JAの活動:米価高騰 今こそ果たす農協の役割を考える
高まる生産者と消費者つなぐ農協の存在意義 JAぎふ組合長 岩佐哲司氏2025年7月9日
米の生産と流通が自由化されるなか、今回の米騒動は生産者の安定生産と消費者への安定供給をつなぐ協同組合としての農協の役割が極めて重要になっていることを改めて示した。JAぎふの岩佐哲司組合長は、JAは消費者との相互理解促進に力を入れるべきだと提起する。
JAぎふ組合長 岩佐哲司氏
令和に入り農業を取り巻く環境は急速に変化している。物価や資材の高騰、気候変動、人手不足といった構造的課題が複雑に絡むなか、昨年後半から米価の高騰が社会的関心を集めた。
米は日本人の主食であり、農業や国土保全の象徴でもある。米価高騰は消費者の生活に直結し、生産者にとっては経営判断を左右する要因となるため、需給バランスの変化だけでなく生産・流通面での課題を浮き彫りにした。
こうした中、JAグループの果たすべき役割はより重要性を増しているが、ここでは「地消地産」というキーワードのもと、生産者と消費者の相互理解と信頼関係の再構築を目指すJAぎふの取り組みと絡めて、単位農協が果たすべき役割について述べていきたい。
価格高騰の背景と課題
日本の米は、商品としての米、日本人の主食、水田の国土保全機能、文化継承など多面的な役割を持つが、現在は「商品」としての側面が強調されているのではないだろうか。
食糧管理法時代には、政府が生産・流通・販売を一元管理し、農家は収穫した米を国に売る義務があり、政府はそれを公正価格で消費者に販売していた。1995年、米の消費減少と財政負担の増大などを理由に食糧管理法は廃止され、民間主導の自由取引へと移行した。ただし、供給過剰による価格下落を避けるため、生産調整(減反)政策は継続され、2018年からは「生産の目安を示す」制度へと転換された。
昨今の米価高騰は、日本農業が抱える課題を露呈させた。作付面積の減少、飼料用・加工用への転作、異常気象による品質・収量の不安定化、インバウンド増加などの要因が重なった結果である。農家は長年の価格低迷の中、生産調整に協力しつつも疲弊してきた。ようやく希望が見え始めた一方、消費者は価格急騰に戸惑っている。
戦後の米政策の変遷を見ると、価格統制から生産調整を経て市場任せへと移行したことが分かる。価格弾力性の低い米の価格は、生産量に応じて急騰・急落しやすい構造を抱えている。今回は高騰したが、もし空前の豊作であれば急落していた可能性もある。米を市場で管理される「商品」として扱うことにしたことが問題の根源だと思う。
とはいえ、自由な取引が主流となった今、政府主導の統制には戻れない。だからこそ、生産者も消費者も困らないように、両者をつなぐ役割を果たせるJAの存在意義が、かつてなく大きくなっている。
生産者と消費者の相互理解の醸成
こうした課題の根底には、生産者と消費者の距離の拡大、農業の実態や農家の努力への理解不足がある。今回の米価高騰を、その距離を縮める契機としなければならない。
これまでJAは、生産者向けの支援を中心に事業を展開してきたが、今後は消費者との相互理解の促進にも力を入れる必要がある。幸い、今回の高騰において「農家が不当に利益を得ている」といった声はほとんど聞かれなかった。今だからこそ、価格高騰の背景や農家の思いを、イベントやメディアを通じて広く伝えることが必要である。
さらに、セミナーや農業体験などを通じて農作業に関わる機会を消費者に提供することで、農への理解や農家に対する共感が生まれる環境を提供する必要性を感じている。消費者が農作物の背景を理解し、自ら育てる体験をすることで、価格形成にも納得が得られる社会をつくることができるだろう。報道によれば、精米5キロ当たりの適正価格について、消費者は2千円台、生産者は3千円台と意識に開きがある。こうした取り組みを通じて、再生産可能な3千円台という価格の妥当性を理解してもらうことも可能ではないだろうか。
共同販売と買取販売
もう一つ、消費者に理解していただきたいのが、JAによる共同販売の意義である。
