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特集:JA全国女性大会特集2018 農協があってよかった―女性が創る農協運動

2018.01.25 
【インタビュー・日本総合研究所主席研究員 藻谷浩介氏】女が動かす農協つくれ一覧へ

 農山村の豊かな資源を生かしたライフスタイルを里山資本主義と提唱し日本社会全体の変革へ各地をフィールドワークする藻谷浩介氏。今回は農村女性と農協の課題と期待を語ってもらった。

◆直売所の価値―もっと知って

 ―都会から農山村に移住する人が増えていると聞きます。この動きをどう見ますか。

toku1801250703.jpg 確かに増えています。しかも若い夫婦や、若い単身女性も増えているのが最近の特長です。何回目かのブームともいえますが、今回はブームに終わらない面もありそうです。
 いまや首都圏だけで4000万人近くの人が住んでおり、しかもその多くがもはや都会生まれの都会育ちです。その中には、田舎に縁がないけれども、本当は都会よりも田舎の方が性に合っている人もいるでしょう。そうした人が首都圏民の1%いたとすれば40万人です。首都圏に京阪神地域を合わせれば人口は6000万人になりますが、そのうちの1%は60万人になります。これは鳥取県の人口より多い。田舎との縁を結ぶ仕組みが充実すれば、そのくらいの数の人が農山村に移住してもおかしくはないのです。
 いや1%というのは少なすぎるかもしれない。2%になれば120万人、1割なら600万人ですね。

(写真)日本総合研究所主席研究員・藻谷浩介 氏

 

◇    ◇

 

 一方、移住者を受け入れて変わりつつある農山村は、そうですね、全体の1%以上はあるでしょう。ひょっとして1割は超えているのではないでしょうか。でもまだ2割まではいっていません。これが2割まで行くと、世の中が変わったという雰囲気になっていきます。
 全体の1%、2%を、マーケティング用語で「パイオニア」と呼びます。最初に世の中を変え始める人たちです。新しい行動を取る人が2割まで増えると、「アーリー・マジョリティ」と呼ぶのですが、これが登場すると世の中が目に見えて変わっていきます。
 たとえば最近の国政選挙で与党候補に投票している人は、実は有権者の2割程度しかいません。ですが国民の5割近くは投票しませんから、2割を押さえれば小選挙区では勝ててしまう。多くの人が、「自分の周りにはそんなに安倍政権の支持者はいないのに、なぜそんなに強いのか」と思っているでしょうが、中間5割は大勢についていくだけの人たちなので、全体の2割をしっかり握ると、良くも悪くもイニシアチブを取れるということなのです。
 田舎へ移住しようという人が都会で2割まで行くことはないでしょう。ですが都会人の2%でも120万人いるわけで、そのくらいの数を受け入れるには、農山村の少なくとも2割程度は移住者受け入れに積極的にならなくてはいけません。農山村の2割が変われば、世の中の空気は目に見えて変わって行きます。

 

 ―農山村にはどんな取り組みが求められますか。

 移住希望者から選ばれる地域に、モテる男、モテる女のように、モテる地域にならねばなりません。努力もしないでえり好みばかりしていると、いつまでも彼氏や彼女はできませんよね。モテる地域になって、選ばれる立場になって初めて、こっちが移住者を選ぶ権利も出てきます。
 さあ来てください、お金も家もあげます、というのはモテる男、モテる女のやり方ではありません。利用されるだけのミツグ君です。モテる男やモテる女は気配りで相手を惹きつけますが、ミツグ君はお金やモノで相手を釣ろうとして、結局食い逃げされます。男女の関係でも、どちらかがどちらかの意見を聞き、ひたすら我慢しているだけではうまくいきませんね。相手のことをお互いに頼るし、気にもかけていなければなりません。移住者も受け入れ側もそこそこ言いたいことをいって、それでも仲良くするというバランスが大事だということです。
 もう一つ、そもそも目標を勘違いしてはいけません。移住を受け入れるのは、人口を増やすためでしょうか? そうではなくて、「子どもの数をこれ以上減らさないため」だと考えてください。首都圏には大量の若者が流れ込んで人口が増えていますが、とても子育てがしにくいので、それでも子どもの数は減っています。そのため高度成長期に流れ込んだ人たちが年々高齢化して行く分を、新しく生まれる子供と流入する若者だけでは補えていません。首都圏の人口を年齢別にみると、増えているのはなんと80歳以上だけなのです。誰も気づいていないし報道もされていませんが、数字を確認すれば明らかな事実です。こんな首都圏を真似してもしかたがありません。
 ですから農山村では、単に移住者の数を増やすだけでなく、「収入は低くとも生活費も安く、都会よりも楽しく生活できますよ」という安心感を強めて、子どもが生まれやすい雰囲気を作らなければならないのです。地域に結婚して子どもを生み育てている人がたくさんいて、かつ、楽しそうにやっているかどうかが重要です。「昔は辛かったのだから、あなたも我慢しなさい」、というようなことを言っている地域では、当然子どもは増えません。

 
 
