続・なぜ「ジャガイモ―ムギ―ビート」?【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第341回2025年5月22日

ジャガイモの後作として植えるムギ、これはイネ科の穀物であり、ナス科のジャガイモとはまるっきり性質が違う。したがってイモに寄生する病原菌や害虫の大半はムギに害を与えたりしない。ムギの後に植えるビートはアカザ科の植物なので、イモやムギにつく病原菌や害虫はビートを食べたりはしない。そのうち、イモに寄生する病原菌や害虫は自分の食べるものがないので、飢えて死滅するかどこかに逃げていってしまう。そのときにイモを植える。そうすると被害を受けることなく栽培できる。ムギもビートも同じことだ。違った種類の作物を植えている間に自分を好む病原菌や害虫がいなくなるので、また植えることができるようになるのである。
土壌成分については、それぞれの作物の好む養分が異なるので、輪作すればある成分だけ減って土壌養分のバランスが悪くなるのを防ぐことができる。イモの排泄物についていえば、ムギやビートを植えている間に、それが吸収してくれたり雨等で流亡したりしてなくなるので、三年目にはまた栽培することができるようになる。ムギ、ビートについても同様である。
このように、輪作つまり「作目の循環的交替」が畑作においては不可欠なのである。したがってもうかる作物があるからといってそれだけを栽培するわけにはいかず、あまりもうからない作物もつくらないわけにはいかないのである。
もちろん、できるならもうかる作物=人間の必要としている作物を多くつくりたい。それで病害虫に強い品種の育成や農薬による防除、肥料の投入などによる土壌成分の改良等々の努力をしてきた。
たとえばクロルピクリンという農薬で土壌消毒をして土壌病原菌や害虫をなくそうとした時期があった。それは一定の効果があり、連作を可能にした。しかし、クロルピクリンの毒性はきわめて強いので、連年散布しているうちに土壌の生物性を悪化させ、たとえば必要な土壌微生物まで殺してしまうので堆肥を播いても分解しなくなるなど、畑として利用できなくさせたり、畑の近くの住民、農作物や家畜などに悪影響を与えるなど環境問題を引き起こしたりしている(先に述べた島原半島でもそうした問題が起きていたが、今はそれをどう解決しているのだろうか)。
このように現在の技術水準ですべての作物を連作するのには限界があり、やはり輪作(作目交替)が必要なのである。もちろん他にも輪換(地目交替)も考える必要があるし(注2)、品種や栽培のしかたの改良で連作障害を回避していくことも必要となる。
こう学生に説明したのだが、実を言うとここで学生から反論が来るかと思った。
そんなことを言っても田んぼでは毎年連続して稲をつくっているではないか、つまり連作しているではないか、それを見ているから畑でももうかる作物を連作できるものと思っていたのだと。しかし残念ながら反論はなかった。今の学生は素直なのかもしれないが。
たしかに稲は連作されている。しかし、畑に植えられる稲(陸稲)は連作できない。水田で栽培される水稲だけが連作されている。ということは、水田の機能、そしてそこで使用される水の能力が連作を可能にしていることを示す。詳しくは後に改めて説明したいと思っているのでここでは省略するが、主食で連作できる作物は水稲しかない。水稲はきわめて貴重な作物だということができるのである。
という説明をしたりだが、この学生の研修でもう一つ考えさせられたことがあった。
農業に関心をもって入学してきた学生ですら連作障害を知らないのだから、都会の消費者のほとんどが知らないのではないだろうか。商工業だったらもうかるものだけ対象に生産すればいいかもしれないが、農業はそういうわけにはいかないのである。それ以外にも農業独特のさまざまな特殊性がある。しかしそうした農業の特殊性をほとんど知らない政財界人、マスコミ関係者、消費者が増えてきた。そして商工業の経営でやっていることがそのまま農業に通用するものと考え、農業の生産性が低く、所得が低いのはアメリカ農業のように規模拡大しないからだ、早急に規模拡大せよとか、農家には商工業のような利益を追求する企業的精神がないから農業が発展しないのだ、企業を農業に参入させろなどというものすらいる。こうした農業技術に対する無理解が、農業の常識に対する無知が日本の農業をだめにさせていないだろうか。
イモ―ムギ―ビート、このうちのどれか一つが栽培できなくれば、つまり輪作ができなくなれば、他の二つも栽培できなくなってしまう。
農業というものはあらゆるものが密接に関連して成り立っているものなのである。こうしたことを多くの人に理解してもらいたいものだ。
そんなことを考えたものだったが、あれからもう20年、あの輪作体系の作物が織りなしていた雄大で美しい北海道の畑作地帯の風景、もう一度見てみたいものだ。しかし、それは未練というもの、もう年齢、無理なのだ、そうわかっているのだが、ついついそんな思いがこみあげてくる、困ったものだ。
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