小泉農相は「農家の経営見通しが立つように」として、概算金制度の廃止と一括買取方式への移行を要請した。しかし共同販売は、小規模農家にとって不可欠な仕組みである。農産物はロットが小さいと物流に乗りづらく、価格が下がるリスクが高まる。それを防ぐために共同販売が存在する。
JAでは、出荷時に概算金を支払い、半年後に手数料(JAぎふでは3%)と実費経費を差し引いたうえで追加払いを行う。さらにふるい下米(規格外の小粒米など)を売却して1円単位で最終清算をする。令和6年産では主力銘柄「はつしも」の概算金を60kg1万2500円に設定していたが、他業者の動向や作柄を踏まえ、収穫前に1万8000円に変更し、追加払いとして5500円を支払った。これほど公平な仕組みは他にないと考える。もちろん、大口出荷者には一括買取方式で対応している。ちなみに令和6年度の集荷量は例年比3割減であったが、そのうち2割は収量減、1割は自家保有や他ルートへの流通と見られている。
JAぎふの「地消地産」の考え方
農業は本来ローカルな営みである。しかし現代では物流の発達により、世界中の農産物が食卓に並び、季節感のない食生活が一般化している。農をローカルに取り戻す努力が必要だ。
JAぎふは、従来の「地産地消」ではなく、「地消地産」という新たな視点を提唱している。これは、「地域で生産されたものを地域で消費する」ではなく、「地域の消費者が求める農産物を地域の農家が生産する」という"消費起点"の考え方である。
この理念に基づき、以下のような取り組みを行っている。
・有機の里の開設:3haの農地を拠点に、有機農業の実践、生産者育成、消費者との交流を通じて、安心・安全な農業と持続可能な地域モデルを目指す。
・JAぎふ農産物独自基準「ぎふラル」の販売:消費者が求める基準を策定し、農業者が生産する。6月より産直店で販売を開始した。
・「農業を考える月」(6月)と「食と農の祭典」:地域住民や他団体と連携し、農業の重要性と食の安心を伝える。コープぎふなどの協同組合との連携により、"地域の協同の橋渡し役"も担っている。
こうした取り組みは、農業を単なる生産活動としてではなく、「地域の暮らしをつなぐ営み」として再定義するものである。
米づくりにおける多様な価値と農協の役割
米づくりにおいても、「地消地産」の精神を生かした多様な生産と消費のマッチングが重要である。有機米や特別栽培米など、品質や安全性、環境配慮に価値を置く消費者が増えており、JAぎふでもそうした米づくりを支援している。
しかし、それらは「選択肢の一つ」であり、慣行栽培によって安定的に供給される米も地域にとって不可欠な存在であり、慣行栽培の米は日本の主食を支える基盤となっている。
JAぎふは、「援農ぎふ」という米麦を中心に生産する子会社をもっている。集落営農組織が育つまで、農地を一時的に預かることを使命にしている。必然、預かる農地は点在し、非効率的な農地が多くなり、経営は厳しい状況にある。平場においては、農地を集約する土地改良を行い、担い手が効率的に経営することが合理的である。中山間においては、集約は難しく、集落コミュニティーや国土保全の維持の観点からも多くの人の営農が継続できる支援が必要である。
JAとして果たすべき役割
今、果たすべき課題は、以下の3点に集約される。
(1) 再生産可能な価格の仕組みづくりと消費者の理解醸成
農産物価格に生産コストを適切に反映させ、生産者が継続的に営農できる仕組みを構築するとともに、消費者の農業や農産物に対する理解を進める活動をする。
(2)多様な農業の支援
有機・特別栽培・慣行栽培など、それぞれの特性を活かした商品開発や販路拡大を支援する。
(3)地域社会との連携強化
農業団体としてだけでなく、協同組合として地域住民、行政、福祉、教育と連携し、農を基軸に持続可能な地域づくりを進める。
農業者、農地や農産物についての課題は、地域ごと千差万別である。単位農協が地域にあった取り組みを進めるとともに、地域だけでは解決できない課題を全国の農協間で連携し解決を図っていくことが必要である。
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