 ―農山村の振興に農協が果たすべき役割についてお聞かせください。

 「農協は農業関係者の団体ですから、そもそも農業以外の地域振興といった話には関係がない」というのは正しいでしょうか。そんなことはありません。農協には農業以外を含めた地域全体を振興する力がありますし、逆に、地域をダメにすることもできます。
 地域振興とは何でしょうか。それは、地域内で回るお金を増やすことなのです。「地域内資金循環」という言葉を耳にすることが増えていませんか? お金が東京や外国に行ってしまうのをなるべく食い止めて、地域内で回るようにする。そのことが若者の雇用を増やし、子どもが減らないようになっていくのです。
 では、農協は地域内資金循環の拡大に寄与しているでしょうか? 残念ながら逆に地域のお金を外に出しているケースのほうが圧倒的に多いでしょう。地域に農機具を売り、ガソリンを売り、農薬、肥料を売るというのは、すべて地域にあるお金を東京や外国に出しているということなのです。それ以上の額を、地域の農産品を外に高く売ることで呼び込んでいない限り、地域内の資金循環は細るばかりです。
 農協にやる気があるのであれば、たとえば地元の道の駅にどんどん出資していなければおかしい。役所に作らせている場合ではありません。出資どころかJAの直売所すら道の駅に造られていない事例もたいへんに多いですよね。地域の人が直売所で地域の農産物を買うということは、それだけ住民が他地域の農産物を買うことが減って、地域内でお金が回るということなのですから、本当はJAが率先して取り組んでいなくてはおかしいのです。
 農協の中には、肥料や農薬や農機具の販売はせず、たい肥作りと有機農業を推進している素晴らしい事例もあります。地域から東京にお金を戻すことで商売をするのではなく、地域にお金を残すことを商売にしているのです。ですがそういう例はまだ全体の2%程度で、2割まではいっていない。2割がしっかりやれば、地域は目に見えて変わり始めます。
 同じことをいえば女性が役員になって活躍している農協はまだ1%もないのではないでしょうか。これも2割まで行けば、本当に農山村は明るくなると思うのですが。

 

◆男女差などない―地域振興に能力発揮を

 ―農村の女性にどんな役割が期待されますか。

 女性の役割、などと言っている時点で、認識が封建時代のままです。では、農機具が力仕事をしてくれる時代に、男にしかできない役割って何なのですか。
 男女の差よりも個人の差の方が圧倒的に大きい時代です。新しいことを思いつくのも、守りに強い、あるいは持久力がある、瞬発力があるのかといったことも基本的に男女差はない。男女の差は筋力の差ぐらいしかないわけですが、どのみち男も機械には勝てない。
 できる人、やる気のある人にやらせれば、当然その中に女性が半分ぐらい入ってなければおかしい。地域振興に、「女の役割」も「男の役割」もないということです。
 さらにいえば、農業者が流通業者に農産品を売るというのはBtoB(事業者→事業者)のビジネスですが、流通業者のそのすぐ先にいるC(コンシューマー=消費者)が見えていないと、価格競争だけに陥って儲からなくなります。男と女の違いを強いて言うと、どうも男は作ることばかりに興味が行きがちで、女のほうがコンシューマー目線を持っている気がします。生物学的に味覚、嗅覚、聴覚は女のほうが優れていますので、食べもの関係の仕事は、買うのも、売っているのも女が多くなるのは当たり前ということになります。
 だから、女性の役割、などと言っている時点で、完全に消費者主導の食品業界の現実から乗り遅れているということです。

 

 ―改めて農協についての期待をお聞かせください。

 先日、台湾の里山に行ってきましたが、台湾ではやる気のある農業者が個々に努力をする気風が強く、その分だけ農協のような集団的な活動が盛んではないという印象を受けました。やる気のある農業者が農地をどんどん借りて、売れるものを作るので、農地の流通も早いし、日本のように未だにコメ依存というようなことはありません。
 ですが、農家が共同して設けた直売所はほとんどないのだそうです。競争心が強すぎて、共同で売ろうという意識が育っていないのですね。ですから企業に買い叩かれてしまうし、地域内資金循環も少なくなります。
 農協というのは、農家が集まって売る人を雇い、買叩かれるのを防ぐ、というところから始まったのではないでしょうか。同じく肥料や農薬などのコストも共同購入でできるだけ下げようというのが原点だったはずです。つまり草創期の農協は、地域内資金循環を増やそうとしていたのです。そういう原点を忘れず、常に原点に戻って努力するのであれば、農協がある日本の方が、機能していない台湾よりもいいと思いませんか?
 全部とはいいません。全体の2割が原点回帰を心がけるだけで、世の中のイメージが変わります。そのころには、「女性の役割」とか呑気なことを言っていないで、やる気があって努力する女性がリーダーシップを取っている農協が、2割には達していることでしょう。
 農協というと、都会ではむやみに批判されがちです。ですがそのほとんどは、農協を見たことも聞いたこともない人が適当に言っているのです。韓国にまったく行ったことがない人が韓国の悪口を言っているのとほとんど同じです。組合員が兼業農家ばかりだとも批判されますが、いなくなれば棚田は維持されず、治水費用などが全然違ってきます。
 地域内資金循環維持拡大という原点に立ち返って、正々堂々と活動し、決めつけを跳ね返す農協が全体の2割まで増えること、それを心から願っています。

 

【略歴】
(もたに・こうすけ)
1964年山口県生まれ。88年東大法学部卒。日本開発銀行、米国コロンビア大ビジネススクール留学、日本経済研究所出向などを経て、2012年から(株)日本総合研究所主席研究員。著書に『デフレの正体』、共著に『里山資本主義』(いずれも、角川oneテーマ21)など。

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