観光地の熱海再生に学ぶ 新たな事業創造の実践【JA全中教育部・ミライ共創プロジェクト】2025年8月25日
JA全中は8月20、21日、東京・大手町のJAビルで令和7(2025)年度の「ミライ共創プロジェクト」の第1セッションを開いた。今年度は同プロジェクトに全国のJAから10人が参加した。
第1セッションの様子
地域課題の事業化とは何か?
同プロジェクトは、環境変化に対するJAのビジョンを組合員とともに描き、新しい価値(事業や活動)を創造・実践する経営人材の育成を目的に、40歳前後の次世代経営人材を対象に実施。年間を通じて、JAの外の現場から学ぶフィールドワークを行い、来年4月に成果を事業構想として発表する。
年間テーマは「私たちはミライのために、どのような価値を提供できるか」。第1セッションは「地域課題の事業化とは何か」を仮テーマとして実施した。
20日はJA全中の田村政司教育部長らによるオリエンテーションに続いて、Gensen&Co代表取締役の佐々木梨華氏による「事業創造による民間まちづくり会社の熱海再生」をテーマにした講演とワークショップを行った。
21日は、AgVenture Lab(アグベンチャーラボ)のメンバーによる「新しい価値創造とは何か」をテーマに、新しい事業創造の進め方などをワークショップで学んだ。
Gensen&Co代表取締役の佐々木梨華氏
民間まちづくり会社による熱海再生
Gensen&Co代表取締役の佐々木氏は企業研修会社を経て、2019年から地域創生プロジェクトを担う団体に移り、"複業"として熱海に関わりながら、新規に企業研修事業を立ち上げた。熱海を拠点とする企業研修では100社、1200人が導入した実績を持ち、今年4月に独立、起業した。
熱海の宿泊者は1960年代の560万人をピークに衰退し、2000年代には半減。銀座商店街など中心市街地はシャッター通りと化し、旅館・ホテルの廃墟も目立った。住宅の空室や高齢化、生活保護などの比率は静岡県内でもワースト。佐々木氏はその姿を「50年後の日本の姿」に重ね、「100年後も豊かなくらしができる街」に向けて地域課題のビジネスによる解決を目指した。
観光客の回復に向けて、まずは地元住民の意識改革を重視した。「オンたま」(熱海温泉玉手箱)プロジェクトで昭和のレトロな街歩きや海・山の体験ツアーを実施し、年間最大5000人が参加。約7割の住民が「イメージが変わった」と実感するようになった。
市街地再生は「補助金に頼らず、民間主導のまちづくり」を進め、街づくり会社(machimori)を設立し、空き店舗のリノベーションでカフェやゲストハウス、コワーキングスペースを開設し、歩行者天国でのマルシェも実施。宿泊施設は旅館やホテルのように客を囲い込まず、街全体の機能を活用する「まちやど」に位置付けた。
実践的な手法を解説する佐々木氏
2016年頃からは新たな出店も増え「何も用事がなくても、銀座通りに行けば誰かに会える」商店街へと変貌した。人通りは数倍に増え、特に10代、20代の若い観光客を集めている。2021年には商店街1階の空き店舗はゼロ、雇用や人口、地価も上昇し、観光客は2015年に300万人を超えた。「コミュニティーの再生」も進み「お祭りに地元の参加者が何倍にも増え、若い人が増えた。それが一番うれしい」と語る。
再生は小さなプロジェクトの積み重ねの成果だが、当初から時代に合わせて変化する熱海を構想し、ビジョンとして「熱海サードプレイス計画」を掲げている。サードプレイスは家でも職場でもない場所だが、熱海では「観光と定住の間のグラデーションある多様な暮らしができるまち」と定義した。
ビジョン実現のため、若い世代の定住の障害であった住宅問題にも取り組んだ。熱海は高級リゾートマンションと老朽化した「風呂もないアパート」に二極化し、単身者向けのアパートが不足していたからだ。
2019年に不動産会社を設立し、「借り手を先に決めてから希望に合わせてリノベーションする」という通常とは逆転した手法を採用。街の機能を活用する「まちごと居住」を進め、渚町エリアには銭湯も作った。
この間、グループの売り上げは大きく成長した。今後、目指しているのは「100万人1回訪れるよりも、1万人が100回訪れる街へ」だ。
課題の実践的解決策と「原体験」
熱海再生の経験も踏まえ、佐々木氏は「地域課題の解決」と「事業創出」の実践的な手法を解説した。①課題・対象を深く理解し、特に現場や当事者の1次情報に直接アプローチし、体験や観察を重視する。②課題の広がりと構造を理解する。③他の視点から考える。④仮説をぶつけて検証する。そして、こうした過程を「行きつ戻りつを繰り返す」ことの重要性だ。
その前提として、⑤「社会を変えるには、まず自分が変わること」を指摘した。「課題に挑むうえで、自分自身の揺るぎないミッションを見出す」ことで、困難があっても乗り越えられる力や情熱にもつながる。自己変革の根っこにあるのが「原体験から築かれた価値観や志、問題意識」。これが課題解決や事業創出の出発点になれば、「評論家にならず、自分事として課題の本質が見え始める」。
参加者によるワークショップ
後半に行った原体験を探求するためのグループワークを受け、佐々木氏は様々な体験を通じて「何に心が揺れたのか、自分に向き合い、何に対して思いを持って取り組めるのかを大事にしてほしい」と結んだ。
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