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シリーズ:今村奈良臣のいまJAに望むこと

【今村奈良臣・東京大学名誉教授 】

2018.03.31 
第50回 第16回全国農林水産物直売サミット 第5分科会における私の講演の核心部分の紹介-つづき‐一覧へ

<エコ・ポリス>について

 エコ・ポリスというのは、いうまでもなく私の造語であるが、エコロジー(Ecology)を語源としている。Ecologyとは、環境保護、自然保護、生態保全などを意味している言葉であり、<エコ・ポリス>という表現を用いることにより、それぞれの地域に「景観と生態系の拠点」を造り上げようではないかという提言である。
 地域ごとのすぐれた歴史に支えられ、里地、里山があるが、それらが人口減少などのなかでだんだんと荒れ果ててきており、また、それぞれの地域特性にかつては輝いていた農村景観が過疎化の進行とともに失われてきているが、いかにそれを維持・回復するかという提案である。
 また、東日本大震災、それに伴う福島原発の崩壊、さらに放射能禍にいまなお福島は悩まされているなかで、全国各地で原発に代るべき多彩な努力が農村地域でも進められている。用水等の水利を活用した小水力発電、風力や太陽光という自然の恵みを活かした風力発電、太陽光発電など、各地で多彩な活動が展開されているが、これらを更に地についた強固なものに作り上げようというのが、私が提起しているエコ・ポリスのいま一つのねらいである。
 こうした活動の積み重ねのうえで、農村、山村の居住環境の整備を行いつつ、新しい時代への展望を描く地域拠点を作ろうではないか、というのが私の提起したEco-Polisの一環である。
 こうした基礎的な活動を踏まえつつ、新しい時代にふさわしいグリーン・ツーリズム、言い換えれば、都市と農村の新しい人々の交流の拠点を各地に作り上げようではないか。そのためには、都市の皆さんの心の安まる、そして都市の皆さんにとっての「ふるさと」といえるような景観や拠点づくりをしようではないかというのが私のEco-Polisの提案でもある。
 そういう実践を行っている先進事例として私も3年前に現地をつぶさに見る機会のあった大分大山町農協の実践事例を紹介しておこう。

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<五馬媛(いつまひめ)の里>の紹介

 私が「農業の6次産業化」という理論を現地調査のなかから作り上げた大山町農協ならびに「木の花ガルテン」の職員と組合員さんの皆さんが、都市・農村交流の拠点となるべき「五馬媛の里」を3年前に作り上げている。「木の花ガルテン」は生産者と消費者の食べ物を通じた交流の場であるが、「五馬媛の里」は、都市の老若男女はもちろん、とりわけ次代を担う子供達の交流の場、勉強の場となっている。
 さて「五馬媛」とは、『豊後風土記』に出てくる美人の女性首長で、その昔、大山町に隣接する天瀬町五馬市地区を拠点に治めていたらしいが、この地区の荒れた雑木林地帯を農協職員、木の花ガルテン職員たちの努力で美林に変え、遊歩道を作り、かつ全国から100種を超える四季折々の花木を取り寄せ、見事な公園つまり交流の場を作ったのである。
 その一角には、明治・大正時代に馬で往診に向かっていたという伝説のある女医さんの見事な茅葺きの住居を旧き姿を残しつつ美しい姿に再生させて来園者の休息の場、交流の場に仕立てあげている。
 さらに、谷場の水田も区画整理して、多彩な稲-古代米、赤米、糯米などを作り、田植から収穫にいたる作業を子供達に学ばせつつ、収穫祭、餅つき大会などの行事を行いつつ、農業にも親しんでもらおうという、多彩な活動の拠点をつくり、直売所「木の花ガルテン」との新しい結びつきを企画・推進している。

 

<山村の再生の道は和牛の放牧で>

しかし、この大山町農協のような活動と実践はどこの山村でもやはり容易ではないのではないかと思う。
 昨年秋、私は郷里の大分県の古くからの知人の要請により、里山への和牛の放牧についての現地調査と講演に伺った。かつて私は今から30~40年前に全国各地の放牧についての研究と調査を行っていたからである。
 荒廃した山林あるいは猛烈な勢いで増え続ける竹林--特に大阪以西の西日本、中国、四国、九州の孟宗竹--を退治し、修復するには、和牛の放牧により美しい林野へ取りもどすしかないのではないかと痛感していたからである。過疎化、高齢化が進むなかで、森林の美林への修復ということはもはや人力のみでは不可能で、和牛の放牧により餌場をつくりつつ、森林と景観の修復をはかるしか方法はないのではないかと痛感しているからである。
 とりわけ、孟宗竹の繁殖力はものすごいもので、良材を産していた杉や桧の森林は竹林が征服し、荒れ山に帰してしまっている姿をつぶさに見てきた。
孟宗竹を竹粉・竹炭などさまざまな加工を行って活用している事例も知っているが、それらの活用法だけでは非常に限界があると痛感している。
 和牛は、タケノコや若竹は大の好物であり、牛に食べさせ、竹林の後退をはかるしかいまや術はないのではないかと痛感している。
和牛の山地放牧については、いずれ別の機会に詳しく展開することにして、ここではEco-Polisをいかに各地で作り上げていくか、という問題提起にとどめることにしたい。
いずれにしても、全国各地の農村、山村では、それぞれの地域特性を踏まえて多彩な"エコ・ポリス"という拠点を作ってもらいたいと思う。それが、先述のアグロ・ポリスやフード・ポリスと結合することを通じて、地方創生の拠点となるのではなかろうか。

 

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