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コラム:食料・農業問題 本質と裏側

【鈴木宣弘・東京大学教授】

2019.08.08 
【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】保険と共済の違い一覧へ

 今、かんぽ生命の過剰ノルマによる利用者無視の営業問題が騒がれているが、改めて、保険と共済の違いを考えさせられる。協同組合による農協・漁協・生協などの共済の普及推進でも目標を設定して取り組んでいる。しかし、共済は、相互扶助で、農家・漁家や地域のみなさんの生活を守るために頑張っている、という基本を常に忘れないから、かんぽ生命で報道されているようなことにはならない。今後とも、その精神を噛みしめて、地域のみなさんの暮らしを支えるという一点のために邁進することを再確認したい。

 共済はまさに相互扶助の核であり、共助・共生組織としての協同組合が頑張って、信頼を得ていることを示す重要なバロメーターである。米国は、日本の共済に対する保険との「対等な競争条件」を求めているが、保険と共済は違うのであり、不当な攻撃は許容できない。
 郵政民営化を振り返ると、郵政選挙で死者まで出る悲劇となったが、その実は、米国の金融保険業界が日本の郵貯マネーの貯金と保険の350兆円の運用資金がどうしても欲しいということで、「対等な競争条件」の名目で解体せよと言われ、その要請に応えただけだった。
 そこまでして応えたが、民営化したかんぽ生命を見てA社が「かんぽ生命は大きすぎるから、これとは競争したくない」と言うので、「TPP(環太平洋連携協定)に日本が入れてもらいたいのなら、『入場料』として"かんぽ生命はガン保険に参入しない"と宣言せよ」と米国から迫られ、所管大臣はしぶしぶと「自主的に」(=米国の言うとおりに )発表した。
 それだけでは終わらなくて、その半年後には、全国2万の郵便局でA社の保険販売が宣言された。これが「対等な競争条件」なのか。要するに、「市場を全部差し出せば許す」ということだ。これがまさに米国のいう「対等な競争条件」の実態であり、それに日本が次々と応えているということである。
 近頃、日本郵政がA社に2700億円出資してA社を「吸収合併」するかのようにも言われているが、実質は、「母屋を乗っ取られる」危険がある。かんぽ生命が叩かれているから「かんぽの商品は営業自粛だが、(委託販売する)A社のがん保険のノルマが3倍になった」との郵便局員からの指摘が、事態の裏面をよく物語っている。
 そして、次に「喉から手が出る」ほど欲しいと米国側が言っているのが、JAマネーの貯金と共済の155兆円の運用資金であることは自明である。郵貯マネーにめどが立ったから、次は、必ずJAマネーを握るまで終わらない危険がある。つまり、農協改革の目的が「農業所得の向上」であるわけはなく、(1)信用・共済マネーの分離に加えて、(2)共販を崩して農産物をもっと安く買いたたきたい企業、(3)共同購入を崩して生産資材価格をつり上げたい企業、(4)JAと既存農家が潰れたら農業参入したい企業、が控える。規制改革推進会議の答申の行間を読めば、そう書いてある。JAが自主的に推進している「自己改革」は重要で不可欠だが、先方の思惑は「解体」だから、「峻別」しなくてはいけない。
 相互扶助で、農家・漁家や地域のみなさんの命と暮らしを守るために頑張っている、という使命と誇りを常に忘れず、それを国民に理解してもらうことが、不当な攻撃への最大の防御である。

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