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シリーズ:緊急連載-守られるのか? 農業と地域‐1県1JA構想

【田代洋一/横浜国大・大妻女子大名誉教授】

2017.10.06 
第1回 代理店化攻勢を跳ね返す一覧へ


 政府の「農協改革」はJAの信用事業の代理店化による事業分離と総合農協の解体が狙いだ。営農経済事業に専念するJAになるべきだとの当初の理屈が、最近では金融情勢の厳しさから経営リスクを回避することが必要だとの理屈に、臆面もなく変節していることにそれが現れている。それに対抗し、自己改革をやり遂げ組合員、地域住民から評価されて総合農協を維持して農業と地域を守る役割を発揮していくことがJAグループに求められているが、その方法のひとつして1県1JA構想をはじめとした「さらなる農協合併」が各地で検討されはじめている。
 この問題をどう考えればいいのか。大型合併JAの現場を調査している田代洋一横浜国大名誉教授に連載で課題提起してもらう。

◆「代理店化」論 根本に狂い

 奥原農林次官は経営局長だった2014年3月、ある講演会で農協の信用事業は「このままではもう持たない。...JAバンク法改正の際に、代理店化が可能となるよう仕組みを作ってある。しかし、その際に手数料水準が示されていなかった。信用事業は経営への影響が大きいため、自ら信用事業を行った際と同等に収益がもらえるよう明記した」と話した。
 ハテどこに明記されているのか。「農林水産業・地域の活力創造プラン」の別紙2の「農協・農業委員会等に関する改革について」(自民党農林部会等、2014年6月)に次のような文言がある。代理店方式の「活用を積極的に進めることとし」、中金・信連は「手数料等の水準(単位農協が自ら信用事業をやる場合の収益を考慮して設定すること)を早急に示す」と。さらに農水省の改正金融監督指針(2016年4月28日)Ⅳ-2は、上記「プラン」を「踏まえた適切な代理店手数料が設定されているのか」をチェックすることとしている。
 しかし手数料は国が権力的に左右できるものではない。代理店化すれば貯金は信連勘定に移行し、金融リスクや事務が信連・中金に移る。経済ベースで考えれば「同等の収益」などあり得るはずがない。事実、この9月に中金から各単協に手数料水準が提示されたは、貯金額に対してほぼ0.3~0.6%の範囲のようだ。現在の単協の信用事業の利回りの2/3~1/2といったところではないか。「同等の収益」にはほど遠い。つまり代理店化を押し付ける大元の認識が狂っていたのだ。

◆だが、ゴールは信用分離

 では、手数料さえソコソコの水準だったら代理店化してもいいのか、といえば決してそうはなるまい。農水省の担当官は、代理店化しても「地域に対して金融サービスは維持出来ます」としている。確かに窓口サービスは残るが、それだけのことだ。集めた貯金は信連勘定に移るから単協の裁量で運用できない。独自商品の開発権も非定型的な貸付けの決定権限も失う。信用事業担当の要員は減らさねばならず、いずれ支店統廃合を迫られることになろう。
 准組合員等には「農協とは身近な金融機関」という受けとめが多い。「なんだ金融機関としてしか見てくれないのか」と言うなかれ。ポイントは「身近な」だ。交通弱者も歩いて行けるところに年金を下せる農協支店がある。そういった地域密着性こそが農協の強みだ。だから地域密着金融機関たることは今後の総合農協の生きる一つの道だといえる。代理店化はその道を閉ざしてしまう。少なくとも大幅に狭めてしまう。
 農水省「農協の自己改革に関するアンケート調査」によると、「代理店方式を活用する」とする単協は0.3%に過ぎない。しかし「検討しているが結論は出ていない」単協は2016年は9.0%だったのが2017年には61.5%に急増し、「検討していない」は90.9%から38.1%に減った。単協は「代理店化の勧め」を無視はできないところに追い込まれている。「自己改革」のゴールは信用事業の代理店化なのだ。

◆さらなる広域合併の摸索

 「検討中」と言っても、「代理店化しません。現状維持です」では済まないだろう。今年の総代会資料で、信用事業の大幅な収益減、それを軸とする総収益の低下が明らかになった。代理店化しないにしても、それに代わる信用事業安定化の道を摸索せざるを得ない。そこで一つの選択肢として浮かび上がっているのが「さらなる合併」だ。
 既に山口県は1県1JA化の調印を果たし、後は単協の臨時総代会を待つだけだ。1月には徳島が1JAを目指すとし、4月には福岡が県内20農協と中央会・連合会の統合を提起した(県域貯金2.7兆円)。既に1県1JAは奈良、香川、沖縄、島根で実現している。
 現状では1県1JA化は西日本に限られているが、数農協への合併は、東日本でも既に福島が4農協への合併を果たし、秋田、宮城、新潟等でも動きが伝えられる。
 広域合併の話は、概して県域貯金額1兆円以下のところが多く、大阪でも1兆円規模への合併が検討されていることからすれば、1JA1兆円が一つの目安かも知れない。しかし1兆円が、今日の激動する金融情勢のなかで、必ずしも安定を保障するものではない。となると1県1JA化とは、「今日における協同のエリアを県域にまで拡大しようとする動き」と幅広に捉えるべきかもしれない。

