1億総ルンプロ化の危機【森島 賢・正義派の農政論】2024年5月7日
ある大先生が、以前、ある酒席で、「ルンプロは相手にしない」、とつぶやいたことがある。いまの若い人は、何を言ったのか分からないだろう。いまや「ルンプロ」は死語になったようだ。
これは、経済学の学術用語である「ルンペン・プロレタリア」を短縮した言葉である。労働者階級であることを自覚せず、労働の能力があるのに、ボロをまとい、一日中、道ばたに座って頭を下げ、「右や左の旦那さま・・・」といって施しを乞う労働者のことである。
ボロを着ていなくてもいい。ワイシャツを着ていてもいい。ネクタイを締めていてもいい。資本家と対峙して、賃上げと労働条件の改善を要求しない労働者はルンプロである。
「1億」は、政府が予測した10年後の日本の人口数を丸めたものである。人口学によれば、人口は国力を示す指標だが、日本は今後、少子化で人口が減り、国力が衰えていく。それだけでなく、多くの国民がルンプロになる。いま、日本は、そうした断崖の崖っ淵に立っている。
そして、そのことを本人は自覚していない。政治家は、この事態を直視せず、手をこまねいて傍観している。
上の図は、この惨状を示したものである。つまり、先進国クラブといわれるOECDに加盟する38か国の賃金を、多い国順に並べたものである。日本は25番である。ビリから数えた方が早い。日本は、そういう低賃金国になってしまった。
以前の日本は、「ジャパン アズ ナンバーワン」と畏敬され、いつも上位に位置していた。だが、その後、英独仏伊に追い抜かれ、オーストラリア、ニュージーランドにも追い抜かれ、最近は、隣りの韓国にも追い越されてしまった。
上の図は、日本の1947-2023年の超長期の実質賃金の図である。最近の26年間をみると、賃金が下がり続けている。
これは日本社会にとって、最も重大な事態だが、ここでは、日本の順位は、今後、さらに下げ続けるだろうことを、指摘するに止めておこう。
ちなみに、こうした状況の中で、アジアの出稼ぎ労働者の多くは、低賃金国に凋落した日本を見捨てて、高賃金で稼ぎの多いオーストラリアやニュージーランドや韓国へ行くようになってしまった。
◇
なぜ、こんなことになったのか。
低賃金国になったからルンプロになったのか。そうではない。ルンプロになったから低賃金国になったのである。
今年の春闘は官製春闘と揶揄されている。多くの労働者は、政府が資本家に圧力をかけてくれたので、満額回答が得られた、といって喜んでいる。
だが、それはルンプロたちが、政府と資本家に忖度して、当初から高額を要求しなかったからではないか。
こうしたルンプロ根性を捨て、アメリカの自動車労組のように、ストライキを構えて、ツバ競り合いの闘争をしなかったからではないか。
また、今年のメーデーだが、ルンプロの集まりである連合労組は、今年もメーデーを5月1日に祝わなかった。4月27日に祝ったのだが、資本家の代理人である岸田文雄首相を招待して、お祝いの挨拶を乞うた。官製春闘による僅かな賃上げに、感謝の意を表したのだろう。
◇
われわれ多くの国民が労組に期待していることは、ルンプロ根性を丸出しにして、僅かばかりの賃上げを獲得することではない。ルンプロ根性をかなぐり捨てて、激しい労使交渉の結果として、大幅な賃上げを獲得することである。
そうした中で、資本家は賃金の抑制ではなく、新しい技術の開発によって収益の増加を計るべきである。それこそを、経済発展の原動力にすべきである。
論理を飛躍させて言えば、そのことが、農業者の所得を大幅に増加させる力強い原動力になるだろう。
さらに、論理を飛躍させて言えば、日本の若者も、やがて米欧の若者のように、反戦運動に立ち上がるだろう。
日本が蘇生する日は近い。少子化などすっ飛ぶ日は近い。
(2024.05.07)
(前回 理念なき政争)
(前々回 若き新農協組合員へ、新農協職員へ)
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