JAの活動 シリーズ詳細

シリーズ:農協改革元年

2015.05.29 
「農協改革」論 論破を 農協研究会・第11回研究大会一覧へ

・総合農協“解体”の危機
・今こそ未来像を明確に

 農業協同組合研究会(会長=梶井功・東京農工大学名誉教授)は、5月23日、東京都内で第11回研究大会を開き、「農協改革」についての報告と意見交換を行った。学者や研究者のほか、単位JAの役員などが参加し、政府の「農協改革」の背景を探るとともに、JAグループが対応すべき方向などについて検討し、問題意識を共有した。この中では特に、政府の農協改革論に対するJAグループの戦略的な立ち遅れの指摘があり、地域で生きる農協としてのグランドデザインの確立など、早急に協同組合運動としての理論武装が必要だとの意見が多く聞かれた。

農協研究会・第11回研究大会(写真)活発な意見交換が行なわれた研究大会

◆今こそ未来像を明確に

 研究会では、増田佳昭・滋賀県立大学教授が「『農協改革』の狙いとJA自己改革の基本方向」、前JA全中副会長の村上光雄・広島県JA三次組合長が「押し付け『JA改革』から見えてきたこと」、佐々木恵寿・河北新報社論説委員会副委員長が「農業組織なのか、地域組織なのか」のテーマでそれぞれ報告し、それを基に意見交換した。


◆足並みそろえ理論武装

 まず、JAをめぐる現在の状況を、増田教授は「ビジョンなき農協改革、新たなせめぎ合いの時代」と位置づける。つまり、政府もJAも国民の納得できるJAの将来像を示さないまま、さまざまな思いが錯綜している状況だとみる。
 その中で政権、農水省、財界・米国3者の思惑が明らかになりつつある。同教授は、(1)安倍政権によるTPP(環太平洋連携協定)の反対派つぶし、(2)農水省による信共分離と肥大化したJAの「整理」、(3)財界や米国による農業・農村におけるビジネスチャンスの拡大―を農協改革派の狙いとして挙げる。
 村上組合長も、今回の農協改革を「首相官邸の怨念」と表現。その程度は「われわれの予想を上回る強さ」として、農業改革やTPP反対など、「政府に楯突くJA全中を、この際たたいておこうと考えているのではないか」と分析。
 その上で、(1)信用・共済分離にみえる米国の金融・保険会社の思惑、(2)全農株式会社化にみえる多国籍企業の思惑、(3)世界的な反協同組合運動の攻勢、(4)根強い農水省の「職能組合論」―を規制改革の本音だと指摘する。
 特に、JA全中副会長としてTPP交渉反対のため海外に行き、そこで見聞きした体験から、「経済的植民地化」の危険性を感じたという。 
 穀物メジャーの動きと、遺伝子組み換え穀物の拡大の動きの中で特に、カナダの協同組合組織であった小麦委員会が穀物メジャーに支配されたことを挙げ、「株式会社化することは、資本にものを言わせていつでも乗っ取りできる。全農の株式会社化について、われわれはもっと警戒しなければならない」と警鐘を鳴らす。また最近のウクライナ情勢でも、裏に遺伝子組み換え穀物をめぐるグローバル穀物メジャーの存在をみる。
 増田教授は、農協法改正案では信用・共済事業は、その権利、義務を分割して出資組合が承継できるようになっていることを指摘。これは経済事業でも同じで、「出資会社は株式会社に組織変更できる。総合農協分割のツール(道具)が用意されたことになる」と言う。
 信用・共済が分離して株式会社化すると、JAは経済・営農中心の農協が残る。それでは経営が成り立たず「安楽死の道のストーリーも描かれる」と、安易な分離・株式会社化の危険性を指摘する。
 こうした政権、農水省、財界などの農協改革の攻勢にどう対応してきたのか。この点で、村上組合長は反省の意味も込めて、JAグループの「戦略的立ち遅れと足並みの乱れ」を指摘する。農林中金・JA共済連は准組合員の利用制限、全農は株式会社化と、それぞれの組織が自分を守ろうとしたところがあり、「これを全中がまとめきれなかった。そこに限界があった」と言う。いわば運動面でも分離・分断されたかっこうだ。
 特に信用・共済を分離する職能組合論は農水省内では根強い。同組合長は「農水省の専門農協論を論破できないことが、いまのJAグループの運動に尾を引いている。どう論破し、理論を再構築するか。大きな課題だ」と言う。10月の全国JA大会を視野に、理論武装の必要性を強調した。


