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我が国の水田農業を考える EUの直接支払制度と日本への示唆(上巻)、構造展望と大規模経営体の実証分析(下巻)

  • ●著者:星勉・石井圭一・安藤光義(上巻)、鈴木宣弘・姜薈・大仲克俊・竹島久美子(下巻) 星勉 監修
  • ●発行所:筑波書房
  • ●発行日:2015年1月
  • ●定価:各巻750円+税
  • ◎評者:阿部雅良 / JAみどりの代表理事専務

 TPPの交渉妥結に向けた作業が加速している今日、我が国の水田農業を今後どのように展開させるべきなのかという課題は、農政関係者のみならず我々農業者にとっても大いに議論すべき問題である。副題に、EUの直接支払制度と日本への示唆(上巻)、構造展望と大規模経営体の実証分析(下巻)を掲げる本書は、まさにこの問題を考える際に必要な基本的視点を与えてくれる。

地域固有の特質に着目 農村経営の視点も提起

 はじめに上巻は、「EUの農政改革と直接支払制度(石井圭一)」と「日本の水田農業政策の展開過程と直接支払い(安藤光義)」の2つの論文から構成されている。前者は、輸出補助金の削減を意図して1992年のCAP改革で導入したEUの直接支払制度がその後どのような変化を遂げながら今日に至っているのかを整理し、その上で我が国の直接支払制度を設計するにあたっては、直接支払いの正当性(公共性の認知)、地域間・作物間・規模間・経営間の公平性、地域の裁量、という3つを担保することが大切であるという。
 これを踏まえて後者では、減反から本格的な転作への転換、水稲による転作、生産調整と土地改良事業との関係等に焦点を当てながら、これまでの水田農業政策の要点を整理するとともに、CAP改革との対比を通じて日本型直接支払い制度の特色を浮き彫りにしている。とくに日本の場合には、EUと政策を展開する文脈(背景)が大きく異なっておりEUの制度をそのまま導入するのは適切でないこと、厳しい農業財政の下で新たな直接支払い制度を創設する予算を確保できないこと、担い手経営を下支えする予算の確保も必要であること、このため可能な限り広義の水田農業に関わる予算の増加をめざしつつ、限られた財源で最大の効果が発揮できるような、土地改良事業も含めトータルとしてバランスのとれた水田農業政策の構築が求められといると結論づけている。長年稲作に従事してきた一農業者として、いずれの指摘にも首肯するとともに強い共感を覚えた。
 次に下巻は「解題(星勉)」に続き、「稲作経営の『岩盤』問題と今後の構造展望」(鈴木宣弘・姜薈)と題する論文と、水田農業構造の先進地域の動向として「愛知県豊田市高岡地区での大規模水稲経営体の成長と課題(大仲克俊・竹島久美子)」と「長野県飯島町における地区担い手水稲経営体の展開(大仲克俊・曲木若葉・星勉)」の2つの論文、及びそれらの総括として「農業構造変動の到達点と課題(安藤光義)」と題する論文から構成されている。
 下巻は上巻と異なり実証分析が中心となっていることから、生産の現場にいる者としては読みやすい内容となっている。特に、豊田市や飯島町の取り組みは我が国の農業・農村を代表する事例であり、これまでも幾度となく見聞きしてきた内容であることから、農地集積や地域の担い手育成のポイント、さらに現在直面している課題の1つ1つが腑に落ち、今後「農村経営」を進めていく上で参考にすべき情報が数多く盛り込まれている。
 このように本書は、我が国の水田農業全体のあるべき姿を論じる機会だけでなく、それぞれ固有の特質を有している地域農業のあるべき姿を考える際にも共有しておくべき情報が存分に収録されており、農協の理事をはじめ関係機関や関係団体の役員及び農政担当者、さらには各地域の農業法人の経営者などにとって必読の書と思われる。一読をお勧めしたい。
 なお、生産現場にいる者として、これからの水田農業を考える上で、農業生産の技術革新と農地中間管理事業の展望は欠かせない。無いものねだりかもしれないが、これらを組み込んだ実証分析やシミュレーションに基づく水田農業政策の展望を期待したい。

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