理念なき政争【森島 賢・正義派の農政論】2024年4月15日
最近の政治論争をみていると、いまの日本の最重要な政治課題は、カネと政治の問題のように論じている。
では、うす汚いカネと関わりのない、清廉潔白な政治が行われさえすれば、それでいいのか。そうではないだろう。
また、多くの報道は、自民党の誰それが、何円を不正不法に着服し、私腹を肥やした、などいう不快なことを、微に入り細に亘って、おもしろ可笑しく伝えている。そして、それが今の政治の最重要なことだ、と伝えている。
だが、そんなことは自民にとって、それほど大きな打撃にならないだろう。しばらくの間、我慢をしていれば、そのうち通り過ぎる、と考えているのだろう。
当分の間、自民の支持率は下がるだろう。だが、その分、野党の支持率が上がるわけではない。そのせいで、岸田文雄首相の危機感は希薄である。そして、ただ恥をしのんで延命を図っているようにしか見えない。
このような理念のない政争をみて、国民の政治に対する絶望感はつのるばかりである。
多くの国民が期待していることは、清廉潔白な政治さえ行われればいい、ということではない。その先にある政治である。ことに野党の政治である。
野党のカネ問題の追及は、それが目的ではないだろう。それを突破口にし、自公の政権を終わらせ、政権を奪取することが目的だろうか。それも違うだろう。野党の政治を実現することが目的ではないのか。
だが、この目的が、遥か遠くに霞んでいて、その輪郭さえ見えない。
国民が知りたいのは、この点である。野党が目指す政治は、自公の政治と、どこがどう違うのか。長い間つづいている労働者の賃金と農業者の所得の低迷を、どんな政策で上昇に向かわせるのか。自公の政治が、その政策手段にしている非正規雇用の規制を強化するのか、しないのか。そうして、格差と分断を解消するのか、しないのか。
◇
野党が、この国民の期待に応えて、伝えられないのは、そもそも野党の政治に、それが無いからではないか。無い袖は振れないように、無いものは伝えられない。
だから、多くの世論調査が示しているように、自民の支持率は下がるが、その分、野党の支持率が上がるわけではない。そうして、支持政党なし、という政治不信の人たちが増えるばかりである。
だから野党が、かりに、この機会を利用して政権を奪ったとしても、その政権は短命で終わるだろう。数年後には、自公政権が復活するだろう。
いったい、野党の存在理由は、どこにあるのか。
◇
そのことを見通せない国民は、自公政権に頼るしかない。せいぜい、弱者の抵抗を示して、僅かな実利を取るしかない。春闘がこれまでのような激しい労使交渉をしないままで、官製春闘と揶揄されるまでに堕ちた。
そうしている間に、自公政権は首相を米国に派遣して、中国包囲網を強化するための日本の軍事大国化を、着々と進めている。そうして、地球の反対側にある、遠い米国への従属関係を強め、近隣のアジアでの孤立を深めている。
その一方で、政治理念のない野党は、カネ問題に幻惑されたまま、激動している国際関係のなかで、手をこまねいて傍観しているだけだ。
◇
こうした政治状況は、農政分野にもある。農政に理念のない野党は、右往左往している。
いま、農政分野で最大の問題は食糧安保である。このことは、与野党とも認めている。
上の図は、政府がこんど国会へ提出した農基法案のなかで使っている「自給」と「輸入」の言葉の回数を、図案化して絵で示したものである。
この絵で示したように、法案は、「輸入」の文字で覆い尽されている。「輸入」は16回も使っている。だが、「自給」は2回しか使っていない。
これは、この法案が食糧安保の他国への依存、を基本にしていることを、象徴的に、分かり易く示している。非常時には、他国に頭を下げて、食を乞えばいい、というのである。これは、文字通り「乞食(こじき)」である。この言葉は、日本政府のために作っておいたのだろう。
日本の農政は、ここまで堕ちた。他国は、嗤っているだろう。
政府は、このようにして、食糧安保のための国内自給を捨て、食糧自給率の向上を捨てようとしている。そうして、食糧安保の美名を使って、日本農業を国内外の資本に捧げる生贄にしようとしている。
野党は、どうか。農政の分野でも、食糧安保の理念を持たないまま、惰眠を貪っている。
(2024.04.15)
(前回 若き新農協組合員へ、新農協職員へ)
(前々回 農業者の全人間的関心)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより『コラム名』をご記入の上、送付をお願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日