◆自主・自立へ自己改革

 これまでも、農協改革が唱えられながら、正面から受け止めず、先送りしてきたことも反省材料の一つ。村上組合長は、「それぞれの団体が、まず自己改革して、自立できるよう努力した上で支え合う関係をつくるべきだ」と、協同組合原則にある「自主・自立」の重要性を指摘する。
 増田教授も「これだけ分解ツールが準備されると、総合農協を守るだけでは戦えない。JAの自己改革、とくに准組合員をパートナーとした地域協同組合としてのグランドデザインを描くべきだ」と運動の方向を示唆した。
 戦略的立ち遅れが指摘されたJAグループの取り組みだが、その一つに国民の理解が進まなかったこともある。佐々木副委員長は、マスコミの視点からこれを指摘。共同通信社のアンケートによると、政府の農協改革に対して、賛成56%、反対24%だったことを挙げる。
 「農協組織に対する負の評価が多い。これが、安倍政権の唱える農協の営農・経済事業の“原点”回帰を求める国民の声だとしたら、JAグループは真摯に向き合う必要があるのでは」と指摘する。
 また東日本大震災の被災地の農業復興で、JAは集落営農の法人化を支援し、大きな役割を果しているものの、若い農業者が仙台市でレストランを経営しようとしても、必要な資金の支援には消極的な例などを紹介。農家の6次産業化などへの細かい資金融資や、中山間の農地と農業を維持するため、農協出資の法人経営などの取り組みの必要性を指摘した。

 

【農協研究会・第11回研究大会の報告内容(要旨)】

◆家族農業を起点に
増田佳昭・滋賀県立大学教授

増田佳昭・滋賀県立大学教授 規制改革会議のまとめから1年。現在の段階は「ビジョンなき農協改革、新たなせめぎ合いの時代」と言える。
 まず官邸は、JA全中をはじめとするTPP反対派を潰そうとしている。アベノミクスがたいした成果を挙げていないので、JA解体という成果がほしい。
 そして農水省は信用・共済を営む総合農協を形式的にも整理をつけたい。とくに金融で肥大化した農協をなんとかして、企業のビジネスチャンスとしたい。そのため農地売買の自由化により、農業・農村で儲けられる仕組みが欲しい。いろいろな思いがあり、10、20年後、農業・農村のどのようなデザインを描くか、それがない。
 農協法の改正案のポイントの一つは、中央会の縦横分割だ。監査機構の外出しと全中の「一社」化、県は中央会を残す。いわば縦横文訣で、中央会の法的地位が下がり、法律に基づいた意思反映の機能がなくなった。
 農水省自身は、農協の職能性を強めたいため理事の構成を認定農業者にするなど、農業者の協同組合化の方向性を明示した。 
 改正案には全農の株式化は出ているが、それに留まらない組織変更が盛り込まれている。農協はその有する権利、義務を分割して出資組合に承継できるようにした。一方、それを株式会社に組織変更できる規定がある。つまり事業を分割して別組織にして、それを株式会社に変更することが容易になる。総合農協分割ツールが用意されたのだ。
 准組合員の利用規制の問題では、無制限の拡大は問題だとして、JAグループに対して継続的なプレッシャーをかけることになる。これとどう対応するかが厳しく問われる。
 分割ツールをこのまま持っていくと信共分離され、農協は中金や信連の代理店として機能することになるだろう。
 また株式会社になると中央集権的な巨大資本になり、だれでも利用できる。残るは営農中心の農協となるが、それでは経営が成り立たない。安楽死のストーリーも描ける。
 また生活事業も分離、縮小。残った経済農協が経済的に成り立つとは思えず、それで中金、共済連が残れるのか。
 政府のグランドデザインがない中で、とりあえず分割ツールが出てきた。
 現状を踏まえてどうグランドデザインを描くか、改革推進派とのせめぎ合いだ。これから総合農協を守るというだけでは戦えない。グランドデザインをつくるには准組合員をパートナーとして地域に生きる農協のあり方を示すべきだ。
 農協はニーズ対応組織である。市場、環境変われば変わるのは当たり前。必要ことは農協に結集して頑張っている家族経営を守ることだ。ここに原点を据え、世代交代を支援する。これを営農面の第一義としてかかげて取り組むべきだ。農水省の後を追っかけるだけでは、現場でのリアリティがない。
 農協は、家族経営中心と自己規定するなら、家族経営が求める制度、協同活動があるはずだ。農協は地域社会に根ざした組織として資本や人、金を社会的資本として、地域とのつながりを保ち、地域の農業に役立つ組織としてできることをやるべきだ。
 そのためには組合員目線で自己点検し、組合員が何を求めているか、膝を突き合わせて話し、あるべき農協像を作る必要がある。安倍首相は、企業が世界一活動しやすい国にするというが、われわれは国民が暮らしやすい国という視点から訴えていきたい。


