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コラム:正義派の農政論

【森島 賢】

2014.06.09 
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 規制改革会議の農協改革案なるものに、農協の中央会制度を廃止せよ、というものがある。その焦点は全中である。つまり、全中つぶしである。
 全中は、いうまでもなく農協運動の中枢機関である。農協運動の目的を実現するためには、全中が必要だ、として全国の組合員の総意で、法律に従い、自主的、民主的に作った組織である。
 この総意に逆らって、強権的に全中を解体せよ、というのがこの改革案である。
 規制改革会議は、農協の民主的な決定を否定し、全組合員と敵対することになった。この会議は、民主主義を否定する人たちの巣窟のようだ。

 政府はこの提案を諌めるのではなく、いくつかの提案のなかから、唐突に全中だけを標的に取り上げ、この一点に農協攻撃を集中しようとしている。友情ある改革案ならともかく、問答無用で、権力的にバッサリと斬って捨てる、というのである。
 つまり、いまの国会で急いで農協法を変え、全中を法律的に否認しよう、と考えているらしい。いわゆる岩盤に穴をあけて、それをアベノミクスの具体的な、目に見える成果として宣伝したいのだろう。
 自民党は、明日までに改革案を決めるという。事態は切迫している。

 なぜ、そんなに焦るのか。それは、選挙が近づくからである。来年4月には統一地方選挙がある。それまでに残された期間は1年を切った。
 だから、このような反国民的な政策は、いまのうちに、なるべく早く決めてしまおう、という考えなのだろう。せめて今年中に決着させねばならない、と考えるのだろう。
 まことに乱暴で狡猾なやり方と言わねばならない。

 ところで、全中つぶしを提案した理由は何か。理由らしいものは「単協(赤字は筆者)が…自主的に地域農業の発展に取り組むことができるよう…中央会制度を廃止し…」というだけである。
 ここには、全中が地域農業の発展の妨げなっている、という間違った思い込みがある。それだけが理由である。
 これは事実に反した暴論だ。廃止という全面的な否定の理由はどこにもない。暴論どころか、論でさえもない。間違った思い込みからは、間違った結論しか出ない。
 深読みをしよう。この提案では、地域農業の発展は肯定しているようだ。だがそれは、単協が行うべきだとして、全国の単協が連携することは、理由もなく否定する。その一方で、農協間の連携は認めている。ただし、全中はダメだという。いったいこれは支離滅裂以外の何だ。

 経済活動から考えよう。独禁法を改めて考えよう。
 資本主義が発展するにつれて、少数の生産企業が、つぎつぎに他企業を打ち負かし、滅ぼして巨大企業に膨れ上がる。そうなると強者になった巨大企業が談合して製品の販売価格を勝手に決められる。価格を高くすれば、それだけ利益が多くなる。
 こうなると弱者である買い手が損をする。公正な取引ではない。だから、企業が談合して価格を決めることを禁止する。これが独禁法である。
 だが、それとは反対に、巨大な生産企業が成り立たない分野がある。農業がそうした分野である。ここでは農業者が販売価格を決められない。それどころか、逆に買い手の企業に買い叩かれる。これも公正な取引でない。農業者は、この場面で弱者になる。
 こうした弱者には独禁法の適用を除外して、理論的には一種の談合といえなくもないが、弱者である農業者が連帯して共同販売することを法律で認めている。それが農協であり、その中枢部に全中がある。
 全中の否定は農協の中枢部の否定であり、農協そのものの否定である。

 弱者が連帯することへの嫌悪は、資本主義が生まれながらに持っているDNAに深く組み込まれている。そのDNAを、いまの市場原理主義者が引き継いでいる。
 ついでに言っておこう。労働力の売買の場面でも、同じような状況がある。労働力を売る労働者は弱者で、買う企業の代表者の社長は強者である。ここでは、1対1の対等の交渉はできない。それでは労働者の価格、つまり賃金は値切られる。つまり公正な取引にならない。
 だから、弱者である労働者は連帯して、つまり談合して労賃の交渉をしてもいい、と法律で認めている。それが団結権であり、団体交渉権であり、労組である。社長は労働者の団体交渉を拒否できない。
 全中を否定する考えは、弱者の否定であり、労組の否定の考えにつながっている。この考えは、市場原理主義者のDNAに深く刻み込まれている。

 さて、全中はこれまで何をしてきたか。
 これまで全中は、農協運動の中心になって米価を上げ、また、農村に工場を誘致して兼業の場を作ってきた。その結果、農業者が世間並みに暮らせるようになり、戦前とは比較にならぬほど豊かになった。
 こうして、全中は農業者にとって、なくてはならぬものになってきた。全中をつぶす理由は全くない。
 その後も、小農切捨ての政策に反対し、弱者が農業で働いて、生活することを守ってきた。
 また、太田原高昭教授がいうように、住専問題のとき、多くの小規模な信用機関は破綻したが、破綻して解散した農協は1つもなかった。そうして世間に迷惑をかけなかった。全中が中心になって、万人が1人の迷える仲間を、仲間どうしで助け合ったからである。
 さらに、農産物の輸入自由化に反対して日本の農業と食糧を守ってきた。いまのTPP問題では、国民の先頭に立って反対運動を続けている。
 こうした農協運動が、強者である市場原理主義者にとって、いよいよ我慢ならぬものになったのだろう。

 全中をつぶしたい理由は、「地域農業の発展」の妨げだからではない。それは妄想だ。そうではなくて、強者が農協運動を我慢できない、と考えるからだろう。だから、その手始めとして、中枢部の全中に的をしぼって攻撃をしかけてきた。
 農協と政府との争い、というよいも根は深い。政府を操っている財界が、99%の弱者への搾取を強めようとする財界が、全中つぶしという怪しい号砲とともに、農協に全面戦争を仕掛けてきたのである。うす汚い割れ鐘が鳴り響いている。
 吹きすさぶ嵐の中の農協に対して、国際協同組合同盟に集まっている世界の10億人の人たちが、暖かい声援を送っている。止まない嵐はない。
 農協はいま、弱者である99%の国民の熱い期待を背負っている。もしも日本が民主主義国なら、勝利は99%の弱者の側にある。


(前回 全国の生協などが農協つぶしに抗議

(前々回 TPP交渉の中断

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