JAの活動:シリーズ
地域複合農業戦略に挑む(1)JA秋田中央会会長 小松忠彦氏【未来視座 JAトップインタビュー】2024年4月19日
秋田県全体の地域農業浮揚をめざし、2022年からJA秋田中央会会長に就任した小松忠彦氏。JA秋田しんせい組合長の時代から、米プラス複合経営で将来の展望を模索してきた。座右の銘は「不易流行」と、改革の先頭に立つ。地域農業活性化への道を、文芸アナリストの大金義昭氏が聞いた。
米プラス園芸や畜産絡め"進化"
JA秋田中央会会長
小松忠彦氏
大金 お生まれは?
小松 1958年に13代続く農家の長男に生まれ、私で14代になります。戦後の農地改革で裸同然になり、家を継いだ時は水田3・6ha、山林が36haでした。父親からは「毎年50aずつ木を伐(う)っても、70年は食べられる!」と言われました。しかし自由化で外材が出回り、私が就農する頃には「山で食える」という時代ではありませんでした。農業はもっぱら米で『ササニシキ』でした。
大金 初めから継ぐ意思が?
小松 普通高校でしたから、進学して教師か獣医師になりたかったのですが大学受験に失敗し、秋田県立農業短大に進みました。息子が学校の教師になり、親の夢をかなえてくれました。
大金 就農後は?
小松 米価が少しずつ上がり、やりがいがありました。今から思えば、いい時代でした。
大金 JA青年組織との関わりは?
小松 地域の青年会で活動し、妻と出会いました。もらったラブレターは、今でも秘蔵しています。(笑)
土地改良区(受益面積1100ha)の理事長を経て、2012年にJA秋田しんせいの非常勤理事になりました。2期務めたら、前任の組合長から「次をやれ!」と突然言われ、びっくりしました。JA経営には素人同然でしたが、私の後任の今の組合長や副組合長と「3本の矢で!」ということで決断ができました。
大金 座右の銘は「不易流行」とか。「守るべきは守り、変えるべきは変える」という...。
小松 剣道の先輩から昇段祝いのお返しにいただいた扇子に、墨痕鮮やかに書かれていた言葉で、これはいいなと思いました。
大金 現在の段位は?
小松 4段です。(笑)
大金 それはご立派! 私も高校時代に熱中しましたが、いっこうに上達しなかった。(笑)
小松 18年に組合長に就任した当時の環境は厳しかった。米価が下がり続け、高齢化が進行して総合事業の効率化を迫られました。不採算部分の実態を組合員にていねいに説明しながら、スクラップ・アンド・ビルドをどう進めるか。後ろ向きの課題に追われました。
JAの養豚経営で出たふん尿を使ってペレットを作り、耕畜連携の一環として田んぼに投入していましたが、養豚が赤字で、ペレット工場の更新投資ができない。苦汁をなめ、やめざるを得ませんでした。和牛の繁殖に切り替え、預託を始めました。
大金 園芸や果樹にも注力します。
所得向上へ米依存脱却
小松 土地利用型の新しい品目に取り組まないと、農家所得が向上しない。小菊、リンドウ、アスパラガス、シイタケ、ミニトマト、キャベツなどに力を注ぎました。
大金 シャインマスカットも!
小松 高値の果樹を導入し、JA研修農場を設けて若者を呼び込もうと考えました。農業の現場に投資を促す意味もあります。ハウスの中の「盛土式根圏制御栽培技術」が確立しているので、値の高い施設園芸作物で勝負しようというわけです。
大金 米を基幹に複合経営をめざすと?
小松 「米依存からの脱却」です。米だけでは、需要が増えない限り値段が上がらない。需要が減っていく作物を作り続けても利益は上がりませんから。環境制御が可能な新しい施設園芸作物や畜産などを米と組み合わせ、地域全体で農業の複合経営をめざさなければ将来展望が開けない。
『あきたこまち』はデビュー40周年を迎えます。『コシヒカリ環1号』に『あきたこまち』を7回戻し交配した『あきたこまちR』はカドミウムを吸収しない品種です。味が良く高温に強い『サキホコレ』はデビュー3年目です。化学肥料や農薬の使用を減らして出荷しています。最近、「ローソン」から『サキホコレ』を使用したおにぎり「紅鮭ほぐし」も発売されました。
大金 JAの組織改革については?
小松 JAの総合事業は旧来、信用・共済・経済など縦割りに終始してきました。組合員から見れば、要望が「一つのところで一度に」解決しない。たとえば新しい農機具を買いたい時に融資は信用、機械は農機センターといった具合です。職員が農家に出向くことはもちろんですが、「ワンストップ」で組合員の課題が解決できるようにしたいと私が言い出しっぺになり、今の組合長がその仕組みを実現しています。
大金 連携プレーですね。
小松 彼は職員出身ですから、組織も人も知り尽くしています。
大金 22年の中央会会長就任時には、「農業産出額東北6県最下位からの脱出」を目標に掲げました。
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