◆理論武装きちんと
村上光雄・広島県JA三次組合長

村上光雄・広島県JA三次組合長 首相官邸の農協改革への怨念は予想を上回る。農業改革、農政で楯突く全中は、この際叩いておこうとなったのではないか。運動の経過のなかで、政府の本音がみえてきたように思う。
 その一つに全農の株式会社化がある。TPP反対国際連帯で訪問したカナダでは、穀物メジャーがどんどん進出しており、協同組合組織である小麦委員会が穀物メジャーに支配されたことを見聞した。株式会社化するということは、いつでも乗っとられることを意味する。
 このことに、われわれはもっと警戒を強めるべきだ。ウクライナ問題も、裏には遺伝子組み換え小麦を売り込みたい穀物メジャーの動きがあると聞く。日本を穀物メジャーの経済的植民地にしてはいけない。
 次に職能組合論についてだが、これは農水省内では根強い。JAグループはこの職能組合論を論破できていない。これが、いまの運動に尾を引いている。これからどのような形で論破し、再構築するか。大きな課題だ。
 われわれJAグループの取り組みにも問題があるように思う。振り返ってみると、やはり戦略的立ち後れと足並みの乱れは否めない。自民党がなんとかしてくれるのではとの甘えがあったのかも知れない。 
 十分な戦略を立てることができなかったこともあり、JAグループの足並みがそろわなかった。単協や組合員も「全中は関係ない」と言い、地元からの反対運動が組織できなかった。全国連も農林中金が利用制限、全農が株式会社化と、それぞれ自分を守ろうとするところがあり、それを全中がまとめきれなかったというべきだろう。
 准組合員への対応の遅れもある。第26回JA全国大会の審議のとき、協議すべきと意見があったが、そのときは、へたに藪をつつかないほうがよいということになった。その時、それぞれ各農協でやるべきことを打ち出しておればと、残念に思っている。
 農業・農協改革の遅れも心配だ。JAでは、いろいろ議論するが、これが実績に繋がっていない。単協は大きくはなったが本当に強い農協、連合会になったのか。第27回大会では、ちゃんとまとめて、取り組まなければならないと思う。
 JA組織には甘えもある。単協、県連、全国連がそれぞれもたれあいで終始している面があるのではないか。それぞれの団体が、まず自己改革して自立できるよう努力したしたうえで支え合うようにするべきだ。
 農政運動については、組織と運動のあり方も考えさせられた。協同組合なので、組合員の考えはいろいろで、政治活動には限界がある。
 われわれの組織は大きく、強いとみられているが、本当に跳ね返されたら対抗できるのか。組織討議をやっているが、理事会ですら十分議論していないなど、組織決定が形骸化していないか。われわれサイドだけでなく、国民各層から、モニターのようなものをつくって、積極的に外部の意見を取り入れる姿勢を打ち出さないと、国民の賛同が得られないのではないか。
 地域農協かどうかの議論があるが、われわれは歴史的に地域と組合員の実態にあわせてやってきた。その正当性を主張し、理論武装していかなければ、いつの間にか「地域」の文言が消されてしまうことになるかも知れない。
 資本主義は格差を拡大するのであり、第3セクターの協同組合がなければ社会の安定はないという共通意識を持ち、自信を持って打って出る必要がある。


