若き新農協組合員へ、新農協職員へ【森島 賢・正義派の農政論】2024年4月1日
新年度を迎え、新しく農協の組合員になった若き諸君へ、また、新しく農協の職員になった若き諸君へ、君たちの人生の新しい旅立ちに、心からお祝いを申し上げる。君たちの前途には、無限の可能性を秘めた未来が、大きく開けている。
君たちに対して、日本の社会は何を期待しているか。
君たちは、どんな志を持って、日本社会の期待に応えようとしているか。
いま、日本社会は混迷を極めている。混迷のなかで、人々に明るい未来が見えていない。人々は格差と分断のなかで、互いにいがみ合っている。こんな社会は、根本から作り直さねばならない。
未来は、若い君たちの新鮮な目と高い志によって、どのようにでも作り直すことができる。それは、若者だけに与えられた特権なのだ。日本社会の未来は、君たちのものなのだ。
君たちの使命は、格差と分断を否定し、その根源にある資本の搾取を拒否する協同社会の建設ではないか。
◇
君たちの周りの農村はどうか。農村は、格差と分断とは無縁の社会である。それは、農村の先人たちが、歴史の試練に立ち向かって、営々と築き上げた協同社会である。それがいま、浸食され、破壊されようとしている。
破壊の先頭に立っているのは、市場原理主義である。経済の中に、あからさまな敵対関係を持ち込み、相手を不幸にすれば、その分だけ自分が幸福になる、という非人間的な哲学である。でも、さすがに心が痛むようで、相手が不幸になるのは、努力が足りないからで、それは相手の自己責任だという。そういう、いかがわしい免罪符を用意している。騙されてはならない。
だからといって、われわれは、市場競争を全面的に否定するわけではない。市場での切磋琢磨は社会を活性化して、発展の原動力になる。
しかし、市場原理主義は違う。それは、市場原理を唯一最高の行動基準にしている。そうして、市場競争のために何もかも犠牲にしている。彼らのこの世界は、弱肉強食の世界である。ジャングルの掟が支配している。
ここには、他人の幸福は、自分の幸福だ、という考えはない。
われわれは、「1人は万人のために、万人は1人にために」という協同主義の高邁な哲学をもっている。
それは、一人ひとりが協同体の仲間全員のために、持っている力の全てを尽くして懸命に努力する、ということを意味している。そしてまた、一人でも悩んでいる仲間がいれば、協同体の全員が力づける、ということを意味している。そうして、全員の、人間としての尊厳を、最高の高さに保とうとしている。
協同体は、こうした高邁な哲学をもっている。
君たちは、この高邁な哲学を現実の社会の中で実現するために、新しくこの協同組合の世界に入ったのである。
◇
君たちの農村のなかに、大会社の大資本家のように、秘書を従え、高級車を乗りまわしている先輩がいるか。君たちのなかに、そうなることを目指している人がいるか。いないだろう。
そうではなくて、大資本家が作り上げた差別と分断のなかで、我が世の春を謳歌する輩がいるという、そういう社会の在り方を唾棄するために、農協に入ったのではないか。それが初心だろう。
君たちは、この初心を生涯に貫き、理想の協同社会の建設へ向かってまっしぐらに突き進んでほしい。そうして、輝く未来を切り開いてほしい。妨げる者は蹴散らして進んでほしい。
君たちには、それだけの力がある。君たちの辞書には「不可能」という文字はない筈だ。
◇
君たちの前にある未来は、このように、大きく分けて協同社会と資本主義社会の2つがある。
この2つの社会の違うところは、根本のところで何か。
それは、経済のあり方であり、それは、生産段階で誰が生産を支配しているか、である。
資本主義は、私人である資本家が支配し、労働者を搾取して、私的な利益を貪る社会である。
協同主義は、これを真向から否定する。つまり、協同体の全員から選ばれた人格者に生産を委ね、協同体の全体の利益を追求する。そうして、全員で平等に分かち合う。これが協同主義である。ここに、搾取はない。
◇
こう言ってしまえば、すっきりする。しかし、現実は、それほどすっきりしている訳ではない。.それが理論の限界であり、経済学、社会科学の現段階での限界である。そして、現実の社会である。こうした中で、君たちは、協同社会の実現を目指す一員になったのである。
前途は厳しい。幾多の苦難が待っている。それは、資本主義の側から発せられる苦難である。その苦難の一つ一つを克服することが、君たちの目標に近づくことである。
当面は、地域の先輩や仲間たちとの協同であり、職場の上司や同僚たちとの協同である。そうして、全国を協同主義で埋め尽くす。これが、君たちに天から与えられた崇高な使命である。若い君たちには、それに応える力は充分にある。
君たちは、日本の宝である。日本の輝かしい希望の星である。
(2024.04.01)
(前回 農業者の全人間的関心)
(前々回 日本農業経済学会100周年記念大会に寄せて)
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