【熊野孝文・米マーケット情報】秋田あきたこまち 市中相場急落の要因とは?2018年5月15日
ここに来て秋田あきたこまちの市中相場が急落した。仲介業者によると水面下の取引では関東着条件で1万5000円以下で成約しているものもあるという。
(上のグラフをクリックするとPDFファイルが開きます。)
出典:公益社団法人米穀安定供給確保支援機構
量販店での売れ筋御三家は新潟コシヒカリ、北海道ななつぼし、秋田あきたこまちである。
この3産地銘柄は数多く量販店で販売されている産地銘柄の中でも飛びぬけて販売量が多い。グラフは米穀機構がPOSデータを基に産地銘柄ごとの1000人当たりの購買頻度を示したもので、横軸が購買頻度で、縦軸が価格を現している。これで明らかなように御三家の購買頻度は極めて高く、それだけ消費者の支持を得ていることが伺える。ただ、ここまで消費者の支持を得るまでの成り立ちは大きく違う。品種としてデビューしてからの年月は、コシヒカリが60年、あきたこまちは30年、ななつぼしは15年を経ている。ブランド化の成り立ちは新潟コシヒカリが山の手の口コミであったのに対して、秋田あきたこまちはマスコミ報道、北海道ななつぼしは戦略的なテレビCMが奏功した。共通しているのは美味しさだが、品種の系譜はコシヒカリ系統なので、他のコシヒカリ系統のコメと比べてどこが違うのか際立った特徴は容易に説明できない。
農水省がまとめたマンスリーレポートの3月号に各産地銘柄の業務用向け販売割合が出ている。それによると新潟コシヒカリは15%、秋田あきたこまちは12%、北海道ななつぼしは18%となっており、それ以外は家庭用向けと言うことになる。ちなみに業務用向け販売比率が高い産地銘柄は宮城ひとめぼれ、山形はえぬき、栃木コシヒカリで、この3産地銘柄はこの調査が始まった28年も上位3位を占めており、業務用米の御三家とも言える。農水省のマンスリーレポートには今年2月末までの各産地銘柄の集荷、契約、販売進度も出ている。新潟コシヒカリは13万7700t集荷したのに対して契約数量は12万2600tで、その比率は89%、北海道ななつぼしは16万7700t集荷したのに対して契約数量は14万9600tで、その比率は91%、これに対して秋田あきたこまちは18万7700t集荷したのに対して契約数量は12万8200tで、その比率は68%に留まっている。
量販店のPOSデータの中には週ごとの各産地銘柄の販売状況を示したものもあるが、それを見ると秋田あきたこまちにはある特徴がある。それは週によって売れ行きが極端に上下することである。その原因はその週に特売があったかどうかで決まる。
東京のコメ卸によると29年産秋田あきたこまちの量販店での売れ行きは昨年より落ち込んでいるという。その最大の要因は、この卸の場合は秋田あきたこまちの特売を今年は1回も行わなかったことにある。正確に記すとやりたくてもできなかったのである。営業部長は「産地側からは集荷量が固まったはずなのだが年明け後も産地県本部からは、当社には年間供給の提示がなかった」という。
県本部から提示がなければ市中相場で手当てする方法もあるが、秋田あきたこまちは出来秋から新米の相場をリードするかたちで高値を走っていたことから特売価格に見合うような価格で玄米を調達できなかった。
量販店の精米特売のやり方は様々だが、少なからず納入卸も負担する。通常販売価格をプールして特売の財源に充てるというのならまだしも、最初から他店より安い価格でロングの供給計画を立てると大変なことになる。この卸の場合、ある量販店に秋田あきたこまちを5000t納入する契約を結んだのだが、その分だけで2000万円の赤字になり3月末で納入を打ち切った。
売れ筋の産地銘柄を確保するというのは卸の使命だが、売れ筋であったはずの銘柄が売れなくなった時はどうするのか? もちろん卸の負担になる。100%卸の負担になるような契約をしなければ良さそうだが、それができないのが現実。
その現実は卸を飛び越して産地にも負担を強いることになる。ある大手通販企業が30年産秋田あきたこまちの契約価格を提示している。その価格でこの企業が求める数量を供給する契約を結ぶのかどうかはすべて産地側の判断である。本来の事前契約とはそうしたものであり、リスクのない契約など存在しない。
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