の論説では、多様な人材の活用を議論する上で、最も大切なのが「安全第一」の発想と指摘する。「農業就業人口が減り続ける中で10万人当たりの事故死は過去最悪の16.1人(15年)。...建設業の2.5倍に上り、平均1日におよそ1人が命を落としている」ことを取り上げ、農業が牧歌的な仕事ではなく、「危険と隣り合わせの産業」であることを訴える。また、雇用関係が生じれば労働法の適用対象となり労災加入が不可欠であることなどを、多くの農家が気付いていないことを危惧する。そして、「やみくもに農業に人を持ってくればいい、という議論は乱暴だ」と、警告を発する。
 さらに3月6日の同紙論説では、「GAPの本質は、食品安全、環境保全、労働安全のルールや作業手順を生産工程に落とし込み、経営の持続可能性を実現すること。農作業安全の視点で言えば、労働安全管理そのものだ。認証はそのための手段。まず日常作業にGAPの手法を取り入れることから始めよう」と提言する。
 "予防に勝る安全対策はない"として、労働安全管理の視点から"GAPをする"ことについては、当コラムも賛成である。

 

◆事業者にも消費者にも今だGAP浸透せず

 農水省は、国内の食品関係事業者にGAPに関する意識調査(平成29年10月から11月に実施、4000事業者を対象、有効回答数1066)を行った。
 GAPの認知度については、「知っていた」(40.0%)、「聞いたことはあるが、内容は知らなかった」(33.5%)、「知らなかった」(26.5%)。名前はかなり浸透していると判断される。
 取扱については、「取引要件にして、仕入れている」(2.3%)、「取引要件ではないが、取引の際に優先的に仕入れている」(2.6%)、「取引要件や優先取引要件とはしていないが、仕入れている」(11.5%)、「仕入れていない」(38.4%)、「わからない」(43.7%)。背景は別として、仕入れていることを認識している事業者は2割を切っている。
 仕入れている業者における、仕入れ単価の差異については、「総じて高い」(25.1%)、「総じて変わらない」(61.7%)、「総じて安い」(0.6%)、「その他」(9.1%)。生産者にとって、安くはならないが、高くなるとは言い切れないようである。
 同省は、消費者にも意識調査(平成30年2月に実施、国内の20歳以上69歳以下の男女を対象、有効回答数2000人)を行った。
 GAPの認知度については、「知っていた」(5.4%)、「聞いたことはあるが、内容は知らなかった」(22.0%)、「知らなかった」(72.7%)。名前すらも浸透していない。
 取引におけるGAP認証の要件化等については、「評価する」(56.4%)、「わからない、どちらともいえない」(38.3%)、「評価しない」(5.4%)。「評価する」が半数を超えてはいるが、「ないよりあった方が良いよね」程度の結果と軽く受け止めるべきである。
 問題は購入意向である。「割高になっても購入したい」(18.5%)、「同程度の価格であれば購入したい」(71.8%),「購入したいと思わない」(9.8%)。今のところ、購買意欲は高くないと判断される。
 農水省笛吹けど、事業者も消費者も踊らず、といった段階である。

 

◆許すな差別的官製商談会

 19日に農水省は「第3回GAPの価値を共有するフードチェーン連携パートナー会」を開催した。日本農業新聞(20日)によれば、焦りを覚えたのか、農水省の生産局長は「フードチェーン全体を通じてGAPに取り組んで生産された農産物を取り扱うことは、農業現場の(GAPの)取り組みや認証取得拡大の後押しになる」と、述べている。
 GAP認証農畜産物の優先的取扱を、見方を変えればGAP非認証農畜産物の劣後的取扱を求めているようなもの。このような差別的取扱は断固許すべきではない。事業者も、GAPの精神を踏みにじるような官製商談会は拒否すべきである。
 常態化した、手段を選ばぬ政治手法を"日本の基"においてさえも行うアベ農政を許さない。
 「地方の眼力」なめんなよ

 

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