◆震災復興で貢献
佐々木恵寿氏・河北新報社論説委員会副委員長

佐々木恵寿氏・河北新報社論説委員会副委員長 大震災を契機に新しい農業が始まっている。2つの特徴ある動きがある。一つは100ha規模の集落営農法人が相次いでいること、もう一つは若者による起業と連携した植物工場や、農家レストランなどの6次産業化の動きだ。
 集落営農法人には農協も出資し、新規就農の若者を誘導して定着を図っている。これからの農協のあり方だろう。
 共同通信アンケートでは農協改革に56%が賛成し、反対は24%。農協について負の評価が消費者にあるとすれば、JAはこれに真摯に向きあい、農業の再生産に正面から取り組むベきだ。
 ただ、安倍政権は農業の企業化を改革だと思っているようだ。しかし競争は優勝劣敗がある。政府の改革論には組合員や農地がどうなるかはお構いなしのようだ。
 農協は地域のための組織である。本来、農協改革は現状の地域の中での役割を踏まえたものでなければならない。地域では農協の存在感は大きい。自己改革、所得向上と地域の活性化、これからこの2枚看板をいかに両立させていくのかが問われる。
 さまざまなくらしのニーズに応えるには、やはり総合事業のなかでも信用事業が後ろ盾になっていないと難しい。地方に行くほど総合事業が重要な役割を果たしている。
 地域によって、農協はさまざまな形があるが、農業、農村の持つ本来の多様性を重視し、地域ごとに農協の将来の道筋を見つけることが重要。正組合員だけでなく、准組合員、市町村、住民を巻き込んだ開かれた議論をするべきである。


【ディスカッションで出た参加者の発言】

 ▽あらゆるJAの事業を組合員目線で再点検する必要がある。組合員からは経済事業は賦課金でやったらどうか、生産資材は安くならないかなどという意見がある。JAの役員は感度が鈍いのではないか。5年後にはすべて終わるのではないかと心配している。(民間研究所研究員)

 ▽われわれは農協の使命を叩き込まれたが、いまの組合員はJAをどう見ているのだろうか。共販にはスケールメリットはあるが、平等の原理だけでよいのだろうか。もう少し柔軟な発想が必要かも知れない。(JA役員)

 ▽約35億円の米の買い取りを行っている。米は1年かけて販売できるから可能だが、他のものでは難しい。国はJAに買い取れといっているが、現場を知らない意見だ。(JA役員)

 ▽大学で話したことがあるが、話題になっているピケティの「21世紀の資本」の話をすると学生の目が輝く。協同組合の研究は、いつまでもロッチデールに依存していてよいのだろうか。別の視点でみると、一挙に視野が広がる。 (元全国連役員)

 ▽協同組合論者として、組合員との関係を大事にしながら、地域を考えてみたい。組合員に誠実に応えることが地域のニーズに応えることにもなる。だが、准組合員をJAのなかにきちんと位置付けられていないことに問題がある。(大学教授)

 ▽農業会議所の人から、JAと同じく改革の対象になっている農業委員会の話を聞いたが、言葉も説明も分からなかった。われわれJAが言っていることも、国民には同じようにとられているのではないか。(JA役員)

 ▽グランドデザインがないというが、政府の考えは明確だ。「できっこない」と思っていた農協法改正すべて実現に向かっている。残るは准組合員の利用規制と株式会社化だけだ。JAは“王手飛車取り”を迫られたとき、どちらをとるか。株式会社化すると、両方ともクリアできる。政府にとって申し分ない方法だ。(元研究所役員)

 ▽生産資材が高いと言われるが、価格の乱高下を防ぐという点で、JAグル―プがやっていることは大局的には間違いない。その分、個々の市況への対応が弱かったかも知れない。平均価格では決して高くないが、それは農家目線とは言えないだろう。(元全国連役員)

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