◆生協との違い 改めて認識

 県域という点では生協の経験がある。生協陣営は「連帯」という大義名分の下に1980年代までに県域まで単協規模を拡大してきた。そのうえで90年代には県域を超える事業連合会を展開してきた。そして2007年法改正で県域規制が撤廃されたことを踏まえて、今日では東京・千葉・埼玉のコープみらい、神奈川・静岡・山梨のユーコープという超県域単協まで出現している。
 なぜ生協ではそれが可能なのか。根本には国民生活の実態が地域性・県民性を失い「のっぺらぼう化」してきたことがあろう。加えて競合であるスーパーマーケット・チェーンがリージョナル展開していることへの対抗もある。しかしそれが地域密着的かは別問題だ。 翻って農協はどうか。農協は何と言っても産地あっての農協である。同じ作目をとっても産地形成という点では市町村や郡規模が多い。いちばん普遍性のあるコメをとってもそうである。

◆農協合併の事例に学ぶ

 農協合併にあたってはそのような「産地としての地域」への配慮が欠かせない。信用事業優先の合併ということでは危うい。既に1県1JA化した地域や数農協への合併を果たした地域は、そのような点をどうクリアしてきたのか。これまでの事例は今日の強制的「自己改革」以前の、その意味で地域自主的な動きだった。
 この間、1県1JA化や数農協への合併事例をいくつかヒアリングさせていただいた。「合併、是か非か」や「合併の勧め」でなく、そのような自主的な動きからどのような教訓や課題を引き出されるのかという観点からのヒアリングである。その結果を次号以降で紹介したい。以下ではそれに先立って論点の整理をしておく。
 第一は、合併の経過、その理由・目的である。何らかの地域共同体に依拠して展開してきた農協が、郡単位・県単位に一緒になるには長い時間を要し、紆余曲折がある。そのような長い時間と紆余曲折に耐えるには、よほどの覚悟がいる。いいかえれば合併しなければならない理由、目的が明確である必要がある。
 第二に、誰(機関)がプロモーターか。誰が音頭をとり、誰がリードし、誰が後押ししたのか。単協同士の話し合いか、県中央会か、行政か。このような役柄配置で合併の成否、あり方(パーフェクトに1県1JA化できるか否か)は決まるといっても過言ではない。
 第三に、県域組織(中央会、連合会)を存置したのか包括承継したのか。それはこれまでの県域機能のあり方によってさまざまだろう。

◆前に向かって解決を

 第四は、旧単協の位置づけで、ここが一番の腐心のしどころだ。旧単協は、それぞれが培ってきた事業のあり方、債権債務とその内容、剰余金処分のあり方(出資配当率、事業利用分量配当の有無・基準)、人材がある。それを無理に統合しようとすれば合併そのものがご破算になる。かといって温存したのではいつになっても地域性が抜けず、合併効果を発揮できない。
 第五に、より具体的には地区本部制の可否である。旧農協単位あるいは郡単位等に地区本部制を敷くかの否か、地区本部長の位置づけ(組織代表の常務等の役員か職員か)、地区本部の権限(分荷権、貸付決定権など)などである。また地区本部ごとの経営努力の結果をどう評価(成果配分)するのか、しないのか。さらには地区本部制をいつまで続けるのか。
 第六に、理事会制度をとるのか経営管理委員会制度化を採用するのか。広域化にともなう意思決定の迅速性確保、地域性の打破と、組合員の声を聴くこととのバランスは悩ましい課題である。以上の三点は相互に関連する。
 第七に、地域農業振興、営農指導の体制をどう組むか。営農指導員やTACをどこに配置するのか。分荷権をどこが握るか。関連して作目部会組織や女性部、青年部の活動の拠点をどこに置くか。同一商品を扱う信用・共済事業と異なり、旧農協が産地農協として培ってきたものをどう前向きに活かしていくかは農協合併の決定的な論点である。
 第八に、合併に伴い支店統廃合や人員削減、職員の処遇変更等を行ったのか、合併時はそのままとしても何年か経て踏み切ったのか。その場合にどのような代替措置をとったのか。
 最後に、「合併してよかったか」は聞くも愚かだろう。覆水は盆に返らない。問題があれば前に向かって解決していくしかない。そこが後に続く者の学びどころでもある。
 合併は立場により見方が異なる。本ヒアリングは主として推進する側からのそれに限定されているので、異論も十分にあり得る。そういう意見をお寄せいただければ幸いである。

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