農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(66)【防除学習帖】第305回2025年7月5日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探っているが、そのことを実現するのに必要なツールなり技術を確立するには、やはりIPM防除の有効活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、IPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか探っている。
みどり戦略対策に向けたIPM防除でも、必要な場面では化学的防除を使用し、化学的防除法以外の防除法を偏りなく組み合わせて防除効果の最大化を狙うのだが、農薬のリスク換算量を減らせる有効成分や使用方法を選択できるようにするためには、農薬の有効成分ごとにその作用点、特性、リスク係数、防除できる病害虫草等を整理すると、より効率良く防除できてリスク換算量を減らすことができる道が探れると考えている。そのため、有効成分の作用機構ごとに分類し、RACコードの順番に整理を試みている。現在FRACコード表日本版(2023年8月)に基づいて整理し紹介しているが、整理の都合上、FRACコード表と項目の並びや内容の表記方法が若干異なることをご容赦願いたい。
28.KRI殺菌剤
(1)作用機構:[G]細胞膜のステロール生合成
(2)作用点: ステロール生合成におけるC14位の脱メチル化における3-ケト還元酵素
(3)グループ名:KRI殺菌剤(ケト還元阻害剤)(SBI:クラスⅢ)・グループコード:[17]
(4)殺菌剤の耐性リスク:低~中
(5)耐性菌の発生状況:無し
(6)化学グループ名/有効成分名(農薬名):
KRI殺菌剤には、ヒドロキシアニリドとアミノピラゾリノンの2つの化学グループがある。それぞれのグループに属する有効成分は以下のとおり
[1]ヒドロキシアニリド/フェンヘキサミド(パスワード)
[2]アミノピラゾリノン/フェンピラザミン(ピクシオ)
(7)グループの特性:
卵菌類を除いた多くの糸状菌は、病原菌の細胞内でエルゴステロールまたは類縁のステロール類を合成し、そのステロール類は、細胞膜の強度を保ったり、物質透過性や各種の膜酵素の機能を発揮する際に重要な働きをする。このグループ[17]KRI殺菌剤は、このステロール類の生合成を阻害し、病原菌の細胞膜が十分な強度を保てなくなったり、膜酵素が機能しなくなったりりして、正常な生育ができなくなって死滅する。特に発芽管の伸長と菌糸生育を強く阻害し病原菌の侵入阻止効果が強い。予防主体で使用することで安定した効果を発揮する。
同じグループでも、フェンヘキサミドは浸透移行性が弱く予防効果主体の薬剤であるが、フェンピラザミンは浸達性、浸透移行性に優れており、治療効果も発揮する。
子のう菌類である菌核病や灰星病、不完全菌類である灰色かび病などに高い効果を示すが、これら以外の病原菌には活性が低く、病原菌の選択性が強い。
本グループ以外の薬剤耐性菌にも効果を示し、本グループの耐性リスクは低~中程度であるため比較的安心して使用できるグループであるが、主要な防除対象である灰色かび病菌は耐性菌が発達しやすい菌であるため、本グループの単剤での連用は避けるなど、耐性菌対策を万全に実施する必要がある。
(8)リスク換算係数とリスク換算量削減の考え方:
この化学グループに属する有効成分はであるフェンヘキサミドのリスク換算係数は0.316で基準年出荷量に基づくリスク換算量は1.3トン、フェンピラザミンのリスク換算係数は0.1で基準年出荷量に基づくリスク換算量は0.1トンである。
このことから、基準年のリスク換算量も少なく、近年の出荷量もほぼ横ばいであることから、耐性菌対策を徹底し、過度の使用にならないよう注意しながら使用を継続する方が得策である。
(9)KRI殺菌剤の農薬登録がある主要病原菌一覧
KRI殺菌剤の農薬登録がある主要作物・病害名・病原菌別有効成分の一覧を次表に示した。他のDMI殺菌剤との表記に合わせるため、対象病害に登録のある有効成分を表記した。実際の使用前には必ず農薬ラベルにて登録内容(使用方法等)を確認して正しく使用してほしい。
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