RCEPとTPPは水と油2017年4月17日
政府は、TPPにまだ執念を持っているようだ。アメリカが抜けるなら、アメリカを抜かした他の11か国でTPPを始めようと考えている。
それがだめなら、いま交渉中のRCEP(東アジア地域包括的経済連携)の中味をTPPと同じものにしよう、つまり、RCEPをTPP化しようと考えている。そうしてTPP交渉を実質的に継続し、妥結に持ち込もうと考えている。
2つともトンチンカンな考えである。そんなことが出来るはずがない。RCEPとTPPは、水と油の関係なのだ。決して混じりあうことがない。トンチンカンなふりをして騙そうとしているのかも知れない。
TPPはアメリカを盟主にしている。だから、アメリカが抜ければ盟主がいなくなり、TPPは瓦解するしかない。
政府は、アメリカを抜いた他の11か国でTPPを始めようと考えている。そうなれば、この11か国のなかで日本は経済規模がダントツに大きい国になる。しかし、盟主にはなれないだろう。盟主になるには、経済力さえ強ければいい、というわけではない。政治的な影響力、いわば政治的信頼が欠かせない。
日本には、残念ながらそれがない。だから、たとい11か国になったとしても、TPPの盟主にはなれない。まして、市場原理主義にまみれ、各国の主権に干渉して、大企業の利益だけを追求するTPPを復活しよう、などという日本の考えに耳を傾ける国はない。
◇
RCEPは、中国が中心になって協議しているものである。ここでは市場原理主義のように硬直的な原理主義ではなく、「参加国の多様な事情」を考慮した協定を目ざしている。農業者の関心事である関税についても、「参加国の既存の自由化レベルを基礎として」互いに相手国の主権を尊重し合おうとしている。だから、日本のような市場原理主義に毒された国が中心近くに位置することはできない。
だから、RCEPをTPP化しよう、などという日本の考えに耳を貸す国はない。
◇
さて、国家間の関係を考えるとき、政治と経済は別、つまり政経分離という場合がある。しかし、それは特殊な場合である。だからこそ、わざわざ政経分離というのである。
本来は、政治は経済に優先する。せいぜい政経一体である。
このことが、市場原理主義にまみれた日本の政府には分かっていない。経済優先とさえ考えている。だから、TPPとRCEPについての考えがトンチンカンになる。
◇
TPPは本来、アメリカを盟主にした対中国の政治的な包囲網である。単純な自由貿易協定、つまりFTAではない。他国の経済政策にまで干渉することを狙っている。だから、戦略的経済連携協定などというコケオドカシの名前をつけている。
TPPの狙いは、大資本の利益を確保するために、たとえば薬の特許期間を長く確保するなどだけではない。それに加えて、大資本の経済活動を拡大するために、他国の国有企業を縮小することなどを狙っている。これは、他国の基礎的な経済構造の変更を迫るもので、国家主権への干渉である。
◇
こうしたTPPに対抗するのがRCEPである。
RCEPは、TPPとは反対で、経済的弱者のために、新しい薬を安価で供給しようと考える途上国や、主要な産業は国有企業で営もうと考える社会主義国が集まって協議している。その中心部に中国が位置している。
このように、TPPとRCEPは、決して混じりあうことのない水と油の関係にある。
◇
こうした状況のなかで、安倍政権は困惑している。どうするのか。
これまで、アベノミクスの経済政策は、東アジアの経済成長の果実を横取りすることを主な目的にした。その主要な手段がTPPだった。そのTPPが崩壊したのである。
つまり、アベノミクスは目的を達成するための手段を失った。それに代わる手段はない。そうなると、目的の東アジアへの経済進出を諦めるしかない。しかし、それでは後見人の大資本から見放される。
その一方で、明日から日米経済対話が始まる。ここでは農産物貿易も取り上げられるだろう。そこでアメリカは、日本に対してTPP交渉で譲許した以上の関税引き下げを要求するだろう。そうして、日本はアメリカから追いつめられるだろう。
◇
以上のように、TPPが崩壊した後、アメリカ抜きのTPPもできないし、RCEPのTPP化もできない。アベノミクスは、いまや進路を塞がれて行きづまり、深刻な危機に陥っている。
そこから脱出するには、アジアで政治的信頼を獲得するしかない。そして、日本はアジアとアメリカの架け橋の役割りを果たすことである。
それは、外交問題を含む政治全般の課題である。自公の与党が出来ないのなら、野党に政権を明け渡すしかない。
(2017.04.17)
(前回 種子法廃止は消費者問題なのだ)
(前々回 野党は統一農業政策を作れ)
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