なぜ「ジャガイモ―ムギ―ビート」?【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第340回2025年5月15日
私が北海道網走市にある東京農大生物産業学部(オホ-ツクキャンパス)に赴任した最初の年(1999年、もう四半世紀も前になってしまったが)のことである。私の受け持つゼミの三年生の研修で網走市内の畑作農家におじゃました。そのときある学生が農家の方にこういう質問をした。
農家が今生産しているジャガイモ、ムギ、ビートの三作物のうちもっとも収益性の高いのはどれか、と。
そうしたら「ビート」だという答えが返ってきた。
学生はさらに質問を続けた。
それならなぜビートだけ栽培しないのか、収益性の低いイモやムギをなぜ生産するのか、と。
農家の方はそれに親切に答えてくれた。
ビートばかりでないのだが、作物を毎年同じ畑に栽培していると収量が落ちてくる、これを「連作障害」というが、それを避けるためにイモ―ムギ―ビートというように毎年違った作物を植えているのだと(注1)。
ちょっとショックだった。顔から火が出る思いをした。農大の学生が、しかも三年生にもなったものがこんな質問をするとは、連作障害も知らないとはと。農家の方に恥ずかしかった。
そこで研究室に帰ってから学生に聞いてみた、1~2年の講義で連作障害のことを習わなかったのかと。すると、経営系の学生のカリキュラムには自然科学系の講義がきわめて少なく、関心はあるのだが聞けない、だから知らないことが多いのだという。驚いた。それでその後のカリキュラム改訂のさいには自然科学の講義がもっと聴けるようにし、また農業技術に関する最低限の知識が得られるように「農業技術論」という講義を新たに設けることにした。
しかし、このゼミの学生にカリキュラム改訂まで待ってその話を聞けなどというわけにはいかない。
そこで連作障害について次のように説明した。
同じ種類の作物を同じ土地に連続して作付する(=「連作」する)と、その作物は次のような障害を受ける。
①病害虫発生の激増
ある種類の病原体(かび、細菌、ウイルス等)や害虫はある種類の作物にしか寄生しないが、そのある種類の作物を連続して作付けすれば、それに寄生する種類の病原体や害虫もしくはその卵が大量に土のなかに残り、それが次の年に植えたものに寄生してどんどん増え、耕地は病原体や害虫の巣になってしまって、作物は大きな被害を受ける。
②土壌成分バランスの崩れ
同じ種類の作物は同じ成分の養分を吸収するので、毎年同じ作物をつくっていたら、その作物に必要な養分がなくなってしまう。こうして養分のバランスが崩れれば当然作物の生育は悪くなる。
③作物の出す排泄物の蓄積
作物は耕地から必要な養分を吸収すると同時に、不要なもの、害になるものを耕地に排泄するが、毎年同じ作物をつくればこの特殊な成分をもつ排泄物が大量に蓄積して悪影響を与える(人間が自分の排泄物の糞尿を片付けないでおいたらどうなるかを考えたらわかろう)。
その他にもあるが、要するに同じ作物を同じ土地で何年も続けて作っていると「作物を育てる土地の能力」=「地力(ち りよく)」が低下して収量が低減し、最悪の場合には収穫皆無にすらなってしまう。
これは連作障害と呼ばれ、忌地(いや ち)(厭地)現象とも言われている。
こうした連作障害をどう回避するか。
そのために人間が考えた解決策の一つが「焼き畑」であった(注1)。さらに進んで「輪作(りんさく)」(同じ畑にいくつかの生物学的な性質の違う種類の作物を組み合わせて順次栽培し、それを繰り返すことで連作障害を回避する)であった。今述べた網走のジャガイモ―ムギ―ビートの輪作体系(注2)もその一つなのだが、これを例にして次回みてみることにしよう。
(注)
1.目的とする作物の栽培を何年間か休み、その間畑地を草地にしたり林野にしたりすることにより連作障害を回避するその昔のやり方の一つの「焼畑式」について下記の本稿掲載記事のなかで紹介しているので、参照されたい。
2022年5月5日掲載・本稿・第195回「戦後まであった焼き畑農法」
2022年5月12日掲載・本稿・第196回「今も残っている焼き畑」
2.北海道全体でいえば、イモ―ムギ―ビート―マメの四年輪作体系が一般的であるが、網走地域の場合気象条件からして大豆作が難しいことからイモ―ムギ―ビートの三年輪作となっている。なお、当時私の研究室にいた大学院生の0A君(現在は製薬関連分野で活躍している)が網走でも四年輪作で経済的、技術的ににやっていけるという論文を書き、北海道の学会で報告したことがあるのだが、残念ながら受け入れられなかった。地球温暖化が進んだ現在、もう一度四年輪作の導入を考えたらどうかと思うのだが、いかがなものだろうか、。
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