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コラム:グローバルとローカル:世界は今

【三石誠司 宮城大学教授】

2018.05.11 
(081)日本食の海外展開と「自分探し」一覧へ

 かつて海外に出る日本人の渡航理由として「自分探しの旅」ということが言われていた時期がある。将来や自分の生き方に悩んだ時、「本当の自分」を探すために海外渡航するようなものらしい。若者だけでなく中高年にも流行ったようだ。
 これを聞いた時は「そんなものか」と思い聞き流していたが、高等教育の現場で海外留学を希望する大学生に接する機会が増えると、この話はファンタジーではなく現実であることを身近に感じるようになった。

 OECDによれば、2015年時点で約5万5000人の日本人が海外留学している。筆者が初めてブラジルに行った1980年代前半には年間2万人弱であったことを思えば、当時の倍以上の数字だ。ただし、ピーク時の1990年代後半から2000年代前半の8万人規模から見ればやはり後退している感は否めない。もっともこれは留学生といっても大学等の高等教育機関に在籍する外国人の中での日本人数と理解した方が良い。統計データの継続性という問題はあるものの、概ね傾向としてはこのとおりであると考えられる。
 一方、独立行政法人日本学生支援機構によると、年間の日本人留学生数は10万人弱である。この差を一言で言えば、留学内容の多様化、具体的には1か月未満の「短期留学」が約6万人...という状況のようだ。
 機会があれば留学したいが、できれば1か月程度で十分と考える学生が年々増えているのかもしれない。もちろん、経済的な事情や家庭の事情など様々な要因があるためひとくくりにはできないが、2週間程度の語学研修も「短期留学」と理解される時代になったということだ。
 海外渡航、留学が限られた人だけの時代から多くの人に可能となったこと自体は喜ばしい。これは、受入側の海外の大学でも、正規の学位取得プログラムではなく、「語学研修コース」などの別枠で受け入れる仕組みが整備されてきた結果でもあろう。最近は欧米諸国以外にも費用的に安価なアジア各国の中にこうした仕組みを備える大学が増えている。良くも悪くも日本人はこうしたモデルの優良顧客である。


 
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 さて、連休中に読んだある文献に記されていたのは中国人と日本人の違い...である。前者がビジネスを行う(平たく言えばカネを儲ける)ために海外へ出るのに対し、日本人は「自分探し」のために海外に出る...と。笑ってしまったが実は笑えない。
 中国当局の発表によると、2016年の1年間で中国企業による海外農業投資は1300社以上、金額にして260億ドル(1ドル100円として2兆6000億円)、2010年の5倍だそうだ。その内容は、作物栽培や家畜の飼養だけでなく、水産、加工、肥飼料、種子、輸送関連などで、投資先は100か国以上になる。さらに興味深い点は、これらの投資のうち北米への投資金額はわずか2%程度、多くが近隣アジア諸国やアフリカ等という点である。
 これもある時期言われたことだが、中国による海外の「農地争奪」...、最近は余り聞かないし報道もされない。華々しくなければニュースにはならないのだろうが、実情はより洗練された形の提携や合併・買収に変化しているに過ぎない。
 筆者が見てきた業界で言えば、今や世界最大の豚肉加工企業はWH Groupであるし、配合飼料の世界No.1企業もNew Hope Group、いずれも中国企業である。中国は世界一豚肉を食べる国であるが、我々はその事実を一方で理解しながら、米国の養豚を見ていた時期が長かった。2013年にスミスフィールド・フーズがWH Groupに買収されて初めて、中国の豚肉企業(WH Group:萬洲国際)という組織を知った人も多いと思う。気が付けば中国企業が世界一という訳だ。


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 寿司や蕎麦、天ぷらなど伝統的な日本料理から、「Kawaii」とされるスイーツやB級グルメまで、日本食は世界に拡大している。多くの場合、それを実際に海外で根付かせ、市場を創出しているのは「自分探し」をしている日本人ではなく、実際にビジネスに携わる人々である。まがい物は本物が出ていけば自然淘汰される。本物が無いから偽物や類似ビジネスが成立してしまう。
 「自分探し」や英語習得だけに費用と時間を使い消耗するのではなく、そのままの日本の良さを海外でビジネスとして〝したたかに″広める日本人が今こそ数多く出てほしい。これは大企業による一過性の宣伝によるものではなく、無数の小さな動きの集合として根付き、拡大していていく性質のものだからだ。

 

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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】

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